226話 資源調達
ただ、日本に資源は足りないのはそのままだった。
40年当時の世界の石油産出量においてアメリカは約13.3億バレルで6割を占めて最も多く、うち5%前後を輸出に回しており、日本はそれに頼っていた。この時に日本の国内生産量は世界全体の0.1%で、備蓄している航空用ガソリンは30万バレル、艦隊用燃料は160万バレルにしかない。
そしてオランダ領インドシナから世界全体の3%の石油が産出されている。日本にも輸入されているが、十分な量とは言えない。
これだけで日本の需要を全てまかなえるものでないが、アメリカが石油の禁輸措置をしてきた場合、大いに助けになるのは確かだ。
また航空機の資材となるアルミの原料であるボーキサイトもインドシナから採取されているし、ゴムは東南アジアが最大の生産地だ。これらは日本国内ではもとより、満州や朝鮮からも産出されてない。
今後の軍用機や、一般の航空機の発展を考えると、是非資源の確保はしておきたいところだった。
オランダと交渉を開始する。本国がドイツに占領されたとはいえ、東京には大使が駐在していた。
「我が国はオランダ政府を唯一の政府と承認しております。」
「日本の変わらぬ友好関係に感謝します」
「オランダ領のから産出される石油を引き続きインドネシアから産出される石油の輸入をこれからも続けたい。」
「ええ、日本への石油輸出に何の支障もありません。ただ、本国が占領されているので、現地が少し混乱し、輸出に障害が起きることも考えられます」
「日本はオランダ領インドシナがオランダの支配下にあることを認めた上で、警察や軍隊を送ることができます。これは現地の治安維持を目的とし、現地オランダ領事の指揮下に入れます」
「今のお話を本国に伝えます」
オランダは本国が占領されており、経済基盤を確保しておきたいので、日本が石油を購入してくれる話は願ったり叶ったりである。交渉はスムーズに行われた。
やがて、外交部の事務折衝により正式に石油などの貿易に関する取り決めが決まり、石油代金の支払い方法、日本の警察や軍隊の派遣を受け入れる条件など詳細なことまで煮詰められた。
同じく亡命政権のフランス政府などとも交渉し、同様な取り決めが行われた。
一方、イギリスもドイツと戦闘中であったが、植民地の経営に不安を抱えてはいなかった。十分な警察や軍隊を引き続き現地においており、日本の軍隊の受け入れに応じなかった。しかし、イギリス首相のチャーチルも日本との交渉を打ち切り、日本がドイツに近づくのは避けたかった。
彼は後に述懐したことだが、「日本がインド洋に進出し、アジア植民地の生産品の供給路を絶ってしまえば、我が国は重大な危機に陥る。そのことは絶対避けなければならない」としている。
日本の海外進出には警戒するが、敵対するのは得策でないと考えた。
そこで、日本とは引き続き貿易を続けることに同意した。
「これでアメリカが経済制裁をしてきても、多少は耐えられますね」外務省の側近も安心の表情を浮かべた。
「ええ、良い経済効果も生まれます」他の側近も同じだ。
それは数字に表れる。マレイシアやインドなどの貿易量はヨーロッパの戦線が拡大しても影響を受けるどころか、増加の傾向にあるなった。
「このまま、貿易量が増えていけば前の大戦の時のようなことになります」経済官僚が良い経済予測を出してきた。
ヨーロッパでは軍事物資ばかりか生活物資も不足がちだった。その必要なものを供給できるのはアメリカであり、日本でもある。
アメリカも日本も未曽有の好景気を迎えようとしていた。
三菱や三井などの貿易会社は絶好の商機を掴もうとし、「今度こそ鈴木商店の二番煎じになるな。商売の機会を逃すな」貿易会社の幹部は現場の尻を叩いて回った。先の大戦中に、鈴木商店が莫大な売り上げ、利益を叩きだし、三井三菱などの大財閥を凌ぐほどに急成長した。財閥の幹部はこのことを悔しい思いで見ていたのだ。「今度は俺達が日本一の売り上げをあげる」そんな決意をもって、叱咤激励した。工業製品が主力として、小麦や衣類などの伸びも大きく、日本の輸出量は急激に伸びており、去年以上の経済成長が見込まれたのだ。
アメリカの経済制裁を怖れて、アジアに植民地を持つ国との友好関係を維持しようとしたことが、これらの諸国との貿易を活発化させた。
経済効果を狙っての資源外交でなかったが、日本に思わぬ好結果をもたらしていた。
資源外交とは別に、軍部には人造石油を開発する計画を持っていた。これはドイツの開発した石炭から石油を作り出す技術を導入しようと言うものだった。
だが、これは実験室レベルでは上手く行ったのだが、量産化にはつながらなかった。石炭液化に必要な物資が日本にないことや技術不足が原因だった。
これが成功していれば、日本はアメリカからの石油に頼らなくても済むのだが、大きな期待を持てない状況だ。技術開発にはこのようなことが良く起こる。
正平も石炭液化に期待していたのだが、開発が進まないのを見て、多くの期待をしないことにした。
「何年後に成功するかもしれないが、当てにできない。今は友好関係を維持してインドシナから石油を輸入すると同時に、アメリカとの関係を改善していこう。インドシナの石油は貴重だが、なんと言ってもアメリカからの石油が大きいからな」
インドシナからの石油輸入に問題がなくなったとはいえ、アメリカからの石油に大きく頼ることに変わりない。アメリカの姿勢に振り回されることに変わりなかった。
「アメリカの経済制裁に備えることは必要だが、経済制裁されないようアメリカとの友好が第一だからな」正平は外務省に指示をするのを忘れなかった。
ルーズベルトがどんな陰謀を企んでいようと、日本が平和的な外交をしていれば、経済制裁を出しにくくなるという読みでもあった。




