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旭日に顔を上げよ  作者: 寿和丸
17章 外国交渉
163/257

163話 隔離政策

フランクリン=ルーズベルト米国大統領は37年10月にシカゴで、世界で行われている侵略行為を防ぐ目的で、病原が蔓延するのを防ぐ予防措置の隔離政策になぞらえて、隔離声明、防疫演説を行った。

すなわち「世界の9割の人々の平和と自由、そして安全が今、脅かされようとしている。全ての国際的な秩序と法が、残りの1割の人によって脅かされようとしている。不幸にして世界には無秩序という疫病が広がっている。身体を蝕む疫病が広がりだした場合、社会は、疫病の流行から社会全体の健康を守るために、病人を隔離することを認めている」との声明だった。

とある国家を疫病に冒されていると言い、隔離しなければならないと言うのは余りに刺激的な文言だ。


直接には特定の国家を名指ししてはなかったが、ドイツやイタリア、そして日本などの現在他国に侵攻し、支配をしている国家群と受け取られた。

従来、アメリカの外交政策は第25,26米国大統領のセオドア=ルーズベルトが行った棍棒外交だった。アメリカは西半球に欧州諸国が介入するのを防ぐ権利を持ち、艦砲をちらつかせることを辞さないとするものだった。セオドアが外交政策を説明するのに「棍棒を構えながら、穏やかに話す」と言ったことから来ている。米英戦争から、アメリカはモンロー主義と言われる、ヨーロッパ諸国との相互不干渉主義を貫いており、セオドアの政策もここに基づいていた。

フランクリンの声明はこの従来の政策から明らかに一歩踏み出し、国際秩序を壊す国家を隔離すると言った。なおセオドアとフランクリンとは父母の兄妹の孫の関係だ。


フランクリンは、演説の中で、「宣戦の布告も警告もなく、また正当な理由もないまま、女性子供を含む一般市民が、空からの爆撃によって、殺戮さつりくされているのは戦慄する状況だ。彼の国家のこのような好戦的のやり方が他国にまで蔓延するおそれがある。彼の国家は、平和を愛する国民の行動により隔離されるべきです」とも言っている。

日本について言えば中国への侵攻を非難していると受け取られた。


この演説にはアメリカ国内からも賛否が沸き起こった。

ニューヨーク・タイムズなどは称賛する一方、ウオールストリート・ジャーナルは「外国への手出しを止めろ、アメリカは平和を欲する」記事を掲載した。またハル国務長官も刺激的なレトリック「隔離」「伝染病は」無用と批判している。アジアに関してはクリスチャン・センチュリー誌が「もしアメリカが中国のために参戦すれば、喜ぶのはソビエトで、ソビエトの勝利で終わるだろう」と書いている。

一般的に言えば、この当時のアメリカ国人は戦争を欲しない空気が強かった。

また、6つの平和主義団体が「ルーズベルトはアメリカ国民を世界大戦の道に連れて行こうとしている」と非難し、アメリカ労働総同盟は「アメリカの労働者はヨーロッパ、アジアの戦争に介入することを欲しない」との決議を行った。アメリカを参戦させないための請願に2500万人の署名を求める運動まではじまった。


日本国内では毎日新聞が「アメリカ大統領、真意吐露。“戦争もやむを得ず”」「アメリカ大統領、紛争国“『隔離”を提唱」と書き、朝日新聞は「アメリカ大統領、平和確保に協力せん」と題し、その演説内容が日本を指していると紹介した。

日本国内では病人に例えるなどの声明に挑発的、侮辱的と考える意見が多くあった。

「いくらなんだって、日本を病人になぞらえるのはおかしいだろう」

「日本を隔離だ。やれるもんならやって見ろ!」

憤慨し、アメリカへの憎悪を口にする者までいた。


正平とメアリはこの演説を知り、少なからぬショックを受けた。

「残念ね。アメリカ大統領には正平が平和主義者だと書き送ったのに、分かってくれなかったようだわ」

メアリにとって、大統領が日本を憎んでいることが残念でたまらない。

「いや、君の真情は伝わっていると思うよ。あれだけ非難声明をしても、日本を名指しすることはなかったからね」そう言って、気落ちしている妻を慰めるしかない。

急いで正平はアメリカの新聞や雑誌の記事を多く取り寄せた。

それで分かったのが、アメリカ国内の空気は「戦争反対で、平和を欲している」ことだった。

「大統領がどうしてあのような過激な演説をしたのかは理解できないが、アメリカ人がいまでも、戦争に反対なら望みは持てる。アメリカ大統領の気持ちを変えるのは出来ないかも知れないが、アメリカ国民には日本の立場は訴えられる」

正平はアメリカの主要紙に意見広告を出させた。

「日本は中国と和平協議を行っており、両国の間で平和への道を探している。日本は決して好戦的でもなく、病気に冒されてはいません」

それがどれだけ効果を持つか分からないが、日本が戦争を欲してないことをこれからも表明していくしかないと考えた。


ルーズベルト大統領は日独伊の三国を敵視する一方、ソ連がフィンランド、ポーランド、バルト三国などに侵攻しているのは黙認するなどダブルスタンダードでもあった。次話ではこの点にも触れる。


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