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旭日に顔を上げよ  作者: 寿和丸
15章 新たなる決意
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147話 統制派の蠕動

統制派は正平の政策が明確になるにつれ、危機感を抱いていた。

「塚田首相が宇垣に近いことは分かっていた。それなのにどうして就任を阻めなかったんだ」

彼らは陸軍の中央をほぼ彼らの仲間や理解を示す者で固めきったことに胡坐を掻いていた。226事件以降、彼らの敵だった皇軍派を陸軍から追い出し、更に宇垣派も追放したことで安心しきっていたのだ。残っていた宇垣派の連中は彼らに追従するものが多く、宇垣を首相にしようと運動さえしなかった。

「いや、宇垣の首相就任には力で防止している。更に塚田の首相就任まで反対をしたなら、逆に我々のほうが相当な反発を受ける。下手をしたら我々が追及されかねなかった」

「それに塚田は前に陸相をしていた時、1年もしないで追い出せた。彼なら我々の考えに逆らうことはできないとも考えた」

統制派は塚田の力を見くびっていたところがあった。それが塚田内閣では首相と陸相が兼務となって彼らも慌ててしまう。

「まさか首相が、陸相を兼務するなんて思って見なかった。あり得ないことだ。」

組閣人事が公表されてようやく彼らも自分たちに逆風が吹いてきたことに気付く。

「事前に塚田首相が陸相になる話は全く掴めなかったのか」

「陸相の推薦名簿に塚田の名前はない。名簿に無いのに大臣を任命できない。だが、完全に無視された」

「それは問題にならないのか」

「塚田首相が現役の大将である以上、陸相になれる。」

「何か反論できないのか」

これまで軍部大臣現役武官制度を使って、陸軍は組閣人事に介入してきた。だが今度はその手を使えない。

「閣僚名簿が公表された時点でひっくり返すことはもうできない。塚田陸相に反対する理由は見つけられなかった」

「首相と陸相の兼務を前例がないと言う理屈を言っても、宮中が兼務を認めればそれ以上言えない」

「西園寺公が事前に根回ししておいて、宮中では誰も異論が出なかったようだ」

石原たちが去年仕掛けた現役軍事大臣制により、陸軍から大臣を出さなければ組閣できないことになっていた。だが、塚田は現役の大将であり、陸相就任を拒める理由がない。おまけにこの人事は秘密裏に決められており、彼らは気づいた時には手出しできないまで固められていた。


「これは塚田首相が相当な決意をして、陸軍を支配しようとする表れだろう」

「あり得る。首相と陸相を兼務されれば、陸軍の人事に相当な影響が出る」

「かといってどうやって対抗する」

彼らは自分たちが追い込まれていることに気付いた。そして対抗手段が全くないことを知る。


それから御前会議が開かれ、北支の部隊の撤退が決定され、天皇が同意したのが重くのしかかって来る。

軍部はこれまで統帥権を理由に人事や作戦行動を思うがままやれるようになっていた。

だが、塚田首相が天皇の同意を取り付けた以上、逆らうことはできなくなる。

統帥権はもう彼らにはなく、塚田首相が握ったのも同然だ。

もし反発すれば、彼らが統帥権を干犯したことになる。

彼らには抗する道は既に塞がれていた。

陸軍次官や参謀次官を通じて参謀総長や教育総監正に働きかけようとしても、誰も同調してくれる者はない。

そして陸軍三長官会議での人事が決定され、統制派が中央から追放されると決まった。

なにもできないまま、陸軍省中央や参謀本部の統制派は追い払われ、所属の部隊にもどるしかなかった。


ただ、中央での動きを苦々しく見ていた者がいる。満州の関東軍にいる統制派の者たちだ。

彼らは満州にいたことで今回の人事には影響が及ばなかった。

「東京は完全に塚田首相の支配下に置かれた」

「こうなれば、我々が動かないことには打開はできない」

「何か、手はあるのか」

「北支の部隊を動かす」

「北支の部隊は撤退命令が出ているのではないのか」

「いや、命令は出ても、撤退準備が完了していない。まだ部隊は北支に留まっている」

「それなら、現地で騒ぎを起きれば駐留を伸ばせるな」

「うん。匪賊が襲撃してきたので、応戦したことにすれば現地に留まる理由になる。それで、支那軍と交戦となれば、陸相の通達も無効にできる」

「現地部隊の軍備は支障ないのか?」

「現地部隊からの追加補充要請はないが、いずれ不足はするだろう」

「早めに準備しておいたほうがよいな。そして現地部隊には撤退を出来る限り遅らせろ。撤退の準備中に匪賊の襲撃があったことにするんだ」


31年9月に満州事変は起きた。当初は支那の部隊により満鉄線が破壊されたので、関東軍が応戦したものとされた。しかしこれは板垣征四郎と石原莞爾が仕組んだ可能性が高く、彼らは反撃に乗じて、戦線を拡大させて満州から支那軍や張学良などの勢力を一掃するつもりだった。同じ一夕会のメンバーの永田鉄山などと企んだことで、彼らは満州における犯罪増加や反日的な動きを制するためには、武力鎮圧しかないと考え、戦線を拡大させ全満州を勢力下に置こうと考えていた。一夕会系の陸軍中央部と満州司令部とが連携して企てたものだった。

当時の若槻内閣の陸相だった正平もこれに虚をつかれ、対応が後手に回ってしまう。なんとか戦線拡大を防止するのに懸命で、次々と起こる戦闘までを食い止めることができなかった。強制的に現地部隊への兵員や武器の補充を止めれば、それ以上の日本軍侵攻は防止できただろう。だがそれでは日本軍の前線部隊は補給が途絶え、損害が拡大するのは目に見えていた。やむなく補充を認めることになり、それが紛争の長期化に繋がった。

ただ、当初後手に回っていた正平も北満州や錦州への進出を目指そうとした関東軍の行動を断固として容認せず、板垣や石原などもそれ以上の侵攻作戦はとれなくさせた。更に国内において一夕会系の幕僚の動きを封じ込め、手詰まり状態にさせていく。そのまま32年3月になれば、定期異動において一夕会系幕僚を中央から放逐するまでになっていた。これがうまく運んでいたら正平たちは人事権を掌握し、満州問題も早めに解決できたのかもしれない。だが若槻内閣は閣内不一致で倒れ、逆に正平が陸相から外されてしまう。


同じことを満州にいた統制派のメンバーたちが企んでいた。


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