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私は世界を見に飛び出す。

 私の名前はアレイシア。

 家名はなく、ただのアレイシア。お母さんとお父さんも家名を基本的に名乗らないというか、必要としていない。

 私の住んでいるアウグスヌスの森は、ハイエルフの住まう聖域と認識されている場所だ。

 私にとっては100年も住んでいる森だからそんな実感はないけれど、この森は中々危険らしい。

 私にとっては魔術の試し場で慣れ親しんだ場所だからそんなふうに言われてもよくわからないんだけどね。でもお父さんには『自分の常識は普通の常識ではない』って言われたの。

 私はまだ100年しか生きていないって認識なんだけど、アウグスヌスの森の外に住まう人間って人種は100年足らずしか生きていけないんだって。何だか正直実際に見るまで実感は分からない。だって100年生きて長生きしたっていうなんて信じられない。

 私が外を知らないからかもしれない。

 お母さんもお父さんも私も、そしてアキヒサ小父さんもこの100年何も変化がない。私が交流を持っているのはその家族やアキヒサ小父さんだけで、ここには外の人は全然訪れない。

 それもお母さんのせいだって聞いてる。というより家にあった本に少なからずお母さんの事も書かれてたから知ってる。

 『ハイエルフ』っていう私たちの種族は確認されているだけで四人しかいないんだって。

 お母さんなんて私の七倍近く生きてるんだ。

 私は正直、この狭いアウグスヌスの森って世界だけじゃなくて、外の事も知りたいと思う。

 ここは確かに穏やかなんだけど、私は見たことない場所を見にいってみたい。それに私はもう100歳なんだもん。1人でだってやっていけるはず。

 最も外の世界に行きたいって言ったら、お母さんには猛反対された。お父さんはそんなお母さん見て苦笑してたけど。

 お母さんは人が嫌いなんだ。

 お母さんもお父さんも魔術の腕とか凄くあって、私が一度も勝てないぐらい強いんだ。

 そんな両親は昔利用されそうになったり色々大変だったんだって。だからめんどくさがりのお母さんは周りと関わりたくないと思ってて、お父さんは今の暮らしで満足してるんだって。

 お母さんが反対してるのが、心配しているからだってわかった。

 お母さんは他人に冷たい人だけど、身内には優しい人だ。私の事もちゃんと可愛がってくれる。まぁ、自分に火の粉がかかってくるんじゃないかとも思っているみたいだけど。

 実際聞いた話によると、お父さんとアキヒサ小父さんが起こした事件でお母さんが関わることになってアキヒサ小父さんも半殺しにされたってきく。

 ……私もあまりにもお母さんに甘えて頼ってばっかりだったら、そうなるんだろうなと思う。お母さんって容赦ないからね。

 お母さんとお父さんの話を聞いて、外と関わるのが大変ってのもわかる。

 昔は特にハイエルフやエルフ、竜族、獣人といった人間以外の種族がいなかったって聞くから長寿な両親は色々大変だったんだと思う。今は長寿でもそういう種族だからで終わるけど、昔は人間という括りの中で長寿だったのだというのだから。

 でも、大変でも私は外を見たかった。

 だから、何度も何度も2人に外に行きたいっていった。

 お父さんはまだ気持ちがわかるからといってくれたけど、お母さんは中々いいよとは頷かない。

 ようやくお母さんが折れてくれたのは、外に行きたいといいはじめて10年ほど経ってからだった。

 「いい? 外に行くんだったら下手な権力者にかかわっちゃだめよ。利用しようっていう馬鹿はいつの時代にもいるんだから。一つの国の味方をするというより、一つの国だけと関わっていくこともやめなさい。貴方は私とフランツの子供で、ハイエルフなんだから。一つの国にアレイシアが味方をしているって事実だけでも他国への脅し材料になるのよ」

 仕方がないという風に折れたお母さんは私に向かってそう言い聞かせた。

 実際にアキヒサ小父さんは一つの国と関わりすぎて面倒な出来事になったらしい。私達は他の種族と違って老いない。そして力を持っている。だから権力者には近づかない方がいいらしい。

