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旭日に顔を上げよ  作者: 寿和丸
9章 震災
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63話 再会

正平は大戦で新兵器となった自動車や飛行機の威力を知るために、大戦が始まるとすぐにヨーロッパの戦況などを見ておきたかった。

それがシベリア出兵などと重なり、この時まで待つことになってしまった。

それなら、桑原の言うようにじっくりと視察した方がよいと考えた。

結局部署の都合と準備などもあり出立は翌年の春となった。


当時のヨーロッパ、特にパリは大戦で大もうけしたアメリカ人が大挙して進出していた。

アメリカ人にとり、花の都で金を使いまくることは、勝者の気分を味わっていたのではないだろうか。

札びらを切ればパリジャンたちが次々に寄って来る。

大戦で儲けたアメリカ人にとり、大したお金でもないのに、フランス娘が眼の色を変える。

アメリカ人はこの世の春を満喫していた。


そんなパリの様子を横目に戦場になった地域をくまなく歩き、新兵器の使われ方などをじっくり観察していく。

大戦から5年経ったとはいえ、各地には戦争の傷跡が到るところにあった。

「これだけ深い塹壕を良く掘ったものだ」フランス国境地帯の塹壕は埋め戻されつつあったが、それでもまだ埋め戻されないままのものが残っている。

中には深さ10m近い物があった。

「これだけ、深く掘れば砲撃に耐えられたのか」

ドイツ軍は英仏軍の砲撃が始まれば塹壕深く反撃もせず、じっと耐えていた。そして英仏軍が油断して近寄ってきたところを機銃で一掃している。そんな戦い方をして、ドイツは英仏より戦力が劣っていたにも関わらず、互角以上の戦い方をしていた。

そのドイツの塹壕対策として登場したのがイギリスの開発した戦車だった。始めて登場した戦車にドイツの塹壕は吹き飛ばされた。

残念ながら、現地で使われた戦車を見ることが出来なかった。

故障、破壊されたものは既に綺麗に撤去されたし、無事に活躍を終えたものは軍事基地にしまわれていた。

正平は足を延ばして、戦車を製造した工場にも出かけている。

無限軌道と呼ばれる起動輪、転輪、遊動輪を囲むように一帯に接続された履板までが一体となって、不整地で急傾斜の場所にも難なく走破出来る。そして装甲に覆われてあらゆる銃弾を跳ね返していった。実物の戦車を見さしてもらって、正平は実感する。

「戦車は今後、陸戦の主役になり、今後大型化し、装甲が厚くなる」と言うことだった。

「大型化し装甲が増せば重量が増える。今のエンジンでこれに応えられる物はすくない。エンジン開発が急務になるな」


飛行機は空中戦を華々しく繰り広げて、人々の話題となっていた。

「撃墜王」などと呼ばれた英雄達を新聞で多く取り上げられてもいた。

だが、当時の各国の被害状況を調べてみると飛行機の与えた損傷は意外に小さい。

「まだ飛行機は歴史が浅く、どのように使えば効果的な損害を与えられるかも分かってない。逆に言えば、飛行機をうまく開発できれば、この世界の覇者にもなれるはずだ」

正平に何が今後の開発に必要か、十分なヒントを与えてくれると感じていた。

そのようにして、戦場跡から軍需工場、各国の軍事基地へと歩き回って、軍人などにも接触していた。


4カ月の欧州視察の後、次に向かったのがアメリカだった。

「ドイツは大戦中殆ど海外で戦った。敵国に攻め込まれなかったのだ。それだけドイツ軍は強かった。だが、アメリカはそのドイツを物量で全て上回ったから勝てた」

アメリカはあらゆる軍需物資を自前で前線に供給できる力を備えていた。

ドイツが海外から物資を調達できなくなって、武器糧食に不足をきたしたのとは大違いだ。

砲弾から銃器、そして鉄兜から兵士の靴そして食料品まで、あらゆる面でアメリカ兵はドイツ兵よりも優位だった。

ドイツは多少の兵器の優秀さや戦術で一時的に勝っても、アメリカの物量作戦の前には敵わなかった。

そのアメリカ物量作戦の源は工業力であり、自動車産業だと思っていた。

「日本では自動車会社が育ってない。日本の自動車会社が育つのを待っているのでは日本陸軍の近代化は遅れる」

正平は日本を発つときから、アメリカの自動車会社を日本に呼ぼうと決めていた。

その一番手がフォードだ。

「フォードに何としても日本に会社を作ってもらい、大量生産、品質管理のノウハウを日本に植え付けて欲しい」そう言ってフォードに接触する。

「ミスターツカダのお話は真剣に検討して見ます」フォードの幹部に会い意向を説明し、彼らも前向きな反応を示したが、すぐに日本進出までの話にはつながらない。

フォード幹部も膨大な投資には慎重になり、すぐに良い返事をくれないのだ。


「どうしようか?」フォード幹部とこれ以上会合しても進展はない。ホテルでコーヒーを飲みながら一案を練っていた時、新聞に目を落とすと懐かしい名前が載っていた。メアリ=フォークナーだった。青島で会った新聞記者だ。彼女の名前を地元紙に見つけた時、思わず懐かしさを感じる。

新聞社に問い合わせると、彼女の方から会いたいと言ってきた。ホテルの待合室で彼女と会うことにする。

簡単な挨拶とこちらに来ている理由などを説明し合った。

彼女は青島からの帰国後、ニューヨークの新聞社で記者として働き、今はシカゴでフリーのジャーナリストになっていた。

「あの時の資料は助かったわ。新米記者の記事が載せられたのは日本から送られた写真のインパクトが大きかったからよ。おかげで私は注目されるようになり、他の記事を何度も載るようになった」青島で帰った早々、他社の誤報をすっぱ抜いたことで彼女はオーナーから随分褒められた。

「こちらこそ、君の記事によって日本の悪評は払しょくされたのだから感謝しかないよ」

彼女は2年ほど前新聞社を辞め、こちらに移ってきたのだと言う。

「フォードに日本進出を持ちかけているのだが、良い返事は貰えない」

「フォードは今、大きな工場を建設予定よ。日本にまで手を広げ切れないのではないかしら」

彼女によって、フォードの内部事情も分かった。

フォードの日本進出は難しそうだ。結局、正平の提案はすぐに実行されなかったが、2年後には実現の運びとなって来る。正平の訪米の目的は一応の成果がでた形となる。


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