第151話 高位貴族の同意が必要です
クラシック公爵からの協力の約束を取り付けた私は次の日もう一人の攻略相手のホット公爵を訪ねた。
ホット公爵の屋敷は王都の外れの方にあったがその分クラシック公爵の屋敷よりも大きな敷地と歴史を感じる建物だった。
ジルの話ではホット公爵邸は元々は王族の離宮として使われていた屋敷らしい。
ホット公爵家の歴史は古く王族との縁戚関係も深いとのことだった。
私が馬車を降りると使用人の人がホット公爵のいる部屋まで案内してくれた。
中に入るとそこは応接室ではなく中庭に面した太陽の光が多く入るように設計された部屋だった。
部屋のソファに一人の男性が座っている。
金髪に青い瞳の50代前半くらいの男性だ。
どこか優し気な笑顔を見せて私を迎えてくれた。
「ようこそ。首席総務事務官様。私はランバート・ホット公爵です」
「初めましてホット公爵様。私はアリサ・ホシツキ・ロゼ・ワインです。どうぞアリサとお呼びください」
私は丁寧に頭を下げる。
「なるほど、お噂どおりに美しい方ですな。どうぞお座りください」
「ありがとうございます」
私はホット公爵の前のソファに座ってホット公爵の顔を見る。
先ほどと変わらず優し気な笑顔で私を見つめている。
だが、私の直感が告げる。
この笑顔は曲者だわ。
「それで私にお話があるとか?」
「はい。実は公爵様のお力をお貸し願えないかと思いまして伺わせていただきました」
「ほお。私の力?」
ホット公爵の笑顔は崩れない。
「はい。実は私はこれからこの国のいろいろな制度改革などを考えています。今、話を進めているのは『高位貴族の納税』に関してです」
「高位貴族の納税?」
「はい。事業は何をするにもお金がかかります。なのでまずは現状の慣例で納税をしていない侯爵以上の者にも納税をしてもらうつもりです」
「ふむふむ、なるほど」
「根拠はダイアモンド王国の法律書では『国民は等しく納税の義務を負う』とあり、侯爵以上の者も『国民』である以上納税の義務があるからです」
「そうですな。法律書では確かにそうなっておりますね」
ホット公爵は話す言葉も丁寧で笑顔のまま私の話を聞いている。
「ですがおそらくこの話は高位貴族からは反発されると予想されます。なのでその高位貴族の方々を説得するのにホット公爵のお力を貸していただけないかと」
「そうですか。しかしなぜ私の力が必要なのですか?」
「え? それは……」
私は思わず言葉に詰まった。
ホット公爵は笑顔のまま言葉を続ける。
「法律で決まっているならそれを行えばいいではありませんか。高位貴族が反対してもアリサ様の後ろにはブラント王太子とゼラント王子がいるのではないですか?」
この人、私がブランやゼランに好意を持たれているのを知っているのね。
確かにブランやゼランの力を使えば高位貴族は最終的には従うだろう。
しかしそれでは高位貴族の不満がブランやゼランに向いてしまう。
王族が自分勝手に政治をしたらその国に未来はないわ。
「いえ、公爵様。この案件は高位貴族の方々の同意が必要なのです」
「なぜですか?国王や王太子の命令に従うのは当然のことですが」
私はホット公爵の瞳を見つめる。
この人には小細工のような話は通じないわ。
私の『信念』で勝負ね。
「公爵様にお聞きしたいのですがこの国にはなぜ法律があるのでしょうか?」
「法律がこの国にある理由ですか? さてなぜでしょうか」
ホット公爵は笑顔のまま私に問い返す。
「この国は国王様を頂点にした王政制度ですが『法律』は民を守るためにあると私は思います」
「ほお。民を守るためですか」
「はい。国王様に権力が集中しているのは私も首席事務官として働いてからよく分かったことです。ですがその権力を国王が個人の考えだけで行使するような国では永い繁栄はありえません」
「それはなぜですか?」
「国は『国王』だけで成り立つモノではなく『国民』がいて初めて成り立つモノだからです」
「なるほど。『国民』がいるから『国』が成り立つということですか」
ホット公爵から笑顔が消えた。
「そうです。そして国王や王族が暴走して国民を苦しめないようにこの国には『法律』があるのだと思います」
「ほお。そうかもしれませんね。しかしそれと『高位貴族の納税』に高位貴族の同意が必要ということと何か関係がありますか?」
「あります。法律を守ることは国民にとっては義務のようなモノですがこの国のように身分制度のある国ではその身分制度を無視しての『法律』の力の行使は危険です」
「それはなぜかな?」
「高位貴族はそれぞれに権力や財力を持ち、もしこの高位貴族の意思を無視して無理やりに『法律』で決まっているからと国王が従うように命令した場合、その不満は国王や王族に向かいます。そしていずれはその不満がクーデターを起こすことになるかもしれないからです」
そう。高位貴族は『国民』の中でもそれぞれが権力や財力を持った者たちだ。
その高位貴族を敵に回すのは得策ではない。
少なくともこの国が身分制度のある国である以上、王族に対する不満を高位貴族に持たせてはいけない。
クーデターが起こったら多くの民が傷つくことになるかもしれないし、それを機に三大国がこの国に攻め込んで来るかもしれない。
そうなったらこのダイアモンド王国は滅びるだけだ。
「なので今回の『高位貴族の納税』には高位貴族の方々の同意が必要なのです。そしてホット公爵様はその高位貴族を説得できる立場におられる方だと伺いましたのでぜひ協力をお願いしたいのです」
私はホット公爵を真っすぐに見つめた。
するとホット公爵は僅かに口元に笑みを浮かべる。
その笑みは先ほどまで浮かべていた仮面のような笑みではなかった。
「なるほど。私は首席総務事務官殿をみくびっていたらしい」
「え?」




