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旭日に顔を上げよ  作者: 寿和丸
11章 混乱の幕開け
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87話 金本位制

浜口の政策のもう一つの柱が「金解禁」だった。

「金解禁」とは金本位制に戻すことだった。浜口内閣で大蔵大臣を務めた井上準之助は日銀出身で、財界とも太いパイプを持ち受けが良かった。

井上の考えでは日本経済は借金体質で、政府の財政も国債に頼ることが大きい。当時の日本では国内に国債を引き受ける資金力のある金融機関がなく、どうしても海外の金融機関から国債を引き取ってもらうしかなかった。ただ、日本に信用がないと国際金融機関から国債を買ってもらえなくなる。日本の信用を高めるには金本位制になることだと考えた。

世界大戦前まで、世界の通貨は「金」との交換可能だった。世界の金保有量はおおむね一定量で維持されていて、そんなに変動しないので、金と交換可能なら通貨の信用を保てると考えられていた。通貨が金との交換可能であるかぎり、景気の動向も一定の範囲内に収まるはずと考えられていたのだ。

ただ、大戦が始まると国際間での金の移動が困難になったばかりか、ヨーロッパ諸国では軍事費が増大し、金本位制を停止してでも通貨の供給量を増やさざるを得なかった。

大戦が終わり、経済が安定すると、世界各国で金本位制に戻す動きが始まる。井上は主要各国が金本位制に戻る中で日本だけが戻らなければ、信用を無くしてしまうと考えた。

「金本位制に戻さなければ、日本は立ち遅れる」


「金解禁することにより、貿易を活発化させ物価を安定させる。主要国がすでに金本位制に復帰しており、懸案となっていた金解禁を行います。」

「日本には旧来の商業慣行も残り、不採算企業もある。そのような会社は国際化に乗り遅れていますし、存続させる意義はありません。これらを退出させ、産業構造を高度化させます。製糸業と綿紡績業中心の経済ではいつまでたっても日本は先進国に追いつきません。重化学工業などを伸ばしていかなくてはなりません。」

「貿易が安定すれば鉄鉱石や綿花といった原材料の輸入がしやすくなり、重化学工業が発展するでしょう。これによって、日本は面目を一新して世界の市場に乗り出していけます。」

井上の説明に浜口も納得する。


もう一つの浜口達の狙いは軍事費の抑制だった。

金解禁をするには健全な財政運営が必須になる。それが軍部のわがままな軍拡要求を拒否できる理由になると考えた。

「軍部の予算要求は、我が国の財政を全く考慮しないことがある。そんな軍部の要求を突っぱねるには健全財政がよい盾になります」井上は自信もって説明する。

当時の日本は、世界の大勢が金本位制度に復帰していたにもかかわらず、管理通貨制度を行っていた。

管理通貨制度では、それぞれの国が独自の判断で通貨を発行できる。したがって自国の金庫の中に「金」がなくとも、紙幣を発行することが可能となる。ただし、無制限に通貨を発行すればインフレになってしまう。どのくらいまでの通貨を発行すれば、インフレにならないのか見極めるのが難しい、なかなか面倒な制度だ。そして収入不足なれば、原則として国内外から公債という借金で穴埋めをする。

戦争などで国家予算が膨らむ時は便利であるが、平時においてはインフレを招きやすい。公債とは国の借金だ。一度はじめてしまうと、借金を重ねるのが常となる。

それに対し『身の丈』に合った額の通貨しか発行しないのが金本位制度と言える。この場合の『身の丈』は、それぞれの国が持っている金の量できまるから、インフレになりにくいし、軍部の要求を撥ねつけることが出来ると考えた。


金解禁を断行したとき、日本は13億6千万円分の金をもっていた。この額をもとに計算して、発行すべき通貨量を決まる。

後は円とドルの為替レートが問題となった。

浜口と井上はこれを大戦前と同じにした。当時の為替レートに比べ円高ドル安にしたのである。これは輸入企業にとっては良いが、輸出企業にとっては利益も減り、打撃となる。財閥など大企業にとっては都合がよく、中小企業や労働者・勤労者には厳しいものとなる。井上は全国を遊説し金解禁の意義を説き、国民の納得を得る努力もしました。事実ほぼ同じ時期に行った衆議院選挙で与党の民政党は過半数を獲得している。


国が多額の国際を抱える姿は、当時と今でも借金に苦しみ、同じと言える。ただ、当時と今では大きく違うものがある。それは国内に国債を引き受けられる金融機関が存在していることだ。

日本は当時と比べお金を銀行などに預けている国民が多くいる。そのお金を使って金融機関は国債を引き受けている。言って見れば国内だけで国債を償却できているのだ。

国が借金を多く抱えているのは問題だとよく言われている。確かに健全財政からは今の日本の国家財政は大きく離れている。ただだからと言って、すぐにも健全財政にするべきと言うのは少し“財政健全論者”に耳を傾け過ぎのように思えてならない。

例えは間違っているかもしれないが、ある家族で息子が家を建てようとした時、資金を親が負担すると言い出したとする。

「銀行なんかで借りると利子を取られて損だから、私が金を出すよ。その代わり老後は頼むよ」親は息子の肩代わりを引き受けた。

つまり、外から金を借りずに家族の中だけで金を回そうとする。息子にすれば銀行からでも親からでも借金に変わりないが、家族として見れば借金を銀行などの外からしているわけでないので、借金は“ゼロ”と言えるのだ。

今の日本の財政もこれに似ているように思えてならない。日本政府は借金をしていても、日本国民から借りているので、海外からの借金はほぼ“ゼロ”の状態です。それどころか、日本は長年黒字貿易をしており、多額の債権を海外に持っている。

これで、日本政府が膨大な国債を抱えているから危険だと主張していることに、私はそのまま鵜呑みにできない。


話は横道にそれたが浜口内閣は30年1月に「金解禁」を断行する。その影響は次の話にしましょう。




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