第十四話 動き出す世界
リュート達が地上に出る数日前。
世界は知らぬ所で動き出していた。
大陸の北西部全域に位置する"魔神大陸"を拠点とする魔神の軍勢が、大陸全土に向けて進軍を開始した。
この大進軍によって、西部に位置するマリア神聖国と北部に位置するエーレ聖王国の国境を守護する大結界オルレアンが魔神軍の攻撃によって陥落した。
大結界オルレアンの陥落後、魔神軍は進軍の足を緩めた。
この進軍によって受けた被害で大結界の陥落という事以外目立った報告は無かった。
だが、魔神軍による侵攻によって大陸全土は酷く混乱し、四大勇者国を含めた諸国は早急の対策をせざるを得なかった。
この報せは無論、四大勇者国の一国。
ヴィーナス勇王国に召喚されたリュートのクラスメイト等の元にも届いていた。
ーー
勇者side
《鬼龍院藍那》
女神によってヴィーナス勇王国に召喚されて、一ヶ月。
女神様によると、遂に魔神とその軍勢が動き始めたらしい。
魔神とその軍勢は遥か北西端の魔界大陸と呼ばれる場所を本拠地とし、ここ数百年は魔界領域から魔神軍が動き出したと言う報告は無かったらしい。
だが、今回突然に魔神軍が侵攻して来た事によって混乱が生じ適切な対処が取れず西部に位置するマリア神聖国と北部に位置するエーレ聖王国の国境を守っていた結界が破られたと聞いた。
その報告を聞いたのは、今さっきだ。
女神様に玉座の間に呼び出され、魔神軍の侵攻とそれに伴う私達の方針と対策が今回の内容だった。
いよいよ、本格的に魔神との戦いが始まると悟ったクラスメイト達は何処か心穏やかでは無い。
混乱する者。
歓喜の声を上げる者。
恐怖する者。
皆んな、反応は違えど確かな動揺と不安が表情や態度に現れていた。
クラス委員長の私や副委員長の浦蟻くんが協力してクラスメイト達になるべく寄り添う事を心掛けた。
偽善なのかも知れない、だけど私はクラスメイトはもう一人も失いたくない。
思う所はあるけれど、私はそれでも皆んなの為に頑張ろうと思う。
それに私は一人じゃない、漆原さんや姫羅技さんや由香里が側で支えてくれている。
まだまだ、私は弱い。
だから、強くならなければならない。
今私の目標はレジーナさんだ。
あの人は強い。
いや、強い…なんてものじゃ言い表せないかも知れない。
単純な強さだけじゃない、極限まで鍛え上げられた"技"と洗練された動き。
浦蟻くん達でさえ、苦戦した大型の危険種をたった一人で一撃で仕留める程の剣技には惹きつけるものがあった。
今の私では、レジーナさんの足元にも及ばない。
だからこそ、もっと死に物狂いで魔物達と戦って強くなる。
クラスメイト全員を一人で護れる位に…
「随分、思い詰めてるわね鬼龍院さん。」
「え?ああ…少しね…」
「私はもっと強くならないと行けない。そう思って…」
「そっか、でもさ〜そんな思い悩まなくても良いんじゃない?あーしはさ、姐さんと藍ちゃんとゆかりんが無事でいてくれたらそれで良いと思ってるんだー」
姫羅技さんは、そう笑顔で言う。
「わ、私もそう思う。」
「由香里…」
「鬼龍院さん。貴女は一人じゃない、貴女の側には私達が居る。だから、もう少し頼ってくれても良いのよ?それとも、私達は頼りにならないかしら?」
「ちがっ…」
違う、そうじゃない…
3人はいつも私を支えてくれている…それには、感謝している。
でも、私は彼女達の頼りになっているのだろうか…そう思うと不安で仕方ないのだ。
失望されてしまうのが怖い…そう思っている内に私は…
「そうじゃないの…私は皆んなが思ってるよりも弱い人間なの…表面上は誰よりも強くあろうとしているけど、本当は誰よりも臆病でどうしようもない人間、それが私なの…だから私は、誰かに頼られるほど立派な人間じゃない…それを知った貴女達に失望されるのが怖くて、不安で仕方がないの。」
「そう…大変だったのね。でもね鬼龍院さん、貴女がどんなに臆病でも私達は決して貴女に失望しないしする事はないわ。
それでも怖いなら、せめて私達には貴女の気持ちをしっかりと伝えて欲しい…何度も言うけれど、貴女は一人じゃない。」
「そうだよ、藍ちゃん!あーしは、そんな藍ちゃんも大好きだし〜」
「私も大好きだよ!」
漆原さんが私の手を優しく包み込んで、姫羅技さんと由香里は私を優しく抱きしめてくれた。
とても温かい…その優しさと温かさに私は自然と涙が零れ落ちていた。
ずっと不安だった…この異世界に来て、右も左も分からずに大切な人を失って、それでもクラス委員長として強くあろうと頑張った。
それでも、心の中は不安でいっぱいでずっと孤独感に苛まれていた。
でも、私は一人じゃない。
支えてくれる、友人達が居る。
なら、もう何も怖くない。
私はこの異世界でも、自分を貼り続ける。
せめて、3人にとって誇れる人間になろう。
その日、私達はお互いをもっと知る為にたくさんお話をした。
そして、4人で寄り添って眠りに着いた。
?????
