第20話 回復系魔法使い クラリス
俺たちはいったん、マンションに戻った。メルは俺に対して「すみませんでした、ご主人様。私のわがままでご予定を乱してしまって」と何度も謝ってきた。
「メル、大丈夫だよ」と言いながら、冷凍庫から取り出したアイスをメルと一緒に食べた。俺が大好きな「チョコバナナジャンボ]だ。
やっぱり甘いものは最高だな。メルも少し落ち着いたようだ。
「本当に申し訳ございません、ご主人様。メルはご主人様に出会うまで、家族からも守ってもらえず、愛されたり、ましてや...『好きだ』なんて言われたことなどございませんでした...。だから余計にご主人様がいなくなるのが怖くて...。メルはご主人様を失いたくないのです!」
そう言った後、メルは自分の気持ちを整理するかのように、ゆっくりと生い立ちを語り始めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
メルは侯爵家に生まれらしい。なに不自由の無い家庭に...。しかし、自身の外見があまりにも酷く、誰からも愛されなかった。そう、親からも...。
そんなことってあるのか?親が子供を愛さないなんて...。俺は自然と涙が溢れて止まらなかった。メルよりも俺の方が涙が止まらなくなってしまった。
今度はメルが慌ててしまった。俺があまりにもむせび泣くため、メルは「ご主人様!私ごときの為に泣かないで下さい!!」と泣きながら謝って来た。
日曜日の真昼間に、二人で抱き合って泣いた。
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ナイメール星は外見至上主義の様で、特に女性は外見が悪ければ結婚もできない、出世も出来ない、家に残ることさえも許されないらしい。
見た目の悪い者たちの多くは奴隷として安く売られ、鉱山での過剰な労働により命を落とすか、ドラリル一味の様に悪党に身を落とすか、わずかな給料で働くかのいずれかになるようだ。
辛い現実だ。
俺もブサイクだが、親は愛してくれた。母ちゃんは自分にそっくりな俺を、「父ちゃんに似てくれればよかったのに」と言いながらも可愛がってくれる。父ちゃんは俺が、「母ちゃんにそっくりで可愛い」と、こっそりと母ちゃんに話しているようだ。
よく分からんが父ちゃん... ナイメール星人じゃないよね?
やはり、メルや同じような境遇の者たちを集めて国を建設しよう。ナイメール星の外見至上主義をすぐに変えるのは無理かもしれない。
だが、外見で恵まれなかった者たちが安心して生活できる国を作ることはできる。そうでなければ、見た目で苦しむ者たちがあまりにも不憫だ。
そんな俺の考えをメルに伝えたところ、彼女は俺の言葉に頷きながら、「それなら...」と小さく呟いた。
「それなら、真っ先に救って欲しい者がおります!私と同じライメイ奴隷商会にいる者です。名をクラリスと言います。回復系の魔法が使える者です。非常に心が優しく、素直で純粋な心の持ち主です。メルよりも2歳年上のお姉ちゃんです!ただ...」
「ただ...」と言った後の歯切れが悪い。
「ただ...何だい、メル?」と俺が尋ねると、メルはビクッと身体を震わせながら、「私と同じで、外見に恵まれない者です...」と寂しそうに答えた。
「そんなクラリス姉様の事を、本当にご主人様は救って下さるのでしょうか?」と、メルは俺の顔をじっと見つめながら尋ねた。
少し怯えながらも俺の真意を探るメル...。本当に可愛いな。何でも叶えてあげたくなってしまうな。
「もちろん助けるさ。ただ、そのクラリスさんは、メルの知り合いなの⁉」
メルに尋ねると、メルは嬉しそうに頷いた。
「ありがとうございます、ご主人様!クラリスお姉様はいつも私を救って下さいました!だからこれで、お姉様に恩返しができます!本当にご主人様ありがとうございます!」と、再び俺の前で深々と土下座をして来た。
メ、メル、落ちついて。土下座はもういいから...。
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俺と一緒にピザまんと肉まんをそれぞれ一つずつ食べ、落ち着きを取り戻したメルは、クラリスについて語り出した。
「ライメイ奴隷商会でクラリスお姉様と出会いました。私は奴隷商会を転々とし、ライメイ奴隷商会で売れなかったら、鉱山行きでした。それか、本当にゴブリンに大衆の前で犯されていたかもしれません」と寂しそうに言った。
そうだったな...。辛いことを思い出させてしまった。俺の顔が自然に歪んでしまい、その表情を見たメルは俺に向かって...。
「ご主人様、どうかそんなお顔をなさらないで下さい...。私は今、心の底から幸せを感じております!愛する人との時間を共にできることが、こんなにも幸せだとは思いもしませんでした!クラリス姉様にも、この幸せを感じて頂きたいのです!」
「メル...」
メルとクラリスは、出会ってまだ一年も経っていないようだが、同じ境遇の者同士、奴隷商会内でお互いに支え合っていたようだ。いや、メルはクラリスに支えられていたようだ。
メルはしばしば、他の奴隷たちのストレス発散として、殴る蹴るなどの暴行を受けていた。そんなメルをクラリスは、こっそりと回復魔法をかけて癒していたという。
クラリスはライメイ奴隷商会から教会に貸し出され、ほぼ毎日のように教会で多くの村人の傷を癒すレンタルシスター。だが、外見上の理由から、クラリスは壁を通して相手に回復魔法を施している。
クラリスの回復魔法のスキルは(小)。一回の回復魔法では傷を治す程度。骨折や損傷が激しい傷を癒すためには、数回、いや、数十回と魔法をかけないと治らない。クラリスは奴隷。だから立場上、魔力が尽きても回復魔法を強要される場合もある。
ただし、さすがに教会。クラリスが魔力枯渇の状態が酷いと、他の術者と交換させる。それでも、何度かは見逃されるようだ。なんとも冷酷なことをするもんだ。
それにクラリスはライメイ奴隷商会からのレンタル品である。あまりに無理をさせて死なれたら、奴隷商会から損害賠償を請求される。
どうやら、ただの商品としてしか扱われていないようだ。
そんな、毎日魔力を使い果たしながらも、メルが傷つくとクラリスはいつも自ら進んで回復魔法を施してくれた。頼んでもいないのに。優しい子なんだなクラリスって...。
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