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旭日に顔を上げよ  作者: 寿和丸
13章 激化する派閥争い
112/257

112話 永田鉄山

正平など宇垣派を陸軍中央から追い出したのは事実上、一夕会の中心人物永田鉄山だ。

彼は長野県諏訪の医者の子として、1884年に生まれた。陸軍幼年学校、陸軍士官学校(16期)を経て、陸軍大学(26期)を卒業している。

前にも書いたように、小畑敏四郎、岡村寧次やすじの3人は“陸軍の三羽烏”と称されるほどであり、この3人が行ったバーデン・バーデンの密約を基に一夕会を作り、陸軍は大きく変わっていった。

彼は長期的視野に立って、広く世界と日本を比較し、世界大戦後の陸軍の組織の在り方を提唱している。現場指揮官としては目立った活躍はないが、陸軍中央に居て、始めて国家総動員体制を提唱する。


ドイツ駐在中に世界大戦の惨禍をつぶさに調べていた。

大戦は1914年7月から18年11月まで続き、戦死者900万人、負傷者2000万人と数えられる。参戦国は32カ国に及び、参加兵力は6800万人、戦費は3400億円になったと言われる。ちなみに当時の日本の国家予算は10億円である。鉄山はこのことに大きな衝撃を受けた。

「今後の国家間の戦争は、国家総力戦が避けられなくなり、植民地、勢力範囲が複雑に絡み合い、長期にわたる世界大戦になる。

新兵器の登場も大きく戦争を変えた。大規模な機械による戦争、交通・通信手段の飛躍が戦死者を増大させた。軍需物資を供給できる体制を整えなくてはならない。国家総力戦となり、国家総動員体制を構築するのが急務だ」

日本を国家総動員体制にする。これが鉄山の構想の骨子になる。

「大戦以後、昔の戦争とは大きく様相が変わった。これまでの速戦即決は不可能となり、長期持久戦を覚悟しなくてはならなくなる。武力による戦争の決着は昔日の夢となっている。今や戦争の勝敗は経済力の優劣により決まる。」と結論付けた。


また、ヨーロッパ諸国の軍人力、軍事物資の生産・資源などを戦争に注ぎ込んだのを目のあたりにして、日本の軍備や政治経済の遅れを痛感する。

そこから宇垣軍縮の時に永田は軍事課長として、地上兵力、4個師団約9万人を削減した。その浮いた予算で、航空機・戦車部隊を新設し、歩兵に軽機関銃・重機関銃などを装備させたのだ。宇垣軍縮は陸軍内部で大きな反発を呼んだが、永田は軍縮に賛成し、強力に推し進めている。

「日本の軍事力は近代化、機械化が遅れている。地上兵力を削減して、その浮いた予算で近代化装備するのは合理的だ」

永田自身は長州閥の支配体制に反発し、宇垣を敬遠はしても、合理的な政策には賛成した。それが永田の器量の大きさだった。


「新兵器の破壊力が飛躍的に向上し、旧来の兵器では全く対応できない。新兵器の装備と改良を進め、軍の作戦行動を転換する。」

「そのためには国家の工業力・技術力が基本となる。しかし現状の日本は明らかに劣っている。」

鉄山は大戦終了時の各国飛行機量を次のように見積もった。

フランス、3200機

イギリス、2000機

ドイツ、2500機

日本はわずかに100機だった。

戦車の保有台数

アメリカ、1000両

フランス、1500両

ソ連、500両

日本は40両だ。

大戦時にイギリス、フランス、ドイツが1日に使用した砲弾は30から40万発。一方日本が日露戦争での使用数は100万発で、欧州各国の3日分にしかならない。

鉄鋼生産量でもその差は歴然としている。

アメリカ、2840トン

ドイツ、1450トン

イギリス、495トン

フランス、404トン

日本はたったの87万トンだった。冷静な目で他の軍事強国との比較をしていた。

「日本の工業力は余りに劣っている。後方から弾の続いてこない兵隊を戦線に並べるのは無意味だ」

永田は弾薬の補充が来ない状況での戦いがどんなに不利かわきまえていた。


しかも日本は国土が狭く地下資源も貧弱だ。それでは物資の自給自足ができない。

「ドイツが4年半も戦争を継続できたのは国内に豊富な炭田や鉱山があったからだ。そして負けたのは国内の自給体制が整っていなかったからだ」

小さな国土に乏しい資源。それでは日本は勝てない。ならば、それをどうやって補うか。

「国防に必要な資源は国内にあるものは保護する。そして国内で不足するものは海外に求めるしかない」

鉄山の眼は自然に満州やモンゴル、そして支那に向いていく。

「今の満州、モンゴル、支那の産出量はわずかであるが、埋蔵量は見込まれる。これを確保する」

永田は軍事必要物資の鉄、銅、石炭などの他に、小麦や羊毛などの17品目を上げ、それぞれの生産状況と生産地を列挙し、多くを満州、モンゴル、支那に期待した。

この永田の考えは仲間、特に後輩に大きな影響を与え、日本軍が満州から北支に進出するきっかけにもなる。


永田鉄山の結論はこうだった。

「必ず次の世界大戦は起こる。それに備えて国家総動員体制を整え、新兵器を改良装備し、資源を確保する」

その資源の先を満州と北支那だった。

彼が満州事変を引き起こしたのはこのような理由であった。


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