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第8話 メルは案外頑固な子

 ビッグハムが勧めるいくつかの首輪を俺は見つめながら「今回は僕が払う。メルに俺からのプレゼントだ。本当は解放してあげたいのだが、無理なようだからせめてもの気持ちだ。好きな首輪を選んでくれ」と、メルに伝えた。


 するとメルは、非常には驚いた表情をして俺の方を見た。勿論ビッグハムも驚いている。メルは俺が渡したタオルを、ぎゅっと握りしめた。


「では、首輪をすべて見せてくれ」


 俺はカウンターにすべての首輪を並べさせ、メルを呼び寄せた。


「メル。どうしても首輪をつけないといけないらしい。だから好きな物を選ぶんだ。これは命令だ」


メルはタオルを強く握りながら、落ち着かない様子でいた。


「は、はい...」と小声で言いながら、メルは首輪をじっと見ていた。そして、その中の一つに目を奪われるように見入った。


 伸縮性のある革に、おしゃれな水晶をあしらった首輪だ。社交会用で、首輪というよりもチョーカーにみえる。


 これにしよう。


「これを頼む」と俺がビッグハムに告げると、メルが「だ、旦那様!それはここで一番高いものです!わ、私は左端のものが一番気に入りました!」と慌てながら俺に伝えてきた。


 そのあとメルは、「ぐっ」と呻き声をあげたが、必死に平然を装うとした。


「嘘をつくなメル。嘘はダメだよ。僕に嘘をつくと首輪が締まるんだろう?一番右の物が気に入ったんだろう?僕も水晶があしらわれた革の首輪が、一番メルに似合うと思う。だからこれにしよう」


「だ、旦那様。ほ、本当にありがとうございます。こんな素敵な首輪は一生付けられないと思っておりました。本当に不細工で、醜い肢体をしていますが、精一杯お尽くしいたします」


 土下座をして泣きながら喜んでいる。でも不思議な感覚だ。どんなにおしゃれでも奴隷の首輪だぞ?まあメルが喜んでくれているし。俺もこちらの世界の感覚に慣れる必要があるかもしれないな。


 そうメルに伝えた後、新しい全身を覆うフードを受け取り、メルにそれを着せて商会を後にした。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「そ、そのあ、ありがとうございました。ご、ご主人様」


「ご、ご主人様⁉」


 メルが言った言葉に驚いて、大きな声を出してしまった。


「ひぃぃ!すみません。すみません」


 メルは身をかがめながら殴られると勘違いしたのだろう。身をかがめぶるぶる震えている。


 俺はこれ以上メルを怖がらせないように、できるだけ優しい声で 「ごめんねメル。そういう意味でなく、その照れくさいというか。ご主人様なんて言われたことないし。メルに暴力を振るつもりはないよ。だから頼むからそんなに怖がらないで」と伝えた。


「すみません!すみません!で、ではご主、い、いえ...何とお呼びすればよろしいでしょうか?」


 メルは俺の目をみつめて言ってきた。すごい真剣な表情だ。


「じゃあ智也で」


「無理です。そんな言葉を発したら、私は一発で首が閉まって死んでしまいます、身体も自分の心も」


「な、ならと、智也さん」


「それも無理です。あなた様は命の恩人様です!私の命よりも大切なお方に『さん』付けなど、絶対無理です!!」


 すこし怒った様な表情で俺に伝えてきた。そんな表情も...可愛いな。


「そのような呼び名を私があなた様に使うと、周囲から変な目で見られるかもしれません。いえ、見られます。私はそれに慣れていますが、あなた様を巻き込むわけにはいきません。ですので、『ご主人様』という呼び方が無難で良いと思いますが、いかがでしょうか?」


 そうメルが俺に教えてくれた。「わ、わ、分かったけど。向こうの世界、いや僕の故郷に行ったら「智也さん」でお願い。いや、これは命令だ」

 

 メルは渋々了承した。俺は話をはぐらかす様に、「メル、タオルを使って顔を拭いていいんだぞ。顔とか腕とか綺麗にしたいだろう?」


「いえ、こんな柔らかなタオル、貴族様でも使ったことが無いと思います。私には勿体ないです。使えません!」


 メルって案外...頑固なの?


「あと、ご主人様、そ、その、は、発言をしてよろしいでしょうか?」


 メルは俺の顔を見て、怯えながら伝えてきた。えらくビクビクしている。


  俺がもちろんだと告げると、メルはおどおどしながらも、「私はこの後、どうなるのでしょうか?ゴ、ゴ、ゴブリンに犯されるのでしょうか?」と聞いてきた。


 泣きそうな表情で、必死にメルは訴えてきた。そうだ!勢いでメルを買ってしまったけどどうしよう?こっちの世界じゃ、メルの立場は最悪だしな。


 腹立つよな。でもお地蔵様が言っていたのが分かった様な気がする。こういうことなんだな。不遇な処遇にあっている者たちを救えって。


 でも「能力100万倍」って何なんだろう?俺の能力や力が、すごく上がっている訳でも無さそうだし?どういうことなんだ?


「メル、心配しないで。そんなことはさせないよ。だから、俺の家に来てリラックスして。その後で、家事を手伝ってもらえるかな?」と提案した。


 メルは「えっ!私が、ご主人様の身の回りのお世話をするのですか?」と言った後、困惑した表情を浮かべた。


「ごめん。やっぱり嫌だよね」


 そうだよな。俺みたいな不細工の世話なんかしたくないよな。ごめんよメル。


「い、いえ、め、滅相もございません!てっきりゴブリンに犯されるか、オークを倒すための盾にされるか、弓矢が飛んでくる罠の解除をさせられるか。それとも内臓でも売られるかと思っておりましたのて...」と、メルはすごく早口で俺に伝えてきた。


 そんなことしないって。全部死んじゃうじゃんか。


「それよりメル。まずお風呂に入って体を綺麗にしようか」


 メルにそう話しかけたとたん、突然俺たちの前に三人組が現れて、俺とメルを取り囲んだ。

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