227話 アメリカ中立政策変更
そのルーズベルトはこの時期少なからず焦りを浮かべていた。
イギリスやフランスに支援を約束していたにもかかわらず、軍事物資の供給さえ思うようにできていなかったからだ。アメリカが手をこまねいている間に、ドイツはポーランドに侵攻したのを蹶起に、オランダやフランスまでも占領するまでになった。
経済政策の失敗を糊塗するために、イギリスやフランスなどを支援して、輸出を伸ばしアメリカ経済を立て直そうと考えた。だが肝心のフランスが占領され、そしてイギリスまでも敗れるようなことにでもなれば、なんのために両国の支援をしようとしていたのか分からなくなる。経済政策を失敗したうえに、外交でも大きな失敗をしたことになる。ルーズベルトは不名誉な汚名を歴史に刻まれるのが何より嫌だった。
「このままではまずい。」焦りがでるのも当然だった。
アメリカがイギリスに武器を供給できないのは、35年に成立した“中立法”の為だった。この法律によりアメリカは交戦中の国と内乱が激化している国には武器輸出が出来ないことになった。この法律は共和党の主導の下で行われ進められて、ルーズベルトとしては武器輸出の道を残しておきたかった。だが議会の大勢は中立法制定に動き、本意ではなくしぶしぶ署名するしかなかった。
それが39年9月にドイツがポーランドに侵攻して、イギリスとドイツと交戦状態にとなり、このままではイギリスへの武器輸出はできなくなった。共和党議員にもイギリスへの親近感を持つ者が多く、流石に中立法に疑問を持つようになった。ルーズベルトはこの機を見逃さず、議会に中立法の修正を働きかけた。
「このままではイギリスが危うくなる」この思いは議員に共通していた。
更にヨーロッパへの不干渉を主張する共和党有力議員のタフトも考えを変えるしかなかった。
「武器の禁輸を廃止すれば英仏を支援することになる。そして廃止しなければヒットラーを助けることになる」つまりどちらを選択しても一方に加担することになるのだ。このジレンマから、タフトも中立は無理と考えるしかなかった。
こうして、中立法は修正されイギリスへの武器輸出の道が開かれた。
アメリカはイギリス、フランスの武器輸出国となり、経済は急激に伸びてゆく。
ルーズベルトの思惑通りになった。
それでも、ルーズベルトは満足しなかった。
「イギリスに直接支援しなければならない」それが本音だ。
それからもアメリカ国民に何度も訴える。
「イギリスが破れてしまえば、ヒットラーが海を渡ってアメリカを攻めてくる。そうなればアメリカ国内は戦場となり大変なことになる。そうなる前にイギリスを助けないといけない。」あらゆるところで訴えた。
だが、アメリカ国民の大多数は戦争に反対だ。
「イギリスはポーランドのために戦争を始めたのではないのか。他国のために戦争を始めて置いて、負けそうになればアメリカに助けを求めるのか。そんなイギリスのために戦わないといけない。」それが多くの国民の声だ。
何よりも遠く離れたヨーロッパの戦争を身近なものと感じられなかった。
更に議会も中立法を修正には応じても、参戦することには反対だ。
ルーズベルトがどんなに熱弁を振おうと、国民も議会も彼に賛同はしない。
ルーズベルトとしては何らかのきっかけがないとアメリカ国民を説得するのは難しいと思うしかなかった。
「国民が戦争に反対するのは、ドイツを脅威と思ってないからだ。ドイツがアメリカを攻めて来るなんて誰も本気にしてない。やはり何かきっかけがないとアメリカ国民の考えは変えられない」
彼の頭にあるのは、先の世界大戦でアメリカが参戦したことだった。
当時のアメリカも多くの国民が戦争に反対だった。
アメリカにとって祖国とも言えるイギリスや兄弟国のカナダなどが戦っていても、助けようとする考えは持てなかった。
時の大統領ウッドロー=ウィルソン大統領は手をこまねいて見ているしかなかったのだ。
ところがドイツが潜水艦を使って、商船を多く沈め始めて事態が代わる。沈められた船には一般人も多く乗っていて、犠牲となった。
中には幼い子供まで巻き添えとなり、これがアメリカ国民の心情を大きく揺さぶった。
「悪辣非道なドイツを許すな」そんな声が一気に高まった。
ウィルソンが参戦を表明しても反対の声が起きなかったのだ。
「やはり国民の考えを変えるのはアメリカ人が犠牲となるような悲劇がないと変えられない」
その悲劇をルーズベルトは密かに待っていた。
そして悲劇を作り出すためには、ドイツ、イタリア、そして日本とは関係が悪化したままでよかった。
「ドイツやそれに近い国がアメリカにケンカを売ってくればよいきっかけになる」そんな思いがあった。
更に彼には日本に強い不信感を持っていた。
「中国を何度も侵略して、国際平和を守ろうとしない。友好を口にするがそれを守ったことがない」
国際調査団により日本が満州事変を引き起こしたのは明らかとなった。それを非難されると国際連盟を脱退した。
彼の目には日本が平和を破る無法国家と映った。
メアリの手紙を受け取っても不信感は変わらない。
「日本の首相の妻がアメリカ人だったのは意外だった。ただそれだけで日本を信用できない。日本は過去に何度もアメリカの信頼を裏切っている。いずれ、ドイツと手を組み、戦争を始めるだろう」
彼は裏切り行為を絶対許せない性格だった。それは国が行った事でも同じだ。
「日本の首相が誰であろうと、日本は軍事国家であり、侵略国なのは変わらない。日本に気を許してはならない」
フーバーが親善のために訪日したのは面白いことでなかった。
同行した院議員が、帰国した後ホワイトハウスに来て、「日本が平和国家であり、アメリカとは貿易も多く、重要な国だ」と言い始めると、苦々しく思わず遮った。
「日本なんかと付き合って、何のメリットがあるのか。今はヨーロッパのことが重要だ。ヨーロッパがナチスによって支配されるようなことにでもなれば、巨大な独裁国家となる。それを防止する為にも早く叩き潰さないといけないのだ。いずれドイツと手を組むかもしれない日本などと仲良くはできない。」
思わぬほどの大声だった。
この反論に上院議員は慌てて退散するしかなかった。




