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旭日に顔を上げよ  作者: 寿和丸
最終章
252/257

252話 国内政策

またこの選挙では正平は吉田外相と賀谷蔵相に出馬を求めた。

「我が国は国土が広がり、これから新たな国づくりを考えなくてはならない。私もいつまでも首相として、国づくりはできない。引退を考えなくてはならない。

内閣に入ってもらって、お二人の実力はよく分かりました。政治家になって出馬して新たな国づくりに本腰を入れてもらいたい。」

正平の見る所、自由党内には首相の器にふさわしい人材がまだ育ってなかった。自由党結成に加わってくれた昭和会や政友会の流れを汲む者は、政治家としての経験は豊富だが、実務能力に疑問があり、国際感覚に欠けていると見ていた。安田などの勉強会出身メンバーもまだ閣僚経験はなく、もう少し勉強させておくべきと考えた。それに比べ、外相や蔵相をした経験は首相として、十分に果たせると考えたのだ。

二人は次の首相の含みを読み取り、出馬要請を受け、衆議院選に臨み無事当選した。


選挙後ただちに内閣の結成に動いたが、ここで初期の構想が大きく狂う。

内閣編成に際し、再び民政党に与党として内閣に入り協力を仰いだが、民政党はこれを拒否したのだ。これは総選挙で、自由党と民政党が各選挙区で激しく争い、大きなしこりが残っていたこと、自由党の勢力が拡大して、民政党には危機感があったことが挙げられる。

「与党になって、協力しても結局は自由党の功績となって、議席数を増やせない。それなら、野党として、自由党政権を批判した方が得策」と民政党幹部は判断したようだ。

事実、自由党議員は6割を超し、民政党はそのあおりを受けて大きく議席を減らした。与党にいても何の得はなかった。

こうして、国会勢力は与党自由党と野党に回った民政党と少数勢力に落ちぶれた政友会と諸派で構成される。


最初の内閣人事構想で躓き、すったもんだした挙句、内閣は自由党所属議員と官僚出身者だけの人事となる。

勿論、吉田と賀谷には大臣を留任させた。

そして、国防相には宇垣一成が就任する。宇垣は正平の先輩であり、軍人としての功績はずっと上だ。ただ、陸軍内部に反宇垣感情が高まり、首相になれなかった。ここで宇垣に国防相を務めてもらい、彼にも次の首相の道を開けておきたかった。

そしてこれは陸軍と海軍の人事抗争を和らげる目的もある。前の大臣は海軍上がりの伏見宮でその前は陸軍の閑院宮がなった。ここで陸軍上がりの宇垣が大臣になれば国防省人事は陸軍と海軍の“たすき掛け人事”が慣例化する。更に、国防相は退役して10年以上経過した軍人出身者というのも慣例化される。

伏見宮は“ソ連との勝利”を導いた功績を引っ提げて勇退の花道を飾った。

宇垣は国防大臣を受けるにあたり、次のように言った。

「俺は君よりも一回りも年上だぞ。その俺に、君の骨を拾いさせるのか?」

「日本は今度の戦争に勝利しましたが、まだ世界大戦は終わっていません。私は大戦に関わる気は全くなく、拡大した領土の国づくりに専念すべきと考えています。しかし、世間や軍人の中には勝利に酔い、驕り高ぶり、“日本は強い、どことやっても勝てる。世界大戦に打って出て、アジアに領土を広げるべし”と主張する者もいます。これははなはだ危険な考えです。日本が必ず勝つとは限りません。私はあなたにそんな軍人の危険な考えを取り除いて欲しいのです」

「俺にまた軍縮をやらせるということか?」

「いや、軍拡路線を緩和してくれるだけでよいと思います。軍事予算を大幅に増加しないでくれればよいかと思います」

これに宇垣も了解し、その上で更に国防構想について突っ込んだ話をまたすることにした。


実際にそれからの国内外の重要な案件には、外相、蔵相、国防相だけで会合が開かれ、基本路線を決める方向になる。

4人はそれぞれの意見を出し合うが、軍拡路線から国内重視路線への転換に賛成であり、大きく意見が違うこともない。

「まず、イルクーツクやチタなどからの帰還兵だが、これについては順調に進んでいて大きな問題にならないでしょう。沿海州やハバロフスクなどの住民の抵抗もあまりないので、統治は難しくはないでしょう。だが、余りに広いので、インフラ整備だけでも多額になる。幸いに今は好景気が続いて税収は増えるので、整備費用は見込めると思います。またソ連から領土を奪ったことで、海外、特にアメリカの反応が気になる。これらについて話し合いたい」

「極東の治安情勢は悪くないが、ロシア人の日本への悪感情は残るだろう。彼らは祖国から棄てられた思いがあるだろうし、悔しい思いもきっとある。それが日本に向けられてもおかしくない。この統治は決して易しいものでない。時には力でロシア人を抑え込むことは必要だろうが、基本はロシア人の生活が向上して不満を無くするのが一番だ」宇垣が口を開いた。

「そうですね。なるべく、穏当に治めるようにしたいものです。ロシア人の生活向上をするには、極東地域をどのように開発していくかが課題となります。交通や衛生保健、教育など行政が適切に行われるようにしないと」吉田が続く。

「それにはきめ細かい対策を執らなければなりません。総理は税収が増えると言われますが、限度があります」

極東地区のロシア人は祖国が割譲に応じたことで、一種の諦めムードが漂い、抵抗の気力が失せているのも事実だった。だが、日本が住民の暮らしが悪化しても放置すれば、いずれは暴発するのは目に見えている。会合メンバーは現地調査を早く終え、ロシア人の生活環境改善を行う方針で一致する。


「アメリカは相変わらずうるさいことを言ってきてます。しかし、ドイツと喧嘩している最中ですから、本格的に日本と交渉をする気はないようです。」と外相が説明する。

「経済封鎖の考えはまだ持っているのか?」

「大統領はまだ持っているとは思いますが、実行はできないと思います。それに、アメリカの経済界は日本との貿易で大きく潤っていますから、経済封鎖は反対してくれるでしょう」

自動会社のフォードとGMは日本で大きな基盤を築いており、経済封鎖は前から反対していた。またゼネラルエレクトロニクス(GE)、エクソン、ヂュポンなどの巨大電機、石油、化学会社など日本での経済活動を活発化させており、領土が増えた日本であらたな商機を掴もうとしていた。アメリカ実業界の反対もあって、ルーズベルトも経済封鎖に踏み切れないのが現状だ。

ただ、日本がソ連から極東を割譲したことに猛抗議をしていた。

「アメリカからの抗議を少なくするにも、ロシア人に不満が出ないのが一番だ」これも4人の考えが一致した。


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