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旭日に顔を上げよ  作者: 寿和丸
18章 産業振興と国土開発
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180話 新党立ち上げ

「住友の工藤さんから資金援助の話がきている。私はこの金を政党設立と、活動資金に使うつもりだ。これについてどう考える?」

正平は春から財閥首脳と会合を重ねるようになって、その席で、正平への資金の申し出があり、素直に応じることにした。

「工藤さんからですか?」内田は内心の驚きを隠せない。工藤と言えば住友財閥の重鎮で、めったに表に出ないことでも有名だ。その人物が資金援助を首相に申し出たと言うのなら、相当なことと考えられた。

「他にも三井、三菱、安田から同額の資金提供の申し出が来ている。私はこれを政党設立と党の運営資金にすると言って、了解を得た。」

財閥が正平に資金援助を申し込んだのは軍都建設が具体化してからだ。財閥にとって軍都の建設には莫大な金が動くのは火を見るより明らかで、その金を掴もうとすれば政権に近寄るのが当然と言えた。そして、正平にも政党の設立を考えており、資金はいくらあっても余ることはない。


「財界からの資金提供ですか。それはありがたいですね。」安田が満面の笑みを浮かべる。

「安田さん。組織づくりはどうなっているのですか?」

「北海道、沖縄、四国と東北の一部の県以外は足掛かりができています。これに退役軍人の組織を加えれば、ほぼ、全国を網羅することができますし、地方議会にこちらの意を組んだ人物を送り込めます」

「退役軍人の組織を使うとなれば、宇垣さんが後ろにいるのですね?」金子が確認するように聞く。

宇垣一成は陸相を長く経験してことから、退役軍人を集め組織化していた。

「だが、宇垣氏は民政党と深い付き合いがあると聞くが?」水野は軍人たちの中で宇垣の評判が悪いのを知っている。それだけに宇垣には不信感がある。


もともと退役軍人を組織化したのは恩給に絡むことだった。退役軍人にとって、恩給の引き上げは生活に関わり切実で、代表には政治的発言力を有する者が就いた。古くは田中儀一元首相、田中の死後は宇垣一成が退役軍人の代表格だ。軍人の組織票をバックに田中と宇垣は政党に働きかけ、田中が政友会総裁になったのに対し、宇垣は民政党に近づいていた。

その宇垣には何度も首相になる機会があった。3月事件(92話参照)では若手将校が首相に担ぎ上げようとしたが、彼はこの要請を断った。宇垣は将校達の計画が稚拙すぎて話にならないと断ったのだ。

これが、軍人や政治家の間には「なんで、首相の大任を蹴った。臆病風に吹かれたのか?」と一気に評判に落ちしまった。広田内閣辞職後、宇垣を首相にする話が持ち上がった時、軍人の一部が強烈に反対し、政党からも指示の声が起こらなかったのもこれが原因のひとつだった。

「いや、民政党と宇垣さんの関係は前ほど親しくはないです。」金子が内情を説明する。

最近の民政党と宇垣の関係はお互いに不信感を強めていて、阿吽あうんの関係ではないと言う。

「私の知りえた情報では、民政党幹部と宇垣さんが喧嘩状態になったようです。最近では会っても口を聞かなくなっています。宇垣さんも民政党一辺倒にいかなくなります」


「それは知りませんでした。宇垣さんもいろんなところで衝突をしますな」

ひとしきり宇垣に対する人物評となり、しばらく盛り上がったところで正平は宇垣を重要視するメリットを話した。

「宇垣さんの評判は私も聞いている。だが、何よりも宇垣さんには軍人会の組織票がある。これをつかえれば、昭和会を全国組織に広げられる」

「水野はほとんど宇垣さんとあったこともないだろう。噂だけで評価しないで、会って話をしてみろよ。誤解も解けることがあるぞ」

「うーっむ。確かにそうですな」そう言われて、水野も肯定する。


「選挙によって、多数を占めた者が代表者になる。これが民主主義の基本だ。だが、犬養首相以後、このルールは守られなくなってしまった。これは政友会と民政党のだらしなさの結果でもある。両党が党利党略ばかりに走ったことで、国民に見限られたのだ。私は民主主義を取り戻したい。政党を立てなおそうと思っている」

首相就任に際し、政友会、民政党に近づき支持を取り付けたが、両党には利益団体の匂いも感じていた。公益よりも党利を優先し、自己主張ばかり言って、他人の説をきき入れないのだ。

それに比べ昭和会は議員数20の世帯で、大きな発言権はない。それどころか、政友会や民政党かに挟まれて、切り崩されかねなかった。その昭和会に正平がバックアップして安田を送り込んだのは、小さな政党ならコントロールしやすいと考えたからだ。


「昭和会を大きくして、全国的な組織にすれば、政友会や民政党と肩を並べる政党にできる。それを足掛かりにして民主主義の基本である、最大政党の代表者が首相になるルールをもう一度確立したい」

「お気持ちは分かりますが、後、衆議院の任期は2年もありません。その間に、新党を立ち上げて、大政党にできるでしょうか?」内務省官僚の吉住が一般的な質問をする。

「いや、塚田さんの人気は全国的に高いです。資金の裏付けと退役軍人の組織票が集まれば、全国展開はすぐできます」安田が自信ありげに反論する。

「確かに塚田さんの人気は高いです。全国的な組織を作ることができれば確かに政友会や民政党並みの政党になるでしょう」慎重な金子も頷いた。

「ただ、塚田さんは現役の軍人ですね。政党の代表にはなれません。これをどうしますか?」海軍の岡田が指摘した。

現役の軍人は政治に関われないとする法律がある。また陸軍大臣は現役軍事とする法律もある。つまり正平は陸軍大臣のままでは政党の代表者になれない。かといって、国軍の再編成に手を付けた段階では、現役軍人として陸軍大臣の地位を保って、陸軍人事と予算を握っておきたかった。今すぐには現役を辞めるわけにはいかない事情もある。

「衆議院の人気は再来年の2月まで、あと一年半ある。この間に陸軍再編に目途を付ける。その間に新党の立ち上げ準備を済ませて置く。私は軍再編と新党の全国展開ができた段階で、現役軍人を辞め、新党の代表になるつもりだ」

これが、勉強会のメンバーに打ち明けた決意表明でもあった。


亡くなった桑原や山県からは「軍人馬鹿になるな」と言われ、積極的に軍事以外の経済や政治にも目を向けていた。そしてアメリカに行き、民主主義の長所と欠点を学んだ。民主主義の長所は国民自らが、指導者を選べることで誰もが気兼ねなく自由な発想のもとに経済活動が行え、活発になることだ。逆に欠点は混乱が生じたとき、自己修復が難しく、混乱をより増大させてしまうことだった。

「今の日本が混乱の状態だ。このままでは民主主義が壊れる。だから私は日本を混乱から立ち直すために様々なことをやって来た。ある程度の成果を上げられたと自負もしている。だからと言って、その仕事ぶりを国民からどのような評価を受けないまま、政権を保ち続けることは私の考えに反する。

あと一年半、仕事をした段階で私は国民から採点評価を受けるつもりだ。私の作る党が、選挙で国民から多くの議席を得られるかどうかで私の仕事への評価が決まる。国民が低い評価を下したなら私は首相を辞める。それが民主主義だと思う」


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