235話 ドイツとソ連からの提案
ヨーロッパの戦争に世界は徐々に巻き込まれていく。
ソ連はドイツとの戦いを余儀なくされ、そのソ連をアメリカは支援する。
参戦こそしてないがアメリカは完全に連合国側に入っていた。
この時点で世界の主要国の中で日本だけが中立の立場を取っていた。
当然、枢軸国や連合国側からは同盟の申し出が相次いでいる。
まずドイツだが、ヒットラーは日本に特使を送り、東西からソ連を挟みこんで攻撃しようと同盟を提案してくる。
「我が国とソ連は長年、紛争をしてきた間柄で、貴国からの提案に応じるのは決してやぶさかなことではない。ただ、日本は歴史的にイギリス、アメリカと良好な関係を維持してきている。貴国と同盟を結べば、英米2か国との関係は悪化してしまう。これは何としてでも避けなければならないことです。直ちに貴国との同盟に応じる情勢ではありません」
ドイツとの同盟に応じる素振りを見せながら、英米との関係を理由に挙げてすぐの対応はできないとやんわり断った。
その一方で、ドイツとは工業製品や食料品などの貿易を一層拡大することにした。
ドイツは労働者までも兵士に招集し始めており、次第に機械部品や食料品が不足する様相が見えていた。
日本もドイツの進んだ技術を取り入れることには熱心で、航空機、潜水艦などの製造技術は是非とも欲しかったし、特に石炭液化は急務でもあった。
一応アメリカからの経済制裁の話は消えたが、いつまた出て来るか分からない。特にアメリカに石油の多くを依存している日本にとって是非とも欲しい技術だった。もし石炭の液化が実現したら、アメリカの過剰な要求に苦しめられることはなくなる。
ドイツとは軍事同盟にならないまでも友好を維持していくことになった。
一方のソ連にとって、ドイツとの交戦中に背後から日本に戦争を仕掛けられるのは悪夢となる。
スターリンも特使を送り日本との不可侵条約を提案してきた。
これに対し、日本は塩対応をとる。
「貴国は一昨年、昨年と日本と国境紛争を起している。どちらも貴国側から越境で始まったことであり、決して容認できるものではない。越境行動した関係者の処分と謝罪を求める」
特使は「紛争はソ連側だけに非があるわけではない。また事件は下部組織が名誉欲に駆られ越境したもので、国家としては容認できない行動だった。関係者をすでに処分しており、解決したことだ」
だが日本側は容認しない。「事件についてソ連からは日本側に何らの謝罪もされてない。それではまだ日本に越境する意図を持っていることではないか」
「いやそれは違う。わが国は貴国を攻撃しようとは思っていない」
結局、不可侵条約について詰めることにならなかった。
そして、これに慌てたのかアメリカ大使が日本とソ連との仲介を言ってくる。アメリカにとってドイツに攻め込まれ、苦境に立たされているソ連に、もし日本が背後から襲い掛かられたら、ソ連は白旗を上げるかもしれない。アメリカとしては何としてもそれを防ぎたいのは見え見えだった。
「日本がソ連を攻撃しようとするのは辞めてもらいたい。ドイツの非道を質すためにもソ連がドイツと戦ってもらわなくてはならない。貴国がソ連を攻撃するのはドイツを利するだけです。」
「ソ連は数年前より、日本周辺国に越境行動を繰り返しており、看過できない状況です。日本としてはソ連からの攻撃を備え、防衛強化をしているだけです。アメリカが仲介を申し出るなら、まず、ソ連の違法行為を非難してからにしてください」
日本外務省はあっさりと門前払いをした。
この対応は正平と吉田外相の考えだ。
「日本がソ連を攻撃するかもしれないと思わせれば、ソ連は極東軍を引き払ってドイツ軍と交戦できない。結果的にドイツを助けることになる。アメリカには日本への制裁をためらわせることにもなる。」
正平がこの時期最も恐れているのはアメリカによる経済政策だった。鉄や石油などをアメリカから輸入するしかない日本はアメリカに首根っこを押さえられている状況だ。
それを打開するために、アメリカとの関係改善、インドシナからの石油輸入などに取り組んできた。ただ、日本嫌いのアメリカ大統領であるかぎり、アメリカとの友好は絶望的だった。一応インドシナからの石油輸入に切り替える対策をとってはいるが生産量に余裕はなくあまりに心もとない。やはりアメリカによる経済封鎖を絶対阻止しなくてはならない。
その為に、アメリカが経済制裁をするなら、ソ連への攻撃を匂わせて躊躇わせる方針に変えた。これが今は効果的と思える。
「アメリカ大使が仲介を申し出たのは、おそらくソ連からの依頼があったからでしょう。今の状況ではアメリカはとても経済制裁を日本に仕掛けることはできないはず。ついでにアメリカには大統領から日本に対し経済制裁は行わないと発表して欲しいと伝えました。」
「強気に出たな」
「ええ、ここで押しておく方が外交は有利になります。それと訪米して感じたのですがアメリカ経済界が日本に対しての経済制裁には反対の声が強いことです。」
「それはどういう理由ですか?」
「日本との貿易量はアメリカにとっても無視できないものです。経済界は利に聡いですから、経済封鎖は損失としか見ないです。それとユダヤ人の実業家が熱心に日本擁護に回ってくれています。おそらくですが、ユダヤ難民を日本が助けたことにあると思います」
「それなら、アメリカの経済封鎖の可能性は相当低くなったし、もしかしたら大統領の声明も期待できるかな?」
「まあ、アメリカからの返答は来ないでしょうが、しばらくはこの方針で行きましょう」
吉田外相の意見に正平も頷いた。




