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旭日に顔を上げよ  作者: 寿和丸
16章 軍部体制改革
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161話 国防省案

「空軍を創設する」正平は堂々と主張するようになった。石原たちが騒ぎだしてくれたおかげで、正平が言っても普通のように思われだしていた。

「これからの時代は空を制するものが地上も制する。今のように陸軍と海軍がそれぞれ飛行機を持ち合っていては時代遅れになる。」

正平が初めてアメリカに渡り、飛行機を軍事に使えないかと思うようになってから、すでに30年経とうとしていた。

その間に世界大戦があって、人々の飛行機への認識が大きく変わった。

大戦で戦車や潜水艦などの新兵器の威力は凄まじいものであり、わけても飛行機による攻撃は実質的な被害と共に、頭上から攻撃される脅威に欧州の人たちは恐れおののいた。

どのように地上で防御陣を構築しても、空からの攻撃で一瞬に破られる。

「飛行機が将来の主役になる」それは軍事専門家でなくても実感されるようになっていた。


ただ、直ちに空軍を創れという流れには世界のどこの国もなってない。

正平はいち早く空軍創設を認識した方だったが、「日本では陸軍と海軍の縄張り意識が強く、空軍創設は時期尚早」と思っていたのだ。

空軍の必要性を感じても、陸軍と海軍の勢力争いに手を出すことになるから言い出せなかったのだ。

「飛行機の開発は陸軍と海軍がそれぞれ行っております。空軍を創るとなれば、今までの開発した実績はどうなるのです」

そんな声が現場から出てくるのは火を見るより明らか。下手に空軍創設など言い出したら、潰されかねないと思っていた。

だが、自ら首相と陸相を兼務するようになり、立場が強くなったことで、持論を出せることとなった。そこで、暴れん坊の石原を焚きつけて空軍創設を主唱させ始めたら、予想通り大きな反響、反発となった。


そこに河本裁判と正平への襲撃が重なり、世間は一気に正平に肩を持つようになってきた。

暴力を非難するラジオの声明以降、世論は正平の声を信じるようになり、正平に反対する者を「暴力主義者」と見なすまでになった。

宇垣には河本の逮捕を強く反対されたが、結果的には世間は正平に味方してくれた。

逆に言えば、正平に反対する者を悪だと決めつける風潮が生まれ始めたのだ。

そのために正平に面と向かって反論することができにくくなって、「空軍の創設は止むえない」とする意見が陸軍や海軍の中でも多くなっていく。


ただ、空軍創設が現実の方向に動き出すと、具体的な問題が出てくる。

一つは陸海空の軍隊になると、その連携をどうするのか。統率をどうするのか。と言う問題だった。

「今でも陸軍と海軍がいがみ合っているのに、3つになればもっと混乱する」その懸念はもっともなことだった。

永野海相との話でもそれが話題になる。

「空軍を創設するとして、3つの軍をどう束ねるかが問題ですな」海相の永野はのっけから、空軍創設を口にする。

「これは、陸と海から人を出して、具体案をすり合わせるのが良いと思います」

「うん。それがいい。海軍から人を出しますが、5人くらいでどうですかな?」

「ええ、合せて10人くらいなら、意見がまとまり易いと思います」

まず、空軍創設委員会の設置が決まった。


「その上で、3軍体制をどう束ねるかですね?」

「私は国防省を作り、統括するしかないと思います。これからの戦争において、陸は陸だけ、海は海だけで戦えばよいと言う時代ではなくなります。空を絡めた協力体制、陸海空の意思の取れた戦い方が必要です」

「それはなかなか壮大なことになりますが、首相のご意見は最もと思います、でも今言い出せないでしょう」

「はい。私の口からは公に出せませんね」

正平は他にも腹案があったが、それは口に出さなかった。


かつて、高橋是清蔵相は軍部の軍事費要求に手を焼き、また勝手な行動をする参謀本部と対立した。高橋は参謀本部解体論を主張するようになった。

また、美濃部博士は「天皇機関説」で統帥権、天皇の大権で内閣の役割に言及していた。

ただ、どちらも実現しなかった。天皇の直属機関を任じる陸軍参謀本部と伝統的な右翼団体の声にかき消されたのだ。

正平は田中儀一や宇垣でも陸軍の暴走に歯止めを止められなかったのを見ていたし、自らも満州事変の拡大を防止できなかったのを悔やんでいた。

「高橋さんや美濃部さんの意見は正しい。それをどうやって、実現させるかが難しい。」


正平は空軍創設と共に国防省を作り、その中に参謀本部なども入れ込む考えだった。

ただ、今の段階では肚に収めて置き、時を計って言い出すつもりだ。

「総理の意見は正論だと思いますが、今は時期尚早だと思います」

正論に太刀打ちできない時、必ず出てくるのが時期尚早論である。それが最も厄介であり、政策が遂行できなくなる原因だ。

特に官僚役人にそれを言い出されたら、先ずできないと思って良い。

「参謀本部をどうにかしないとまた暴走する。だが、今は手を付けない。いずれ、からめ手で攻めてやる」


陸軍や海軍から反対が上がるのは空軍が出来ると予算が減額されるのではと言う警戒論だ。

そこで正平は言明する。

「空軍を創っても、陸と海の削減はしない。戦車を1万台、戦闘機も同じく1万、空母百隻、潜水艦千隻を目標にする。何よりもこれは我が国の自動車や造船の育成発展につながることだ。この内閣の最大目標として考えてくれ」

正平は空軍創設だけを強く押し出した。

空軍を創設しても予算規模は変わらない。それどころか日頃から要求し続けていた戦車や空母を大幅に拡充できる。陸軍と海軍もそれ以上反論できなくなり、空軍創設が既定のものとされるようになった。

「後は国防省案だが、これは俺が言わなくてもいずれ誰かとなく言い出すだろう。海相との会談でも国防省について強い異論は出なかった。真剣に国防を考えるなら、国防省が必要と分かる。いずれ、誰かが言い出すし、言い出さなければ、誰かに言わせる」正平はそのように考えた。


ここにきて、仕事に追われることも少なくなってきました。

来月から、また毎日投稿できるように頑張ります。

いつまで、このペースを維持できるか分かりませんが、飽きずに読んでいただけたら幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 海軍には母艦航空隊、陸軍には直協機・偵察機を残す形になるのでしょうか
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