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第28話 急襲

 俺たち三人は和気あいあいと話しながら、俺の住むマンションへと続く洞窟に向かって、ケインズ村の外れを歩いていた。


 夜の空は深い紺色に染まり、星がちらほらと輝いている。遠くからは虫の音が聞こえ、足元には小さな石ころが転がっている。時折、風が木々を揺らし、葉っぱが舞い落ちる。そんな静かな夜の雰囲気の中、俺たちは笑い声を響かせながら歩いていた。


 しかし、突然、空気が一変した。どこからともなく現れた黒装束を身にまとった多数の者たちが、無言で俺たちを取り囲んだ。


 メルやクラリスの顔にも緊張が走り、笑顔が一瞬で消え去った。


 大勢の敵に囲まれた。そう、異世界版の忍者集団のような者たちに。ただ、何というか、その...想像した忍者たちとはちょっと違う...。いや大分違うか...。


 な、なんだ、この集団は?お笑いの軍団か何かか?


 もう新喜劇や劇場で行うコントのような状態。俺の知っている忍者とは、真逆のような連中たち。丸々と太ったり筋肉質だったり、ビッグハムのように肉の塊のような者、逆にマッチ棒のような細長い者など等、総勢30人ほどの黒装束の集団に囲まれてしまった。


 ただ、こんな滑稽な集団に囲まれるまで気づかないものだろうか...?


 というか、あんな体型の者達が、何で俊敏な動きができるんだ?やっぱり変わっているな。異世界って...。


 おっと感心している場合ではない。何なんだ、この連中は...。「メル。何なんだ、こいつらは...。知っているか?」


 メルは俺を「美男子様抱っこ」で持ち上げて、自分の胸に抱き寄せた。彼女は俺を守るためなら自分の身をも犠牲にする覚悟だ。


そんなメルが、「あの胸元についている猪マークは、昨日私たちを襲ってきた「ドラリル一味」の残党に間違いありません!彼女らは今回、マリンたちとは異なり、一味の正装を身にまとっています。これは彼女らが本気で私たちに挑んできた証だと思われます!」と、教えてくれた。


 メルが俺を抱きしめる手に力がこもる。体術スキルの進化と、それにより身体能力が100万倍に増したメルなら、俺とクラリスを守るのは容易だろう。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「あんたたち!ちょっと私たちに付き合ってもらうよ。ここだと目立つからね。それと、あなたたちが待ち焦がれている者たちは、どれだけ待っても現れいよ。ひひひひひ!」


 超巨大なおデブちゃんが、高らかに笑った。もしかしたら、「ドラリル一味」のボスなのか?


 マリンたちはお揃いの外套を身にまとっていたが、こいつらは統一された黒装束を着用している。そして、マリンたちと同じく、多くの者たちが顔をマスクで隠している。容姿を他人に見せたくない者も、きっと多いに違いない。


 おいおい、それにしても役人たちどうしたんだ?買収されたんか?


 俺の想いを読み取ったかの様に、超巨大なおデブちゃんが「私たちの部下が役人を足止めしているからね。どれだけ待ってもこないよ。さあ、私たちについて来な!」と、吐き捨てるように俺たちに向かって吠えた。


 メルは「行きましょう!ここでは一般の人たちにも迷惑がかかるかもしれません。大丈夫ですよ、ご主人様!メルが命に代えてでもあなた様をお守りします。それにご主人様がいて下されば...メルは無敵です!」


 そうメルは言った後、更に俺を強く抱きしめた。ただ周りには黒装束を身にまとった者達が30人程。そして暗闇に目が慣れてきたから分かるが、手には様々な武器が握られている。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「メ、メルどういうことなの?」


 メルに庇われるように立つクラリスが、メルに状況を聞こうとする。表情は冷静さを装うとしているが、クラリスの声は震えている。


「昨日、私とご主人様はこの一味の襲撃を受けました。しかし、その時にメルの能力が目覚めまたのです!メルはご主人様が傍にいて下さると、能力が大幅に上昇するのです!クラリスお姉様!安心して下さい。お姉様もメルがお守りします!」


 そうメルが力強く宣言した。


 しかし、メルだけが戦うというのは、明らかに不利だ。周围を見渡すと、仮面越しに見える目はギラギラと血走らせ、俺達を見つめている。怖い。捕まったら終わりだ。


 それならば...。「メルちょっといいか」と俺はメルの耳元で囁き、あることを彼女に伝えた。


 俺の話を聞いた後メルは、 「可能ですが...ご主人様、お二人を同時にお運びするのなら、不安定ですよ⁉それにだいぶ揺れると思います。それでもよろしいのでしょうか...?」とメルは、心配そうな表情で俺を見つめる。


「いい!それでいいから頼む。メル頼んだぞ」


 もう、この手でいくしかない。


 頷いたメルは、俺を一回地面におろして、両脇に俺とクラリスを抱えた。


「きゃっ」


 クラリスが叫び声をあげると、周りの悪党たちの視線が一気にこちらを向いた。


「逃げるぞ!」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 そう叫んだ後、メルは洞窟がある方向へと、俺とクラリスを両腕で抱えつつ走り始めた。


 メルは、俺たちを抱きかかえているとは思えないほどの、すごいスピードで縦横無尽な動きをした。そして、行く手を阻む者達を長い足でけり倒した。


「な、何なんだい?あのブサイクは!や、やっぱり!!マリンが帰ってこないからおかしいと思ったが、あんたがやったんだね!ゆるさないよ!」


 超巨大なおデブちゃん、いや、ボスらしき人物が怒り狂ったような表情をしながら大声をあげた。


「許さないとか、こっちも死にそうな目にあったんだ!お互い様だ!悪いが逃げさせてもらうよ。「メルいいぞ!もう少しだ。逃げ切るぞ!」


 ただ...。


「ご、ご主人様、す、すみませ...ん。ご主人様...だけでも...」


 神のいたずらか、死神に愛されているのか知らないが、事態は最悪な方向へと導かれて行く様だ。


 メルの足が...止まってしまった...。

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