第七十話 緊張感
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聖都の門を抜けた、外側には木々が凹凸の激しい地面と深々な草木が広がっている。
俺達は、その中を馬で移動していた。
なるべく音を立てないよう、注意して馬を歩かせる。
この暗闇に紛れるように、昏い街灯や衣服を着ている。
特に、プレイアンデル姉妹はなるべく体勢を低くさせて移動してもらっている。
巨人族は、比較的にかなり珍しい種族だという。
普段から、一目に姿を表わす種族ではないそうだ。
住処は、大陸中央部の大神林。
その体躯も相まって、目立つ。
たがら、目的地である幻界領域に辿り着くまでは、工夫して目立たないように動く必要があるだろう。
「小さくなったりとかは出来ないのか」
ま、それは当然である。
そんな事が出来てしまうのは、一寸法師くらいであろう。
「少しだけ、いい?」
マイアが、馬を並べて話しかけてきた。
ディナやエレクトラー達は後ろの方で仲良さそうに話している。
まるで、女子会だ。
こういう時、同性が居ないのは困るなぁ…
「聞きたいことがあるか?」
「ええ」
「なんだ?」
「貴殿は、叛逆の神女の居場所を知りたいと言っていただろ?」
元々の目的は、彼女達から叛逆の神女の居場所を教えてもらう事が目的であった。
「ああ、そうだ」
「どうしても知りたい真実があって、その鍵を握っているのは彼女かも知れない…そう思ってな」
アルケイデスの残した書物の中に、彼女が女神を殺す鍵を握っている。
そう、記されていた。
それは、女神すら知り得ない異界暗文を用いてその方法を記した。
女神、いや神を殺す方法を叛逆の神女が何かしらの方法で発見した。
偶然か、それは分からないが…どっちにしても、女神にとってそれが自身の命をも脅かすかも知れない事には変わらない。
だから、女神は彼女を叛逆者として殺そうとした。
だから、彼女は女神やその手先から逃れる為に…女神すら近付かないとされる幻界領域へ逃げ延びた。
それなら、合点が行く。
「彼女を危険に晒すつもりはないのだな」
「ああ、何事もなければな」
俺だって、誰彼構わず襲い掛かるわけではない。
殺すと決めているのは、悪人だけだ。
もし仮に叛逆の神女が善人なら殺す必要は全くない。
昏いな。
空を見上げる。
夜空は暗い雲が掛かっており、月も星も隠れている。
此処は森、街灯などな無い。
手に持っているランタンが唯一の光源。
暗闇にある程度だけ慣れている俺でも、灯なしで歩くのは難しい。
道も、木々が鬱蒼としていて進み辛い。
筈なのだが…さっきから順調に進めている。
恐らく、シェカとルーパーが居るからだろう。
「その二人、夜目がきくのか?」
「ああ」
ルーパーは額にある、宝石が第三の目の役割を担っているらしい。
シェカは獣人の特徴である鼻の良さで正確な道が分かると言う。
この2人の特性には、お世話になる事が増えそうだ。
「人は誰しも闇を恐る、しかし君は恐れていない」
「闇程度に恐れてちゃ、復讐なんて叶わないよ」
「君のような少年が慣れていいものではないが…それよりも灯は付けないのか?」
「ああ、暫くはな」
まだ、後方には聖門と城壁が見えている。
灯りを付ければ、目立つ可能性が高い。
だから今は出来る限り、闇に紛れて動きたい。
プレイアンデル姉妹が居なくなった事が、既にバレているかもしれない。
もしも、バレれば必ず奴らの追手が放たれる。
その時に、少しでも手がかりになる要素は排除しておいた方がいい。
出来るだけ、光もつけたくない。
「私達はまだ甘かったようだな」
と、マイアがそう呟いた。
「人間を信用しすぎない事に注意しながら生きてきた。しかし結局は、私達は心の中で人は誰しもが悪ではないのだと子爵などを見て思いいつしか信用していた…その結果がこれだ…2度もこの子達を危険な目に遭わせてしまった」
信用と信頼。
これらを築き上げるのは難しい。
しかし、築き上げて終えばそれを裏切るのは簡単だ。
彼女達は優しすぎた。
人には必ずしも優しい心があるのだと最後まで信じていた。
俺はそんな甘く、哀れな彼女達を好ましく思う。
だからこそ、嫌になる。
自分の醜さが、憎い。
