第四十九話 命懸けの攻防の果てに
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瞬殺。
正に、瞬殺の一言に尽きる。
あまりにも呆気な過ぎる決着。
パーシヴァルに油断はなかった。
慢心もしていなかった。
常人ならば動き出した瞬間に、返り討ちに遭っていた筈だ。
いや、慢心はあったのかも知れない。
だがそれ以前に、相手が悪かった。
悪すぎた…のだ。
パーシヴァルは決して弱くはない。
寧ろ、あの遺跡の魔物に匹敵するほどの力を持っていた。
或いは、俺とならまだ勝負になっていただろう。
それは、パーシヴァルも分かっていた筈だ。
だが、敢えて神であるヴォーディガーンを相手に指名した。
それが、運の尽きだった。
流石に、同情する。
「なにが、起きた、の?」
「パーシヴァル…?」
「ば、馬鹿な…」
ルキウス。
ガレス。
ボールス。
残された円卓十剣は、何が起きたのか理解出来ず。
ただ呆然とその場に立ち尽くしている。
そして、彼等は理解する。
邪神龍ヴォーディガーンの名が、姿が"本物"だと。
「死ん、だ?あ、あり得ないっしょ?あのパーシヴァルだぜ?」
余裕の笑みを浮かべていたルキウスの顔は、不安と恐怖に歪んでいた。
絶対的な強者が、たった一撃で殺された。
己達が最強だと信じて疑わなかったその浅はかな慢心が、このざま。
「ふん、所詮この程度か。つまらん…リュート、後は任せるぞ。」
心底、つまらなそうに…頭が潰れたパーシヴァルの死体を見下しながらそう呟いた。
「と、言うわけだが…どうする?」
俺は敢えて、奴らに問い掛ける。
「まぁ、悪いがお前達は皆殺しは確定事項なんでな。抵抗しないなら楽に殺してやるよ。」
「ふざけろ。仲間がやられて黙って殺される訳ねぇーだろうがぁ!」
ルキウスが戦意を取り戻した。
仲間がやられた事で、更に殺気や力が膨れ上がる。
そのルキウスの行動に触発され、他の二人も戦意を取り戻す。
「危険なあの女は後回しだ!その前にムカつく、あのガキを殺すぞ!」
ルキウスが武器を構え、龍と共に動き出す。
続くように、ガレスとボールスもまた動く。
狙いは、俺。
「ーー神龍鎧装」
漆黒に燦めく機鎧を身に纏い、地を蹴る。
「オラァ!」
ルキウスが投槍を投擲する。
凄まじい勢いで投げられた槍が大気を奔る。
同時に、ボールスとルキウスが俺を左右から挟み込むようにして襲い掛かる。
投擲された槍を、躱す。
体勢が崩れた隙を狙って、ボールスとルキウスの剣と斧が振り下ろされる。
「獲った!ーーなっ!?」
そう確信したのも束の間。
常軌を逸した反応速度で、リュートは崩れた体勢でルキウスの剣を右腕の肘辺りから突出した刃で受け止める。
ボールスの振るった斧も同じようにリュートの左腕の刃に阻まれる。
「一旦、離れーーっ!」
「させるかよ。ーー『龍撃槍』」
攻撃を受け止められた一瞬の隙で、リュートの反撃が放たれる。
ルキウスは、辛うじて反応し攻撃を受け止める。
(…っ、重ぇ…ボールスは…!?)
音速を超えた拳。
反応の遅れたボールスの顔を捉える。
ボンっ、と音を立てて首が跳ぶ。
主人を失った龍が襲い掛かるが、漆黒の焔が龍の身体を焼き尽くす。
「このっ…化け物がぁ!死ねぇぇぇええ!!!」
ルキウスの剣が疾風を纏う。
(加減は要らねぇ!この化け物を殺す為には、限界を超える必要があるっ!!思い出せッ!仲間達の死を!!)
ボールスとは、魔獣狩りや亜人狩りをして互いに数を比べ酒を呑みあった。
パーシヴァルは、円卓十剣として尊敬し切磋琢磨していた師とも言える存在。
そんな仲間を、この訳のわからないクソ野郎達に殺された。
奴らを逃せば、女帝が危ない。
だからこそ、コイツらは此処で殺さなければならないっ!!
「ガレェスッ!!」
ルキウスが叫ぶ。
彼の意図を理解したガレスはコクリと頷く。
(すまない…だが、こいつを殺すにはこの方法しかねぇ!)
集中しろ。
考えるな。
聖剣よ…俺に力を寄越せ。
仲間の為に、ルキウスは己の枷を外した。
凄まじい魔力が、彼の聖剣に収束する。
疾風は、強大な竜巻へと成り代わる。
彼の愛龍もまた、主の想いに応える様に駆ける。
リュートは、させまいと攻勢に出る。
拳に龍気を込めて、再び龍撃槍をルキウスに向けて放つ。
その瞬間、ガレスが間に飛び込んでくる。
「ーー右には、赤き楯…左には、蒼き楯!
二つ合わさりて、我が命こそ黒き強靭な楯とならん!聖盾、開廷!ーー『我が命、即ち、黒楯なりて』ッ!!!」
紅き盾と蒼き盾が一つになる。
漆黒の大楯が、リュートの攻撃を受け止める。
バキ!、バキンッ!!
しかし、リュートの拳は万物すら塞ぐ盾を容易く破壊しガレスの身体を容赦なく貫いた。
ガシッ。
「!?」
間違いなく、即死レベルの傷。
されど、ガレスは最期の力を振り絞りリュートの身体を抑える。
「ルキウスッ!!!」
血反吐を吐きながら、仲間へと繋ぐ。
「応ッ!!」
ルキウスが肉薄する。
回避は、間に合わない。
「ーー我が同胞達の命を礎に 踏み抜き 我は誓う
ーー汝らの犠牲に 我が勝利を捧げると
ーー『命よ、疾風の如く』」
限界を超えた、最速にして最強の一撃。
その一振りは音速を超え、数多の犠牲を礎にリュートの首筋に振り下ろされた。
しかし…
ガキィンッ!!
ルキウスの振るった刃は、確かにリュートに届いた。
「悪いな。」
渾身の一撃。
命を賭けた一撃は、リュートには通じなかった。
スパッ。と音が鳴る。
「化け、物が…ゴフッ」
喉を掻っ切られ、大量の血を流す。
そして、地面に大きく倒れ伏した。
決着は着いた。
その間、わずか5分。
胸元に風穴が空き絶命したガレス。
首から上を失い、絶命するボールス。
喉元から、夥しい血を吐き斃れるルキウス。
そして、傷一つなく佇むリュート。
圧勝。
それは、誰の目にも明らかな結末だった。
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