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恋物語の片隅で  作者: 那智
5月
14/64

お仕事中です

欲しい本があるのだが近くの本屋に置いていない。

だけども遠くの本屋に行く気力がない。そんな今日この頃。

本日俺は生徒会室にて初仕事に勤しんでいた。

今生徒会室にいるのは俺と白波先輩のみ。二人きりである。だからといってドキドキしたりはしない。

ちなみに紫苑と黄野は二人で歩いているのを目撃したため空気読んで放置してきた。つまり現在俺は孤立無援である。

といっても仕事の量は少ない上に簡単なものばかり。

具体的に言えば書類を種類別に纏めたり各部活からの用具の購入申請をリストに纏めたりといった雑用である。

なんでも白波先輩曰く生徒会が忙しいのは学校行事がある時ぐらいであとは雑用なんかをしているらしい。

というかそれ以前に所属したばかりの新人に複雑な仕事任せたりしませんよね。当たり前か。


「どうですか? なにかわからないところはありませんか?」


「いえ大丈夫です」


仕事が進む一番の理由は白波先輩はさっきからこまめに俺を気にかけてくれているからだけどね。基本的に穏やかな性格と合いあまってとても良い先輩である。

でも真面目さ故に几帳面なところがあり割と細かいのでこの辺で好みが分かれるだろう。

何回か白波先輩のことを「オカン」と言いかけた俺は悪くない。

想いは言葉にしなくては伝わらないのだからこの場合言わなかったのだからセーフである。


「そういえば」


「なんですか?」


「白波先輩は何故俺達を推薦したんですか?」


ずっと気になっていたことだった。

紫苑に関しては『物語』のイベントで知り合い、彼女の人となりを見て判断したのだろうが俺や黄野は白波先輩との接点はなかった。

ならば何故名指しで呼ばれたのか。

というか『物語』でも生徒会に黄野が選ばれた理由がはっきり描写されていなかったらしいのでその辺が知りたい。


「ああ、それなら高倉からあなたたちのことを聞いたのですよ」


また紫苑か。

最近紫苑経路での情報流出が激しい気がする。


「もちろんそれだけじゃありませんよ?」


「あ、そうなんですか?」


「当たり前でしょう。 生徒一人の意見で生徒会のメンバーを決めたりしませんよ」


まあ常識で考えればその通りだな。そんなほぼ独断のような決定がされるはずはない。


「黄野に関しては仙石先生から推薦をされたからですね」


「仙石先生がですか?」


まさか仙石先生、黄野と紫苑の距離を縮めさせるために推薦したんじゃありませんよね?


「はい。 仙石先生は人を見る目がありますしちょうど運動部の人間が欲しかったので選ばせてもらいました」


なるほど。まともな理由でよかった・・・。


「なら俺が選ばれたのはなぜですか?」


俺はその前日に騒ぎを起こしているのだ。いや俺はどっちかっていうと被害者だけども。

そんな生徒を生徒会に入れるのは正直どうかと思う。


「あなたを選んだ理由は先日の騒ぎが関係してるんですよ」


まさかのだよ。

マイナスポイントだと思っていたらプラスポイントだっただと!?


「あの騒ぎの際、あなたは一切手を出さなかったと聞いています。 あの場で暴力に走らなかったのは非常に評価できますよ」


いや手を出さなかったのは前世の恩師の『喧嘩になったらたとえ殴られたとしても絶対手を出すな。殴られた分は喧嘩が終わってから被害者面して学校規模の問題にしてやれ』という教えを実践したに過ぎないんですけど。

こんなエグい教えを実践して評価されてしまうのはなんだか申し訳ない。


「それに赤海に灸を据えることができましたからね」


・・・あー、納得した。


「あなたが手を出さなかったおかげで今までは喧嘩両成敗となったりしてうやむやになっていた赤海の暴力行為が表沙汰になり理事長の耳まで届きました」


「そういえば赤海先輩がいろいろ問題起こしても処罰されなかった理由には理事長は関わってなかったんですよね?」


「ええ、理事長の心証を良くしようとした一部の教師が独断で赤海の問題行動を報告していなかったのが原因のようです」


うわぁ、大人の世界って汚い。

だ、誰かピュアを!ピュアをよこせ!