「気に病む必要なんてない。アンタらはアンタらの信じたものを信じればいい。例えそれが悪だったとしても…そういうのを排除するのはいつだって、同じ土俵に立つ俺達の役目だからな」
暫しの、沈黙。
「この身、この心は既に貴殿のもの。貴殿が進むと決めた道ならば何処までもついて行く。例え…この手が穢れても」
「ずいぶんと物騒な信頼だな」
「迷惑か?」
「いいや?ただ、お前達まで手を汚す必要はないさ」
「優しいな…それに理由はまだある」
マイアが、此方をみる。
「今、この状況となって…私達は、君を信じる事しか選択肢がない。それに、君とアルレイヤとディナ殿のやり取りを見ていて思った」
「君達なら、信用できる」
随分とまぁ、信用されたらしい。
「ありがたい話だが……そう思う根拠は?」
「この子達は、きっと足手まといになる」
「…………」
「非情な事を言うが事実だ。これから我々が赴くのは、人類にとっても未知の領域である幻界領域だ」
ルーパーとシェカはまだ子ども。
そして、戦う術を持たない。
そんな二人を危険で凶暴な怪物が蔓延る危険な領域まで連れて行く。
そうなれば、誰か一人でも二人を守る為に立ち回る必要があるのは当然だ。
非情だが、やはり事実だ。
「それが分かっていると言うのに、君はルーパーとシェカの同行を快く受け入れてくれた…普通なら置いて行けと要求する者が殆どだろうに君は違った。それだけで私は君が信頼に値すると考えている」
どうせルーパーとシェカは、道中で死ぬ。
旅の途中で2人が怪物達に殺されたなら、プレイアンデル姉妹は…
2人が、死ぬ前提で連れて行く。
初めから自分達だけを目的として。
そんな考えを姉妹は持っていたのかも知れない。
だが、それは懸念でしかない。
俺は、俺達は何があっても2人を守る。
死なせはしない。
例え何があろうとも、死なせるような真似はしない。
「君は自分を悪だと謳うが、私からすれば善人にみえる」
「それは、見る目がない。俺は紛れもない悪だぜ、頭の中ではアンタらをどうすれば連れ出せるかという悪巧みしか考えていなかった」
「ふふ。その悪巧みの中に、我々を痛めつける事や殺すという考えはなかったのだろ?」
「まぁ、な」
それは、絶対にしない。
そんな事をすれば俺は、本当の屑共と肩を並べる事になってしまう。
「ま、あんまり人を信用しすぎるなよ」
「分かっている」
百も承知か。
ならこれ以上、何かを言う必要もない。
アルレイヤといい、善人というのは本当に…見捨てづらい。
「おっと」
少し、体勢が崩れてしまった。
「ひゃう!?」
反射的に、一緒に乗っていたアルレイヤの身体を強く抱き締めてしまった。
直後、アルレイヤの方から可愛らしい声が聞こえてきた。
よく見ると、特徴的に尖った耳が真っ赤に染まっている。
「悪い」
「いいい、いえ…お構いなく!」
完全にテンパっている。
「なぁ、誰かと変わるか?」
「ふ、ふぇ!?いきなりどうしたのですか!?」
「いやー、何といかアルレイヤが落ち着かないと思ってな…」
一頭に二人乗りという事で、かなり密着している。
同性ならまだしも、異性同士という事で先程からアルレイヤは妙に意識してしまっている。
「大丈夫です!!私が勝手に意識してしまっているのです…申し訳ありません、、、」
「いや、謝る必要なんてない。その、俺だってアルレイヤみたいな絶世の美女と密着してるんだ…意識だってするさ」
俺も、立派な男だからな。
普段は、冷静さを取り繕ってるが…俺だって結局は他の男達と変わらない。
「そ、そうなのですか!?全く分かりませんでした…な、ならもしかして今も…?」
「まぁ、な」
「……ッ!!?!?」
アルレイヤの顔が、更に真っ赤になる。
トマトみたいだ。
「ど、どんな風に思ってるのでしょう…」
恥ずかしいなら、聞かなきゃいいのに…
というか、さっきから視線が痛い…特にディナ!
だがここまで女性に言わせたのなら、答えるしかない。
「ディナには敵わないが、好ましく思ってるぞ」
「!そう、ですか…」
アルレイヤが嬉しそうに、言葉を漏らす。
「ぬぅ…浮気者め」
「う、羨ましい」
「姉さま!?」
何というか、緊張感がない。
ま、ずっと重苦しい空気で過ごすよりはマシだろう。
そんなこんなで俺達は、森の中を進む。
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