第46話 水掛け論は争いの元です
「では『雇用契約書』を義務付けるのはどうですか?」
「うん。これは良いと案だと思うよ。アリサに言われるまで契約書というのは領主同士とかしか作らないと思ってたけど、不当な扱いを受ける人間を減らせるなら素晴らしいことだよ」
ワイン伯爵は頷く。
「契約書は雇用契約書だけではなく商売の取引などにも必要不可欠です」
「そうか。そうかもしれないね。口約束だと証拠にはならないし……」
「そうです。それに文書で残しておかないと後で「言った」「言わない」の水掛け論になって争いの元です」
「そうだよね。これは大事なことだね」
そう、公務員は「言った」「言わない」の水掛け論になるのを防ぐため契約書や会議の議事録などを作成する。
客観的な証拠があれば無駄な争いにはならない。
人間の記憶とは曖昧なモノだ。故意じゃなくても忘れることがある。
だけど場合によってはそのやることを忘れたために事業に多大な損害を与えることもあるから水掛け論にならないようにするのは当然のことだ。
「でも具体的にどんな契約書を結ぶんだい?」
「契約書にはこちらで契約書を作成する際に必要な項目を決めておくのです。給料についてや休暇についてとか労働時間についてなどの項目は必ず入れることみたいな」
「なるほど」
「そしてその後にその職業についての特有の条件の項目を足してお互いが同意でしたら同じ契約書を二部作成してお互いのサインをします」
「ふむ。それなら安心だな」
ワイン伯爵は私の言葉をいろいろ考えている。
「そして一番大事な条項を最後にいれます」
「一番大事なこと?」
「はい。『この契約書にない出来事が起こった場合は契約者同士で話し合いで決めること』という条文です」
「それが大事なことなのかい?」
「そうです。お父様。世の中は何が起こるか分かりません。そういった不測の事態になった時にこの条文が必要なのです」
そう世の中には不測の事態が起こることはある。
契約書では基本的なことしか決められない。
なので不測の事態になったら契約者同士が話し合いをして双方の同意でその不測の事態にどう対応するか決める。
これは契約書では重要な条文だ。
「そうか。不測の事態になった時に契約内容通りに物事ができるわけないもんな」
「そのとおりです。お父様」
「じゃあ、その必要な条文は誰が決めるんだ?」
「私が素案を作成するのでお父様がチェックして決めましょう」
「分かった。そうしよう」
これで不当に扱われる労働者は減るでしょう。
「次は女性の活用についての件で保育園を作るのはいかがですか?」
「うん。これには賛成だ。アリサを見ていて女性でも仕事ができることは分かっているし」
「そうですか。それでは施設は村の一部の建物を使って行うことで経費を削減しますが保育園で子供を見る人間を雇わないとですわ」
「そうか。なるほど。どれくらいの人数になりそうだね?」
「それは試験的に保育園を一つ作ってからその効果や実情に合わせて保育園を増設した方がいいでしょう」
そう、なるべく新規事業は最初は試験的に行い、費用対効果を調査してその事業にお金をかけた方が無駄にならない。
保育園制度がこの世界に馴染むか分からないし。
「分かった。そうしよう。ではまず伯爵家で雇う事務員を増やそう」
「え? なぜですか?」
「だって全てをアリサが決めてそれに必要な事務をしていたらキリがないだろう? アリサの指示を受けて書類作成する事務員は必要だ」
本当にワイン伯爵は柔軟な考えを持っているわ。
「善良」過ぎるのが心配ではあるがワイン伯爵は私が提示することに全て従う訳ではなく、私の気付かなかったことも指摘してくれる。
確かに私が一日にできる事務量には限度がある。
ならば作業的なことは他の人がやった方が効率がいい。
それに人材育成もできるし。
ありがとう、お父様!




