森の賢者は相手にせず。
「はぁ、全くいい加減にしなさいよ」
数日前、帝国と王国の双方の騎士達をカエルに変えた後、この森の中には互いの騎士達が足を踏み入れる結果となってしまった。
私は結界を張って、あれからこの家から出ていない。ずっと魔術を使っているのは私もつかれるんだけど、見つかるのも面倒だから今回は幻術系の魔術も使って、家の位置をばれないようにしてある。
精霊達に少し見てきてもらったんだけど、何でも帝国も王国も私を仲間にしてこの戦争で勝ちたいらしいのだ。
『森の賢者』っていうその名は、王国が本を出してたこともあって少なからず有名になっている。
帝国も王国もこの戦に勝ちたいと思っている。
そして『悪魔』と『救世主』という化け物を使って戦っているが、互いに奪い、奪われを繰り返しており勝敗がきっちりとつかないのだ。
直接対決は、二つの国とも何か思う事があるなら起こらせてはいないのだが…。
だから新たな武器がきっと欲しいのだろう。だから私を味方につけるというか、利用したいと思っているのだと思う。
味方につけようと思って、きているわけで森で必要以上に暴れたりはしてないしとりあえず面倒だから現状は放置している。どうせこの森に長期間とどまる事は普通の人間には結構難しい。
「『悪魔』か……」
帝国の『悪魔』。アキヒサと同じだけの働きをしている人間。
私もアキヒサも規格外の存在だ。長い時の中を永遠と生き続ければならないだけでも、異常。それなのに…、『悪魔』はアキヒサと渡りあえている。
「……もしかしたら、同じなのかしら」
『悪魔』は強大な魔術を連発しているらしい。それだけでも、少なくとも魔力量が一般的に見て遥かに多いのは予想出来る。私やアキヒサと同じようにもしかしたら長寿な人間かもしれないとふと思った。
とはいっても5年前に『悪魔』が突然現れたっていう事らしいから、色々と実際に話してみないとわからないことだけけだ。
『悪魔』も『救世主』―――アキヒサも人を殺していると聞く。敵兵だろうと、人を殺しているのだ。本当に性格が変化したのだろうか、と正直に思う。それとも葛藤しながら戦争に関与しているのか。
正直に言うと、昔の私のようになってしまいそうな予感はしている。
『悪魔』に関しても、『救世主』に関しても。永遠とうまくいくっていう事はありえないことだし、世界は常に変化し続けているものだから。
『悪魔』が進んで戦争をしていたとしても、期待にこたえられなければ切り捨てられるだろう。幾ら強いとはいっても毒などにはきっと勝てないだろうし、殺せないって事はないのだ。
出る杭は打たれるものであると思っているし、王族に関してもある特定の人物が圧倒的な力と指示を得ていたとしたら自分の身をは案じて排除したいと望むはずだ。
英雄は、所持している国の駒であると思う。
英雄が居るから他国が攻めてこないという抑止力になる。英雄が王族に友好的ならば英雄を慕う者達も国のために働いてくれるだろう。英雄と呼ばれる者には、少なからず利用価値があるものだ。
それを理解した上で英雄としてうまくやっているなら問題はないが、理解してないなら破滅するだけな気がする。
それか他国に英雄をとられたくないからと、王族の内に取り込んだりとかもしそう。
でも少なからず時が経つにつれて、老いない人間への恐怖心は増していくだろうと思う。誰かと恋愛するにしろ、友情を結ぶにしろ、対等な関係では居られないと思う。それに誰が、自分だけが老いていくというのに一生を共に過ごそうと思うのだ。中には居るかもしれないけれど、自分だけが老いて、相手はずっと若い姿のままというのは何とも言えない気持ちになるものだと思う。
私が既にただの人として見られず、『賢者』なんて大層なもの扱いされてるのと同様アキヒサと、もしかしたら『悪魔』だって人として見られなくなるだろう。『悪魔』に関してはわからないけれど。
『セイナ様ー、家の周りに居るよ?』
『放置するのー?』
そんな精霊達の言葉に軽く頷く。関わりたくなどない。国同士の争いなんて面倒以外言い様がないことだし、私は現状でアキヒサや『悪魔』に接触する気は一切ない。
アキヒサは自分で選んだのだ。人と関わる道を。
心配する気持ちは少なからずあるが、結局心配をするだけだ。
まぁ、色々と現状が変わったら違うかもしれないけれど。
それにしてもと、遠見の魔術を行使して外の様子をうかがう。
帝国の人間はともかく、王国の人間―――王家は私の家の位置を把握しているらしい。まぁ、何度か此処に王国の人間がやってきたことがあったし知られているのは仕方がないことだとは思う。
それで周辺に王国の人間が居るんだけど、何だか呆れてしまいそうになる。
王国も帝国も、アキヒサや『悪魔』っていう互いにとっての英雄だけでは足らないのかと。元々はアキヒサや『悪魔』のような存在は二つの国には存在していなかったはずだ。英雄が生まれた時、国は歓喜したはずだ。
それでも、それだけじゃ満足できなくなったのだろう。私を仲間にしたいと望むという事は。
結局人は現状じゃ満足できなくなる生き物なのだと思う。だから昔も私にしつこく迫って助言を聞くだけでは満足できなくなって、私を道具で服従させようとしたりもしていたのだ。
もっとよくしてほしい、って欲望は少なからず誰にでもあるだろう。
「はぁ、めんどくさい」
遠見の魔術で王国の騎士達を見ながら私はぽつりとそんな言葉を言い放った。
きっともっと面倒なことになるその予感はひしひしとしていた。
―――森の賢者は相手にせず。
(彼女はめんどくさそうにそこにいる)




