42話 女性新聞記者
今回は短めの話です。
始めは次の話と併せて書き進んでたのですが、分けた方が後の展開が面白くなると考えました。
ドイツ側が降伏し、1週間ほど立った頃だった。
「少佐、この女性の言葉が分かりません。」若い兵士が困った顔で一人の外国女性を連れてきた。他の日本将校はドイツ語を話せ、中国語も分かる者がいるが、通じなかったようだ。英語やロシア語を話せる正平なら何とか出来るかと思ったのだろう。
「私の名前はメアリ=フォークナーです。
アメリカ人で両親とともに清国に来ていたのですが、戦争が始まって帰国するか迷っていました。
日本が青島を攻めてドイツと戦っているのを知り、ここに来ました。
私はニューヨークの新聞社員です。だから青島のことを記事にして送りたいのです」
正平は若い女性の行動力に驚いた。
偶然、北京にいたとはいえ、女一人で青島まで来て現地を見ようとする気になるだろうか。
彼女の顔には並々ならぬ決意が感じられる。
「上司の許可を貰わないとならないが、あなたに取材の許可を与えましょう」
「ありがとう。」
正平が取材許可を出したのは、アメリカでの世論が新聞報道で大きく左右されることを見てきたからだ。
「悪事はばれるし、不都合なことが有っても隠さない方が良い」
留学中にニューヨーク市で役人の汚職事件が起こった。些細な収賄だったこともあって、当局がもみ消そうとして、それを新聞社がすっぱ抜いて事を大きくした。ニューヨークの幹部は議会で追及され、辞職に追い込まれてしまっている。最初から非を認め、関係者を処分していたなら騒ぎにならなくて済んだはずだった。
「世論があんなにも追求したのは下手に隠そうとしからだ」と見ていた。
アメリカは不正を特に嫌がる。不正を隠そうとするのは最悪だ。
青島では現状ドイツから権限の委譲が滞りなく行われ、平穏のまま推移している。
日本軍によるやましい行為も何一つない。
それなら、この女性にありのままの青島を見て貰い、アメリカに正しい情報を送ってもらうほうが、日本にとって有益になると考えた。
「他にも新聞記者がいるか?」
「私もよく知りませんが、2人ほど見ました」
「だったら、その人たちにも取材許可証を発行しよう。他の記者にそのことを伝えて欲しい。」
「本当にありがとうございます。ところで、少佐は英語がお上手ですね」
メアリは黒い眼帯を着けた強面の正平が意外に優しく接してくれたので、興味を持ってくれた。
「アメリカに留学していた」
「そうですか。それなら、少佐から取材したいのですがよろしいですか?」
「今勤務中だ。後2時間すれば、非番になる。それから受けましょう」
その後、取材を受けるのだが正平の態度は変わらない。
「アメリカではどちらに留学していたんですか?」
「陸軍指揮幕僚大学です」
「カンザス州のですか?」
「そうです」
「その若さで、ミスター塚田は優秀なんですね」顔つきに敬意が見えた。新聞記者をしているだけに、大学の名前を聞いただけで、経歴を伺い知れたようだ。
正平は軍事機密でもなければ質問には答え続けた。
と言っても彼女は新米記者で、また軍事知識も乏しい。当然質問は現地の治安状況がほとんどであり、答えるのに詰まるようなことはなかった。
彼女はまだ正式には記者ではない。
就職前に海外旅行で両親と北京来ていただけだ。
大戦に巻き込まれ帰国が遅れ、それを利用して清国を取材しようとしていた。
青島に来てそして正平に出合い、興味を覚えた。
「ご家族はいますか?」
「あまりプライベートのことは話したくないが、家族はいますよ」笑いながら答える。
青島では治安はほぼ正常に戻っている。
日本兵による暴行事件も起こっていない。日本兵による暴行事件も起こっていない。それなら、内外の新聞記者に市内の状況を見て貰い、正しく報道してもらう方が良い。
上司には後から許可を得たことだが、取材許可をしたことは間違っていないと考えていた。
それが思わぬ良い結果となるのだが、その話は後でする。
その後他の記者にも会ったが、彼らも現地の状況に関心を向けた。
既にドイツとの戦闘は終わり、ドイツ兵は武装解除されており、記事になるような話は聞けないと思っているのだろう。
現地の治安状況や捕虜の待遇について聞いてくるだけだった。
それだけ聞くと満足したのか彼らは北京に戻った。
一人メアリだけがまだ残った。




