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旭日に顔を上げよ  作者: 寿和丸
22章 日米の戦略
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219話 ルーズベルトの宣伝

チャーチルの必死の宣伝もあり、アメリカ国民もヨーロッパに関心を持つようになっていく。もともとアメリカ人はナチスドイツに嫌悪感を持っていた。

これを更にルーズベルトは煽るキャンペーンを行う。

「ヒットラーがやって来る!」根拠もなくまるでヒットラーを悪魔かのように、国民感情に訴えたのだ。

ルーズベルトにとり世界大戦はニューディール政策の失敗を覆い隠す絶好の機会だった。

彼の政権が始めって以来、アメリカ経済は順調とはとても言えなかった。それが、戦争が始まった翌年(40年)のアメリカ経済はみるみるうちに復活する。例えば39年の失業率は17.2%、失業者は948万だったのに対し、40年には失業率14.6%、失業者812万人と改善した。そしてGNPは17%も上昇した。アメリカで世界恐慌が始まってから、29年のGNPを越えたのは戦争が始まる39年のことだった。

この数字を見ると、ルーズベルトが第二次世界大戦を仕掛けた、あるいは望んでいたかと思いたくなる。


実際に彼がそのように考えていた証拠は何もないが、駐フランス大使のブリットは40年8月に次のように演説した。

「私の経験と我が国の情報収集から判断するに、我が国は1年前のフランスの状況に極めて似ている。今、決断し行動しなければ手遅れになる。

独裁者が我が国を侵略できないのは、英国艦隊の存在とイギリス国民の強い意思があるからだ。英国艦隊がいつまでもドイツ艦隊を封じ込めておくことができるだろうか。ドイツ海軍がいつ大西洋に進出して、我が国を脅かすのか、予測できない」

実際にはドイツ海軍は狭いドーバー海峡さえ渡ることができなかった。またイギリスは制空権を維持しており、ドイツの飛行機がイギリスに辿り着くこともできなかった。後にドイツはV2ロケットを開発し、イギリス本土を爆撃するのだが、貧弱なドイツ空軍の苦肉の策と言える。これさえもイギリス国民に恐怖を与える効果はあったが、盲撃ちのロケットでは実際の被害はほとんどでなかった。

ブリットの演説は大袈裟にドイツ軍の恐怖を訴えるものだ。


更に続けてこのように言った。

「ドイツ軍が我が国を攻撃できないと言うのは希望的な観測だ。そのような思いを持ったために、抵抗する気力を失い、征服された民族は多い。

ナチスは他民族を劣等民族と繰り返し主張してきた。劣等民族は優秀なドイツ人に隷属されなければならない。それが彼らの主張だ。

注意しなくてはならないのは、ドイツが我が国の豊富な資源を狙っていると言うことだ。

現実から目を背けてはならない。他国を侵略して、支配し、腐敗させた恐ろしい力が我が国に迫って来ている」

ブリットはルーズベルトの意を受けて、フランスを始め、ポーランドなどで対ドイツ強硬策を進めてきた人物だ。それがあからさまにドイツの恐怖を訴え、参戦を強調していた。


ルーズベルトの口調はもっと激しい。

「ガラガラヘビがこちらに噛みつこうかとしている時に、噛みつかれるのを待っている人はいない。

ドイツやイタリアの艦船が海を渡ろうとすれば、我が国の反撃を覚悟しなければならない。合衆国陸海軍の最高司令官として、侵入者は撃退する。

私の手元にはヒットラーが描いた世界地図がある。そこには中央アメリカと南アメリカの一部が描かれており、ヒットラーがこの地域の再編を狙っていることが分かる。地域には今14か国が存在するが、彼らはこれを5つに分断し、属国化を企んでいる。そのうちの一つは我が国の生命線であるパナマ運河が含まれている。

他にも彼らの作成した文書には、宗教の廃止が謳われている。カソリック、プロテスタント、イスラム、仏教、ヒンヅー、ユダヤなど宗派に関わらず廃止を企んでいる。教会の財産はすべて没収され、ドイツ政府か傀儡政権の所有となる。聖職者は追放されるか、強制収容所送りになり、拷問を受ける。

ドイツは我が国に、国際ナチス教会を設置し、説教師がドイツから送り込まれる。そこで説教されるのはヒットラーの『我が闘争』である。教会には十字架の替わりに鍵十字が飾られる」


これは何の根拠もない作り話だった。これを聞いてフーバーは馬鹿馬鹿しい、おとぎ話と吹き出した。次のようにラジオで述べている。

「戦場となったヨーロッパがどんなに悲惨であってもアメリカは参戦するべきでない。ヨーロッパの人々自ら、解決の糸口を見出し、そこから新たな民主国家建設に立ち上がろうとした時、アメリカは援助の手を差し伸べるべきです。

今度の戦いは消耗戦になるでしょう。極めて残酷なものとなり、戦争が終わっても、その後4半世紀の国民生活は窮乏状態になる。アメリカはヨーロッパの問題を解決できないと肝に銘ずるべきだ。わが国が出来ることは、あくまで局外にいて、アメリカの活力と軍事力を温存することだ。この力を必ず訪れるはずの平和の時期に使うべきです。」

(第一次世界大戦でウィルソン大統領が参戦したことで、アメリカは公平な立場で仲介することができなくなった。そのためにヴェルサイユ体制が不合理なものとなり、今の危険な状態が引き起こされた。同じ間違いを繰り返してはならない)それが彼の考えだ。

フーバーはルーズベルトの政敵で、当然批判的だ。ただそれを割り引いても当時を振り返れば、フーバーの考えが正しいように思える。


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