 「もちろん、アレイシアを利用しようって人ばかりじゃないかもしれない。でも仮に仲良くなったとしても途中から友愛が恐怖に代わることもあるわ。人は時が経てば変化していくんだから。

 お金を稼ぎたいならそうね…、国から独立しているギルドにでも登録しなさい。一応あそこはどの国にも属さないことになっているし、国からの関与があるなら少しはかばってくれるはずよ」

 ギルドは今から二、三百年前に出来た二つの大陸に存在する独立機関だ。いわゆる何でも屋で、それは国には属さず、もし戦争に加担するならギルド登録を一旦排除するようになっている。

 だからこそお金を稼ぎたいならそこに登録するようにお母さんはいっているのだ。

 「それでもし貴方が自分の意志で権力者と関わったり、人と仲良くするっていうなら私は何も言わないわ。でも、行きすぎた行為をしたら叱りに行くから覚悟しておきなさい」

 「はーい」

 きっとお母さんの事だから私がバカをやらかしたら、すぐに場所を突き止めてやってきて実力行使で叱ることだろう。

 でも殺す前に叱るがあるからまだいいと思う。

 容赦のないお母さんの事だから、どうでもいい人物相手ならすぐに殺しちゃうだろうから。

 お母さんやお父さんから忠告を聞きながら、私は旅の準備をした。

 通貨はお母さんが時折本を買いにいくためにとってあるものをわけてくれた。というか、お母さんは滅多に外には出ないけど魔術書とか本とかは買いたいからって最近は時折エルフの里で魔術を行使してお礼として賃金を受け取ったりしている。前は昔稼いだ分を使ってたらしいけど、何百年もこもっていたら減ってきたらしいのだ。

 エルフも迫害されていたこともあって大抵里から出ない。もちろん、里の外に行く若者は居るにはいるけど迫害された記憶のある年配者達は特に人の街には行かないときく。

 まだ竜族や獣人の方が人にとってなじみ深いだろう。最も竜人も獣人も人より寿命は長いけれども。

 それもハイエルフと称される両親やアキヒサ小父さんの知名度も原因である。ハイエルフはエルフの上位種とされているために、エルフは竜人や獣人と違う意味でも有名なのだ。

 中にはハイエルフを信仰しはじめた宗教も出てきているというのもアキヒサ小父さんから聞いたことがある。最も本を買いにしか外に行かないお母さん達じゃそういう情報にも疎いらしいけど。

 そういうわけでハイエルフを信仰する宗教にとってはエルフもそういう対象らしい。私が外にでてハイエルフってばれたらそういう宗教にちょっかいだされるかもしれない。それで神様扱いされても困るなぁ。何かやらかしたのはお母さんとお父さんとアキヒサ小父さんだし、私は何にもやってないからね。

 「それとアレイシアと仲良しな精霊も一匹つけとくから何かあったら頼りなさい」

 お母さんは何だかんだで心配性だと思う。

 この森の精霊ってやろうと思えば人を一瞬で燃やしつくしたりとか出来るほどの力を持ってるのにそれを私につけるなんて。確かに私は世間知らずだけど、戦闘面では普通にやっていけると思うんだけどなぁ。

 まぁ、そんな事を考えながらもどんどん準備期間は過ぎていき、外に飛び出す日となった。










 「じゃ、お母さん、お父さん、いってきまーす」

 「元気でやりなさいよ。あと人と付き合っていくなら上手く立ち回りなさい」

 「がんばれよ。いつでも帰ってきなさい」

 私の言葉に、お母さんとお父さんが笑っていった。

 いつかは帰ってくるよ。私が見て回るのに満足するか、疲れたら。だから、またね、お母さん、お父さん。

 私は世界を見てくるよ。

 思い出話も沢山してあげるから、待っててね。





 ―――――――――私は世界を見に飛び出す。

 (私は見たこともない場所に行きたいし、経験しないと分からないことも沢山経験したいんだ。だから、お母さん、お父さん。私は世界を見てくるよ。帰ってきたら、思い出話をするからね)





これにて番外編も完結とさせていただきます。

此処まで読んでくださりありがとうございました。

よろしければ感想を頂ければ嬉しいです。



2013年1月6日 池中織奈。

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