「ですがもう大丈夫ですよ。 その教師は減俸半年の上で徹底的な再指導を行うそうですからね」


チッ、懲戒免職にはならなかったか。

しかしゲームの世界もアレだな。画面外でこんなことが起こってたと思うと夢が壊れてしまう。

というか俺が生徒会候補に選ばれた背景がエグいわ。

うん、この話はもうやめよう。

俺の精神衛生上よくない。


っと、そんなことしてる間にプリントの仕分けが終わったな。

エグい話をしながら仕事を終わらせると達成感が限りなく微妙な感じになるけど仕事が終わったことには変わりがない。

つか結局来なかったな紫苑と黄野。仕事少なかったからいいけど全部押し付けられた感が・・・。

よし、今度は俺が仕事を押し付けよう。


「終わったようですね。 ではお茶でも飲みましょうか」


え?でもお茶なんて買ってきてませんよ?これって俺がパシらされるフラグ?

そう思って白波先輩の方を向くとなんと白波先輩の手にはティーセットが!

てかなんでこの生徒会室そんなもん常備してんの?

明らかに場違いっていうか書類にかかったらやばいから退避させんと。


俺が書類を片付けている間に白波先輩が慣れた手つきでお茶を入れていく。

しかしこのティータイム本格的である。どこから出したのか知らんがお茶菓子まであるし。この空気じゃ麦茶飲みたいとか言えない。どうしよう。

正直に言うと白波先輩ってばお嬢様口調の小鳥遊先輩より上流階級っぽい。

いやよく考えたらストーキングしてる時の小鳥遊先輩と比べればその辺にいた人の方が上流階級だったわ。

そんなことを考えている間に俺の前にティーカップが置かれた。


「どうぞ。 紅茶で大丈夫でしたか?」


「大丈夫です。 いただきます」


ちなみにこの大丈夫は「紅茶は好きです」という意味ではなく「紅茶を飲んでも死んだりはしません」という意味である。

しかしいただきますとは言ったものの優雅に紅茶を飲み始めた白波先輩を見てると紅茶飲むにもなにか作法があるんじゃないかと思えてくる。

だが俺はそんなものは知らない。というか存在してるかどうかすら知らない。

やはりアレか?香りを楽しんでから飲んで、飲み終わったら「結構なお手前でした」とか言えばいいのだろうか。

この作法を実践した場合の問題は明らかに茶道が混じっていることだ。


「固くならなくていいんですよ。 普通でいいんですよ普通で」


白波先輩はその普通のレベルが高すぎるんです。

まあ普通でいいというのならそうさせてもらおう。なるべくゆっくりとカップを口に運び紅茶を口に含む。


「・・・うまい」


「それはよかった」


白波先輩が淹れてくれた紅茶はおいしかった。惜しむらくはまともな比較対象がないことか。

俺が今まで飲んだことがあるのはペットボトルに入っている類いのものだけなのだ。なんだか損した気分になった。今度カフェかなんかで紅茶飲んでみよう。




「あれ、黒田くん?」


白波先輩とお茶を飲みながら雑談をしていると青葉先輩が生徒会室に入ってきた。


「なんでここに?」


そういえば青葉先輩にはまだ生徒会に入ったことを伝えてなかった。別にハブったわけではない。


「私が生徒会のメンバーに選んだんですよ」


「正確にはサポートメンバーですけど」


「そう・・・なんですか?」


なんか青葉先輩、白波先輩に対してぎこちない。

天文部メンバーとはだいぶ打ち解けているけど同じ生徒会の白波先輩とはあんまり打ち解けてないのか?

