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第30話 激闘

 俺の思いのたけをクラリスに伝えると、彼女は静かに頷き「主様...もちろんです。ただ...あなた様は本当に男性なのですか..?こんなに心が強くて、しかも女性を大切にして、さらに女性をリードする男性など、このナイメール星には存在しません」


 そう言った後、クラリスは俺の表情を不思議そうにじっと見つめていた。


「そして...私たちの様な外見が醜い者に対して救いを差し伸べる男性など...このナイメール星には存在しません!あなたは、いえ、主様はいったい何者なのですか?」


 言い切っちゃった。そんなことは無いと思うけど...。


「その話の続きは生き残ってからだ!さあ、一緒に悪あがきをするぞ、クラリス!」


 俺はクラリスに向かって大きな声をあげ、さらに自分の顔を両手で「パンパン!」と叩き、気合を注入した。


「残っている全魔力を振り絞って、メルに魔法をかけ続けろ!クラリス!」と、クラリスに指示を出した。


「はい!主様!」


 クラリスは俺の指示に従い、緊張した面持ちでメルに再び回復魔法をかけ始めた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「何をしているんだい!あの髪の短いブサイクを復活させるな!早くあの髪の長い女を殺すか、腕の1本でも切り落として、魔法をかけられなくするんだよ!」


 ミルミルは生き残った部下たちに向かって、雷鳴のような声で鋭く命令を下した。


 その声に反応したドラリル一味は、鞘から各々の武器を抜いた。辺りは暗いが不気味なほど、刃物の刃渡りが光り輝いて見える。


 数名のドラリル一味がクラリスを仕留めようと、こちらに駆け寄って来る。クラリスは敵が迫っていることに気づかず、魔法の詠唱に集中していた。


 驚くべきことに、暗闇の中でもはっきりと分かるほど、メルの肌の色が改善している!先程と同じ魔法なのか?明らかに効果が違う!


「いいぞ、クラリス!あと少しだ!メルが、復活するぞ!」


「はい!主様お任せ下さい!البرق Zauber Φωτεινή...!」


 クラリスの詠唱に力が加わる!よし、いい感じだ。あと少しだ。メル、早く復活してくれ!


「え〜い、何をグズグズしているんだい!あんたたち!!もういい!私が仕留めるよ!そこをどきな!」


ミルミルは怒りに満ちた目でクラリスをにらみ、手にしたボウガンをクラリスに向けて、「これでお前もガラム蛇のえじきだ!死ね!」と大声で叫んだ。


 そんなことをさせるか!!


 ミルミルがボウガンのトリガーを引く瞬間、俺はクラリスの前に立ちはだかり、ボウガンの発射を阻止するように立ちはだかった。


 少しでも時間を稼ぐ!クラリスをやらせるものか!そして、メル死ぬな!死ぬなら、俺も一緒だ!


「ちぃ~!男のくせに!女に刃向かうんじゃないよ!美男子様は大人しく、ブサイクの人形になっていればいいんだよ!」


 ミルミルは地団駄を踏み、その場でバタバタしている。本当にもう熊だな。猟銃じゃないと倒せないんじゃないのか?


「こうなったら~!」


 激怒し、顔を真っ赤にしたミルミルが、ボウガンを床に叩きつけ、腰に下げていた大斧を振り回しながら俺たちに向かってきた。


 速い!何であんな体格であんなスピードが出せるんだ?


 ザザッ!一瞬で俺たちの前に現れたミルミル...!


「ひっひひひひぃ~もう終わりだよ!死んじまいな!」という言葉と同時に、ミルミルはクラリスに向かって大鉈を振り下ろした。


「クラリス!危ない!!」


 バズン!!!!


 無情にも、ミルミルが持っていた大蛇がクラリス目掛けて振り下ろされ、肉が切り落とされた音が周囲に響き渡った...。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ぐわ〜!!痛てぇ!」


 そう叫んだ時には、俺の右腕の一部が宙を舞っていた。そして...切り落とされた腕から飛び出る鮮血と、鉄の生臭い匂いが周囲を包む。


「ぐわ〜!!痛てぇ!」


 さらにもう一度、俺は同じ言葉を無意識で叫んでいた。痛みが全身を駆け巡り、思わず膝をついた。目の前が一瞬真っ暗になり、冷や汗が額から流れ落ちる。心臓が激しく鼓動し、息が詰まるような感覚に襲われた。


 ブシュ―!ボタボタボタ...ボタボタボタ!


 地面には俺の真っ赤な血がとめどなく流れ落ちる。タオルで傷口を塞いでもどんどん流れ落ちる。タオルが血をどんどん吸収して、止血の意味をなさない。


 意識がもうろうとする。ミルミルが二重に見える。気持ち悪い...頭もガンガンする...痛いし、泣き叫びたい。


 俺が予想もしない行動を取ったことに、ドラリル一味、特にミルミルは慌てふためく。


 「早く!誰かポーションを取り出すんだよ!この美男子様が死んだら、私たちも終わりだよ!」


 周囲の部下に慌てて声をかける。


「な、なんなんだい、この男は...どう見てもブサイクを庇ったようにしかみえないよ!!こんな男、見たことがないよ。男が女に歯向かうし。身を挺して庇うなんて物語の中から、飛び出してきたのかい...」


 ミルミルは明らかに狼狽している。チャンスだ。だが今の俺は、右腕を失った痛みでうまく動けない。そして右腕が冷たい。でも股間は暖かい。いや、漏らした一瞬だけか...冷たくなってきた。


 そして...意識が薄れていく、ほ、本当に異世界って危険なんだな。今度こそ本当に終わりかもな。メルやクラリスみたいな素敵な娘と巡り会えたしな。全部の運を使い切っちゃったのかなぁ...。


 そんな頭の回らない俺に「しゅ、主様!すぐにお助けいたします!なぜ私などをお助けに?なぜお庇いになったのですか!私など助けるに値しません!しゅ、しゅざまの様に、がちがある者ではござ、ございまぜん!」


 クラリスは涙を流しながら俺に訴えてきた。そしてメルにかけていた回復魔法の手を止め、俺の右手に回復魔法をかけようとする。


 そんなことをするな!クラリス、それじゃ、意味がないよ、クラリス!


「ク、クラリス、命令だ!命令だ、めいれい...めいれい...だ...!俺にかまうな~!メルの回復優先だ!」


 命令を連呼した。意識が朦朧(モウロウ)としてきた。だが、俺に構うな、クラリス!そんな時間があるならメルに魔法をかけるんだ、クラリス!


 俺はありったけの大声で、クラリスに命令を何度も繰り返した。

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