表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旭日に顔を上げよ  作者: 寿和丸
18章 産業振興と国土開発
173/257

173話 新年会

38年の年が明け、勉強会のメンバーが正平の家に集まった。一時は26人も集まることもあったが、今は正平を含め16人で固定するようになっている。正平は安田留松を除き、全てを軍事や官僚組織の要職に押し込むことに成功している。勉強会のメンバーが正平の政策ブレーンであり、実行部隊になっている。安田も新たな政党の組織づくりを始めているのだから、彼も要職に従事していることに変わりはない。

「皆、良く集まってくれた。去年は北支からの撤退と、空軍創設など大きな課題に取り組んだ。まだ、統制派と皇軍派の派閥争いの後遺症は見られるが、なんとか乗り切った一年と言える」正平はこのように切り出した。


正平は内閣を引き受けた時から、短期にやること中長期にやることを区別していた。陸軍を掌握するのは内閣を維持するのに絶対必要であり、そのための対策が北支撤退と河本逮捕だ。一歩処理を間違えれば内閣など吹っ飛ぶ危険性もあったが、結果的には良い方向に進んだ。これにより主な統制派や皇軍派は予備役に落とし、正平の実権を強めることができた。だが、まだ現場では皇軍派の考えに近い隊付き将校が多く残っており、地方に下った統制派も息を吹き返さないとも限らない。とても陸軍内部を完全掌握したとは思っていない。昨年襲撃されたのも、正平に反感を持っている者がいる証拠でもある。


それでも、なんとか乗り切れた以上、今年は次の政策に着手すべきと考えている。

「いよいよ本格的に国内の改造に動こうと思っている。その一番手に私は車専用道路を考えている。皆の考えを聞かせて欲しい」

「車専用道路ですか。ドイツのアウトバーンですね。面白い」陸軍の水野がすぐ、賛同の意見を言う。

「いや、アウトバーンを作っても、車の走っているのを見かけないとも言われます。日本は車が普及していませんから、同じ二の舞になりませんか」内務省の金子が否定的に言う。

「そうです。専用道路の建設には莫大な予算が必要です。財政が逼迫している現在、着手するのは余計に財政の負担が増えます」大蔵省の馬場も否定的だ。


ドイツは33年に失業対策として、自動車道整備事業法を成立させ、フランクフルト近郊からアウトバーンの建設が始まった。35年には22キロの道が完成して、開通式にはヒットラーがオープンカーに乗ってパレードして、国民に車時代を意識づけしていた。アウトバーンは5mの中央分離帯を挟んで、7.5mの本道と1mの脇道を備えた、当時としては破格の幅広の車用の道だった。プロパガンダ効果も狙って全国的に同時に始まり、39年には総延長3300キロにまで達した。

しかし、金子が言うように車専用の道路を作っても、車が走るのは稀だった。「一家に一台」の呼び声で始まった国民車のフォルクスワーゲン構想が思うように進まず、国民は車を持つことができなかった。あまりに利用する車が少なく、後のことになるが、アウトバーンでも自転車の乗り入れが許可されるほどだったのだ。


「車専用道路の建設は時期尚早という意見は分かる。しかし、今だからこそ私は建設を早めるべきと考える。知っての通り、アメリカは車社会で、どこに行くのも車が使われる。アメリカは広大で平野が多く、どこに道を作るのも容易い。しかし、それでも車が増えすぎて、交通渋滞が起きている。道の建設が車の急激な普及に間に合わないのだ。

日本はまだ車が少ないから渋滞など考えられないが、後数倍、車が増えればアメリカと同様なことになる。ただでさえ、日本は国土が狭く山地が多くて、道を作るのは困難だ。東京や大阪にはビルが次第に建てられているが、このままだと道を作る場所がなくなる。車専用の道の建設など不可能になりかねない。建設に踏み切るのは早いほどいい」

「確かにそうだと思います。ただ、ドイツのように全国一斉に始めることはないと思います」馬場も建設自体に反対ではない。

「やはり、どこから始めるか。規模をどのくらいにすべきかを考えないとだめですね」金子も賛同する。


その後、車専用の道を何処から、どれほどの規模にするのかそれぞれが意見を出し合って、議論は白熱した。新年会という、祝賀ムードは一転して、議論は昼から始まり、夕方まで続いていく。このままではいつ知れず結論がでるか分からなくなると思い、次の会合まで専用道をどのようにするか計画を持ち合うことにして、会はお開きとなった。


(みんな、真面目な奴らだよな。)一人書斎で正平は頭を休めていた。

新宴会だから少し酒肴も用意しておいたのだが、車専用道の話が飛び出すと、箸に手を付ける者がいなくなった。道を作る話は後にした方が良かったかもしれないと思うとおかしくなる。

(車専用道路の必要性は誰もが認めるが、具体化させるにはまだまだ計画を練る必要がある)そんな風にぼんやりと考えていると、メアリがコーヒーを持ってきた。

「またモーツアルトを聞いているのね」

「ああ、何故か彼の音楽を聴くと心が安らぐ。ベートーヴェンの音楽も素晴らしいとは思う。だが、ベートーヴェンは苦しんで作曲したように思えるが、モーツアルトは楽しんで作曲したように思えるんだ。それで心が和む理由かもしれない」

正平にとってはメアリとの会話は何よりの憩いの時間だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