第27話 表情を変えないクラリス
ドアが開くと、汗だくのビッグハムが、荒い呼吸と至る所から汁を流して立っていた。「はぁ、はぁ。遅くなってすみません。外套はすぐに新品が見つかったのですが、下着のサイズが合わなかったため、ショーツだけはテーラーが急いで仕立てました」
そう言い、俺の前に差し出してきた。
「すぐに新しい物に着替えてくれ」と、クラリスに新しい外套とショーツを手渡した。
新しい外套とショーツを握り締めてクラリスは、「こんな新品を私が着てもいいのですか?」と、ビッグハムと俺を交互に見つめ、震える声で何度も俺の顔を見つめ、確認をしてきた。
「いいから、着替えるなら席をはずそうか?」
そう告げるまもなく、着ていた古い外套を勢いよく脱ぎ捨て、新しい外套と、それにショーツを履いた。
「ビッグハム、もどって来たそうそうで悪いが、クラリスの首輪もメル同様に、お洒落な物に変えたい。もちろん首輪の代金は俺が支払う」
メルの時同様に、俺は全てのお洒落な首輪を、カウンターに並べてもらい、クラリスを呼び寄せた。
すると、クラリスは一つの首輪をガン見している。すごく分かりやすい。
その首輪は伸縮性のある革製で、おしゃれな水晶で出来た十字架をあしらった首輪だ。神に使えるクラリスが、いかにも欲しがりそうな一品だ。
「クラリス。これにしようと思うんだ。これでいいかい?」
「そ、そんな!主様!こんな高級な物!私はこの古い、今までの物で結構です!」そう俺に返答をしてきた。
すごいなクラリス。嘘をつくと首輪が首を締め付けるはずなのに、表情に全然出さない。怖い、怖すぎる。血管が浮いてきた。ヤバイ。
ヤバイって!首のあたりがギシギシ言っているじゃん。
「き、気持ちは分かった、クラリス!だけど今、身につけている首輪では俺が困るんだよ。俺の為だと思って、首輪を交換してくれ。また、メルと同じように変更しなければ、不公平になってしまう。これから増えるかもしれない奴隷たちの為にも、我慢をしてくれ!」
クラリスに頼み込むと、「分かりました。主様がそうおっしゃるなら...」と、しぶしぶ納得してくれた。
首輪を交換する際にチラッと首元を見ると、先ほど嘘をついた時に首輪がしまったのだろう。首元が紫色にうっ血していた。こんな状態になっても表情を変えないとは...。クラリスって恐ろしい娘...。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ビッグハムありがとう。色々と世話になった。また訪れるかもしれない。そうだ。こういったらメルとクラリスには悪いが、二人と同様な扱いを受けている者が新しく入ったら、俺に知らせてくれ。引き取らせて頂く。頼んだよ」
「かしこまりました。智也さま。必ず連絡させて頂きます。私どもも、お二人には辛く当たってしまいました。しかし、現実的な話...お二人は売れません。健康で若い者が売れ残るのは辛いことです。似た様な者が入ってきた場合、智也様に必ず連絡を致します」
ビッグハムは俺に向かって、ビッグハム流のお辞儀をして来た。ビッグハムって...案外いい人なのかもな知れないな。
さあ、地球に戻ろう。
ビッグハムの奴隷商店を出た。時計をみると、もう夜の7時を回っている。明日は月曜日、1コマ目からリハビリテーション概論の授業がある。早く帰ろう。
少し歩いたところでメルとクラリスに「とりあえず、クラリス。俺の家に来てもらう。メル、俺とクラリスを運んでくれるかい?」とメルに頼んだ。
そんな俺とメルのやり取りを聞いていたクラリスが、「主様のお家にですか?私みたいな者がお家に入って、他のご家族に怒られませんか?こんな汚いのを拾って来てと?悪趣味極まりないと」と言ってきた。
す、捨て猫じゃないんだから...。「き、汚くないし、俺は今、一人暮らしなんだよ。他の家族はいないよ」
「そ、そんな私たちの様な者が、1つ屋根の下、一緒に主様と暮らせる何て!いつでも主様の姿が堪能できるのですね...うふふふふ...」
クラリスは可愛いのだけど、笑い方や態度が怖くなる時がある。
「そうなんですよ!クラリスお姉様。昨晩は私、ご主人様と一緒のベッドで寝かせて頂きました!
メルはクラリスに対して、照れながらもどや顔を決め、そして...。「初めても...もらって頂けました...♡」と、もじもじと体をくねらせながら、クラリスに報告をした。
つー。ぽたっぽたっ。ぽたぽたぽた!
クラリスは無表情のまま、鼻血を地面に垂れ流した。お、おい大丈夫か?結構な量が出ていると思うのだが...。