「おや、鬼龍院さんは部屋に居ないみたいだね。漆原さんの部屋に居るのかな?全く、頑固な人達だ…早く、僕の玩具にしたくて堪らないなぁ。」
ーー
ヴィーナスの自室。
煌びやかな宝石が飾られた椅子に座る王女にして女神ヴィーナス。
彼女の周りには、幾つもの報告書が広がっていた。
「ふむふむ〜
魔神の軍勢が遂に動き出したのですか…
これは近いうちに、大きな動きが再びあるかも知れませんね。ねぇ?レジーナ?」
微笑み跪いていた、レジーナの口に薄いタイツを履いた足先を向ける。
「それで、私は何を?」
「魔神が動き出した事によって私はこれから、忙しくなるでしょう。そこでです。一時的に貴方に勇者達を託します。」
「私がですか。」
「ええ、貴女なら適任でしょう。この国でもいや、この大陸でも神に近しい力を持った貴女になら勇者達の纏め役も務まるでしょうしね。」
「は。」
「それに、貴女は私が最も信頼するペットですからね!」
女神ヴィーナスは、そう言って自身の局部を開きレジーナの前に近付ける。
彼女の局部には、男でも驚くような立派な棒が備わっていた。
「さ、服従の儀式を!」
レジーナは、彼女のソレに誓いの口付けを躱わす。
そして、ゆっくりとソレを咥える。
生々しい音が部屋に響き渡る。
「ぺろ……ぴちゃ」
「いいですねぇ!よい、ご奉仕ですです!」
扉がノックされた。
「どうぞ、お入りなさい」
「報告に参りました。」
文官と思わしき貴族の男が部屋に入ってきた。
そして、女神ヴィーナスが行っている行為に少し目を逸らす。
「ご報告ですか?」
「はい。先程、帝国より円卓十剣の部隊がアネット国に向かったと報告が来ました。」
「ああ、そう言えば…彼等はアルレイヤ・ペンドラゴンの行方を追っていたのよね?ようやく見つかったのですね〜、逃げ足が早く隠れるのも上手かったようですが…流石は帝国ですね。
私としては、彼女に興味があったのですが……今となっては、どうでも良いですね〜、あでもでも…彼女を殺すのなら、聖剣を譲って頂きたいなぁ…アレは危険ですしね。
んー、でも殺すのは勿体無い気もしますが…面識は一度しか有りませんが、端正な顔立ちに気品は利用価値があったのですが……国民や信頼していた騎士に姉に裏切られて国を追われた哀れな勇者…まぁ、それを手助けしたのはわたしなんですがね♡幾ら彼女が強かろうとも、逃げ切るのは不可能でしょう。
しかし、どうやって今まで見つからなかったのでしょう?後で、帝国の龍王に聞いてみましょうか。」
女神ヴィーナスがレジーナの頭をがっしりと掴み自身の局部に押し付ける。
「四大勇者国でも最も強大な国。彼女が国を追われるまで2度しか王が交代していないブリテン帝国…その最高戦力である円卓十剣の扱いにも困りますね。それに、今の龍王はかなり厄介で関わりづらいですし…
彼等は個々の戦力は高く優秀なのですが曲者揃い。
まあでも、勇者育成の為ならあの蜥蜴神擬き女も引き受けてくれるでしょう。」
あ、そうだ忘れてました!と、自分の局部に押し付けていたレジーナの存在に気付いた彼女は直ぐにレジーナを引き剥がす。
だがすでにレジーナは、白目を剥き身体を痙攣させて倒れていた。
「今回の勇者はとても優秀で従順でしたから、成長も早いですし…次のステージに進みましょうか。
「では、貴方に頼みたい事があります。
まず初めに、エーレ聖王国に頼んで”五勇士"を派遣して頂きましょうか。
それと……癪ですが、あの非勇者国の冒険者"竜誓剣団"にも声を掛けましょうか。
それと、マリア神聖国の"聖女"か"神煌騎士団"のどちらか
大帝国の円卓騎士団の円卓十剣の何人かを借りましょうか。
その他にも、勇者達を刺激してくれる優秀な人材を集めましょうか。
では指示通りに動いてくださいね?」
「は!」
文官が急いで部屋を出ていく。
「ふぅ…」
女神ヴィーナスは、溜息を吐きベッドに横たわる。
「魔神との決戦も軍勢と近いかもしれませんねぇ……そして、魔神を殺し終えたら、あの忌々しい帝国の蜥蜴神擬きも殺して…偉そうに威張るアチラの神々を殺して私が唯一の神に君臨する夢も現実味が浴びて来ましたね。
その為には、勇者達や私に従わない者を始末しなければ!」
次回の更新は未定です。
が、春休みなのでなるべく多く投稿しようと思っています。




