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旭日に顔を上げよ  作者: 寿和丸
11章 混乱の幕開け
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86話 協調外交

浜口首相は「いくら軍備を拡張しても国力の差から英米と戦って勝利することは不可能である」と言う考えから国際連盟との協調を目指していた。中国との関係修復による緊張緩和が軍備縮小につながり、貿易の活発化になると考えていた。

これを実行したのが、幣原しではら喜重郎外相だった。


幣原は大阪の高等中学から浜口とは同級生で、以後東大法学部まで一緒と言う、机を並べた仲だ。

浜口が大蔵省に入省したのに対し、幣原は農商務省に入るが間もなく外務省に転じ、以後外交一筋に活躍している。

大戦後、アメリカ合衆国大統領ハーディングの提唱で開かれた、ワシントン会議「国際軍縮会議」においては日本の全権委員を務めるなど、アメリカとの協調に努めている。以後も国際協調を基本として活動している。

加藤高明内閣で外相として初入閣し、若槻1次、2次内閣、浜口内閣でも外相を包め国際協調を推し進めていた。

前にも話したように、26年に支那に対しても蔣介石しょうかいせきが国民革命軍率いて北伐を行ったが、内政不干渉を貫き、アメリカとともにイギリスによる派兵の要請を拒絶している。

そして、27年3月に南京事件が発生すると、日本邦人にも被害が出たにも拘らず、穏便な処置で済ませ、蒋介石には厳重な取り締まりを約束させている。だがこうした姿勢は軍部や政友会からは評価されないばかりか、閣内でも宇垣一成陸相などから政策転換を求める声などが上がって、若槻第一次内閣が崩壊すると一旦、頓挫した。

そして、浜口内閣の登場で外相に就任すると、協調外国を再び推し進めようとしていた。


30年にロンドン海軍軍縮条約を締結させるのだが、国内では軍部からは「軟弱外交」と非難されてしまう。これが後で述べるように「統帥権問題」として国内政治を揺るがすことになる。

支那とも関係修復をすすめ、米英とともに中国国民政府を承認、それを支え成長をはかる友好協力方針をとります。中国が押しつけられていた不平等条約の改正を支持、日本の企業の利益を守りつつ関税自主権の承認にふみきり、治外法権についても段階的な解消の方針をめざします。


ただ、彼は国内海外の情勢に十分配慮していたのかと言えばそれは「否」と言わなければならないだろう。

まず、支那が日本のこのような外交措置をあまり評価しなかった。

支那の国内は民族運動が盛んとなり、日本排斥を訴える運動が活発しつつあった。幣原外交が支那の主張を受け入れる姿勢を見せると、より日本排斥運動が盛んになってしまった。実際に国民政府は日本からの利権回収を目指すばかりか、日本が実質経営する満州鉄道の経営を揺るがしかねない、平行線を施設するなどしようとした。日本が譲歩すれば、より支那が進撃する形となり、日本の権益は脅かされていく。そしてこれを米英も協力的だった。

このような支那との外交状況に陸軍や右翼などの勢力は「日本の権益を守らない『軟弱外交』である」と非難する。また野党政友会とも連動して批判を強める。


宇垣陸相と会談していると、どうしても政治問題に触れることになる。

「俺も内閣の一員だから、外相のやり方に不満を口にするのはどうかと思うが、やはり外相のやり方には支持できない」

宇垣は若槻内閣で、幣原とは衝突して、それが若槻内閣の崩壊につながった要因にもなってしまっており、外相への不満を自重していた。ただ正平と二人きりになると、つい不満を言いたくなってしまう。

「いかに国際協調が世の習いとは言え、こうも譲歩、譲歩では日本の世論を抑えきれない。譲るべきところは譲るが、外相の言い草だが、取るべきところは取って欲しい」

「それもありますが、軍内部の不満は相当高ってます。もう少し配慮も必要でしょう」正平も抑えた口ぶりで答える。

「我々としては、軍の不満をできるだけ抑えるしかあるまい」

「ええ、そうですね。ただ世界は軍縮への流れに動いています。でも日本国民はこの動きをよく理解していません。なぜ、日本が譲歩するのか少なくても説明しないとならないでしょう」

「それが難しいのだよな」

浜口首相も説明をしようと、ラジオにも出て演説している。これは国民には好意的に受け止められているが、正平の目にはこれだけでは不満は収まらないと見ていた。

「国際協調は大事だが、それは日本の国益を守ってのことだ。幣原外相の姿勢で日本は支那からの権益を失うばかりか、英米からの信頼を失っているのではないのか。外交において重要なことは国民から支持されていることだ。日本の国益が損なわれるような時には、少なくても国民になぜこのような外交をしなければならないのか、説明する必要がある。その説明なしに国益を手放せば、政府は指示を失い、外交交渉はうまくいかない」

正平は政治批判を表に出さないようにしていたが、不満は持っていた。

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