森の中での暮らし。
『悪魔』、フランツsideのその後の話です。
アウグスヌスの森。
それが今僕がセイナさんとアキヒサさんと一緒に暮らしている場所。精霊達が溢れていて、穏やかな場所だ。
セイナさんがあの日周りに強く言ったためにこの場所は聖地とされ、入りこむ人間はまず居ない。外から人に干渉されない場所と化したこの場所は何処までも平和だ。
僕が操られていたのも、アキヒサさんが戦争に加担し続けた事実も全てなかったような、夢のような感覚になるのは此処が平和だからかもしれない。それでも僕が操られてたとはいえ、人の命を多く奪ってしまった事は確かで、時々その夢を見る。
恐ろしい夢。人の命を自分の手で奪ってしまった記憶は僕の事を苦しめる。
セイナさんにそれを言えば、セイナさんにもそんな時期があったとそういっていた。正直、セイナさんにもそんな時期があったと言われて信じられなかった。
だって今のセイナさんは驚くほどに躊躇いのない人だったから。僕はセイナさんの容赦のなさを間近で見てしまった。あの容赦のなさが怖くないといえば嘘だった。でもセイナさんは僕が同じ存在だという理由で助けてくれて、僕を守ってくれている存在だ。それに帝国から助けてくれたのもセイナさんだから感謝してる。
セイナさんは怒らせる事をしてくる人間以外には何もしない。手を出さなければセイナさんは無害なものだ。
だから僕はセイナさんを怒らせようとは思わない。そもそも僕は戦闘なんてしたくない。この場に人が入ってこないから此処は殺し合いとは無縁で、平和なんだ。どれだけ長い月日を僕が生きていかなきゃいけないかわからないけど、ただこの森の中でのんびりと暮せればいいなぁとは思ってる。正当防衛のためにも魔術はセイナさんに習ってるけれど。
「セイナさん、此処って…」
そして今日も僕はセイナさんに魔術を習っていた。アキヒサさんも一緒にだ。
セイナさんにボロクソにやられてから、アキヒサさんは真面目に魔術の勉強をしようという思いになったらしいのだ。目覚めてから、僕とアキヒサさんは共に魔術を学んでいる。
とはいっても最初は僕とアキヒサさんはぎこちなかった。
僕は操られていたとはいえ帝国の『悪魔』として生きていた。そしてアキヒサさんは王国を守ろうと動き王国の『救世主』として生きていた。
帝国と王国の戦争中、僕たちは互いにとって最大の敵だったのだ。僕は操られていてそこまで思考は回ってなかったけれど、少なくともアキヒサさんにとっては守るべき王国に被害を与える敵という認識だろう。
まぁ、セイナさんに仲良くするようにと言われて、少しずつ交流していって今では普通に喋るぐらいにはなっている。
「此処は、この魔術構築式を使えばいいの」
セイナさんはこの森の中でずっと一人で生きていたのだ。その間は精霊達とのんびりと、魔術の研究をしながら生きていたと聞いた。セイナさんがこの世界で生きて数百年。セイナさんは世界をずっと見てきた。魔術の知識量も他の人とは比べられないほどものがある。
それを考えると本人は賢者呼ばわりとかにうんざりしていたけれど、セイナさんが賢者っていう認識は間違ってない気もする。セイナさんは周りから逸脱しているし、老いる事もない。大量の知識を所持しているのも賢者って名にぴったりな気がする。
ただ僕の問いかけを聞いて、簡単にその答えを導き出せるのが凄いと思う。魔術に必要な知識も大量にあるのに、きっとセイナさんは誰よりも魔術によって知ってるんじゃないかなって気分になってくる。
しばらくして魔術の勉強が終えれば、僕はこの世界の事が知りたくてセイナさんに沢山の事を聞く。人を躊躇いもなく殺めるようになりたいとは思わない。それでもそれだけの心の強さがなければ長い時を孤独を抱え込まずに生きていけるはずもない。
僕が操られる事もなく、綺麗なだけの世界を知っている状態ならきっと僕はセイナさんを非難したかもしれない。地球での常識が少なからず僕の中にはあったから。でも大量の魔力を持ち、老いない僕たちは周りからすれば利用価値と影響がありすぎる。
だから僕はセイナさんに話を聞きながら、この世界での僕のあり方を考えて居る。先は長い。時間はたっぷりあるけど、僕は速く強さが欲しかった。
ちなみに食料は森での自給自足がほとんどだ。セイナさんは魔術書を買うため以外では森の外には出ないし、僕らが騒動を起こしてまだ数年しかたっていないから買い物でも外に行かない方がいいとも言われたし。
だから僕とアキヒサさんで今、森に獲物を狩りに来ている。モンスターを殺すのも怖いと思ったけど、セイナさんに「居候なんだからこれぐらいやりなさい」と保護されてしばらくして放り出されてからもうすっかり慣れた。
「アキヒサさん、あれ狩ろう」
僕が指をさしたのは、赤色の毛皮を持つトラのようなモンスターだ。地球での虎よりも一回り大きくて、地球の僕なら真っ先に食べられて終わりのような恐ろしいモンスターだ。
アウグスヌスの森には沢山のモンスターが徘徊している。セイナさんが人が来ないようにとちょっと生体をいじってモンスターを強くしたりしたらしいから普通の人にとっては十分驚異的なモンスター達だ。でも僕らには問題はない。
ただ魔術を行使してぶつける。
それだけである程度のモンスターを殺す事が出来る。自分の力が怖いと思う。でも使い方を知らないのが一番恐ろしい事な気がする。
狩りを終えて帰れば三人でご飯を食べる。
魔術の勉強をしたり、狩りをしたりとのんびりとした暮らしを僕は気にいっている。トリップなんてわけのわからないものしたからこそ、この世界が何が起こるかわからない事を知ってる。このままずっとのんびりと危険な事なしに暮らせればいいと思うけど、もし何かが起こったらのんびりとした生活を守れるだけの力が手に入ってればいいなぁとただ思うのだ。
なるべく長くこんな平穏な生活を送りたいと思う。どれだけ長く続いてくれるかはわからないけれども、それでも――…、帰れない僕の居場所は今は此処なんだから。
――――森の中での暮らし。
(トリップしてしまった事実は変わらない。経験したからこそ、居場所があるだけでも彼は安心してる。ただ、彼は平穏な暮らしが続く事を望んでる)