俺たちよりも活動している時間は長いはずなのになあ。

よし、その辺聞いてみるか。わからないことがあったら聞く。それが俺のポリシーだ。

青葉先輩を白波先輩から少し離れた所に引っ張って行きそこで声をひそめて聞いた。


「あの青葉先輩」


「なに?」


「青葉先輩って白波先輩とはそんなに仲よくなかったりします?」


「・・・相変わらず黒田くんって質問がストレートだよね。 うん、まあちょっと苦手かな・・・」


青葉先輩に苦手じゃないタイプの人がいるかどうかは疑問だったがそれはともかくやはりまだ距離があるらしい。

普段ならば「なら仲よくなりましょう」とでも言っているところだがちょっと躊躇う。

今更だが彼らは近い将来恋敵になる関係である。

学年も同じでフォローしやすい黄野なんかの場合とは違って何かあった時に俺が間に入ってのフォローも十分にできそうにない。

中途半端に仲が良い故に一層仲が拗れるのが一番恐いのだ。


『物語』では複数人数同時攻略のエンド―――所謂ハーレムEDというものはなかった。

好感度を複数人数同時に上げることによって現実なら起こりうるはずの修羅場はこのゲームにおいては想定されていなく、なので複数人数の好感度を同時に上げたからといって特殊なイベントが起こることはない。

しいていうなら黄野の宣戦布告イベントぐらいだろうか。いやあれだって黄野の好感度が二位の場合発生するというだけなのだから厳密には違うが。


だが現実では違う。

攻略対象たちが紫苑を深く想うほどほかの攻略対象との仲は拗れるのではないだろうか。

実際、紫苑と一番仲が良かったとはいえ恋愛感情云々がない俺が赤海先輩に殴られるという『物語』ではなかったはずのことが起こったことからも可能性は十分にある。

一度このようなことが起こってしまった以上は警戒度をMAXにしておかなければならない。

はっきり言ってギスギスやドロドロなんていうのは死んでも御免である。

自分が巻き込まれるのはもちろん、友人たちがそんな雰囲気になるのも嫌なのだ。


だがらといって好感度があがらないようにするという選択肢はないだろう。

こういう恋愛ゲームではありがちなのだが攻略対象たちが主人公との交流の中で攻略対象たちが持っていた欠点を改善していくというシチュレーションがある。

この『物語』においてもそういう成分は含まれている。しかも多量に。


ここで一度攻略対象たちの欠点を確認してみよう。


赤海先輩はぶっちゃけ社会不適合者。あの性格のまま社会に出たらたぶん孤立ってレベルじゃない。

白波先輩は・・・まあ問題はなさそうだ。でも無意識のうちに他人にも自分と同じレベルを求める癖があるらしいからそれを改善しないとなんやかんやで孤立しそうだ。

緑川先輩はナンパ趣味ぐらいだったら別に・・・いや世の中にはイロイロ重い人だっているんだ。そういう人に粉かけたらそのうち刺されそう。

青葉先輩・・・とりあえずコミュ症どうにかしないとね。いや最近はそこまで酷くないみたいだけど。


うん、一部を除けば放置していいってレベルじゃないんだ。

ちなみに黄野だけはそれらしい欠点がなかったりする。まあ現状においてはあいつ致命的に間が悪いから差し引きゼロだけど。

『黒田純』も欠点はあったけどその欠点は俺がこうしている時点でなくなっているからたぶん問題ない・・・と思う。


どちらにしても今言える事はこれからは胃が痛くなるのが多くなりそうだ、ということである。

とてつもなく先行き不安である。せめて今ぐらいはのんびりさせてもらおう。

そう心に決めた俺は白波先輩と青葉先輩の緩衝材になりつつティータイムを楽しむのだった。

さて次は及川さんと小鳥遊先輩、どちらの話にすべきかな?


簡易キャラ紹介


■黒田純

後日、徳用サイズの胃薬を購入した。


■白波泰斗

黒田は忘れていたが彼もそれなりの家の出身。


■青葉奏 

人見知りは未だ健在。


■小鳥遊百合奈

未だに黒田からはストーカーのイメージを持たれている。

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