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第16話 私と手をつないで下さいませんか...?

 メルは二日に一度の食事で十分だと言ってきた。メルは意外と頑固なので、納得しなければ食事を食べないだろう。


 何か理由を...と考えるとすぐに解決策はみつかった。「メル。しっかりと三食ご飯を食べてくれ。その...夜、ほら、また...相手してもらいたいし。体力が無いと俺の、相手ができないだろう?」


 すると、メルは、はっ!としたような表情で俺の方を向き、両頬を赤らめながら「分かりました♡その...しっかりと体力をつけます♡いつでもご主人様を向かい入れられるように♡」と、妖艶な微笑みを浮かべた後、目の前に用意した食事を食べ始めた。


 ふ~。やれやれ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ご主人様!このピラフなる物、非常に美味しです!しっかりと味が付いています。肉の風味がします!メルはこんな美味しい料理を食べたことはございません!これを全部、メルがいただいても良いのでしょうか?」


 食べていたピラフのスプーンを置いて、恐る恐る俺に訴えてきた。さらに...。


「お風呂に入ることができ、美味しい食事を堪能し、スキルも向上させて頂き、ご主人様にお会いしてから、私の状況は劇的に変わりました。何よりもこんな私のことを命がけで守って下さり、私をその...愛して下さるなんて...未だに信じられません...。メルはこんなに幸せを頂いて、よろしいのでしょうか?すぐにまた元の生活に戻ってしまいそうで心配です...」と、メルは不安げな目で俺を見つめてきた。


 心配そうな瞳で俺に訴えかけてくるメルを見つめ、「これまでの苦労が今、幸せとして戻ってきているんだよ。さあ、メル!次の幸せを探しに行こう!今度はメルの服を買いに行こう!」と言いながら、俺はとんこつラーメンのスープを最後の一滴まで飲み干した。


 メルは躊躇(タメラ)いながら、「洋服なんて、ご主人様...。そこら辺に生えている木の樹皮で充分です。私のために貴重なお金を...」と言ったが、「俺のために綺麗な服を着てほしい」という言葉で、なんとか説得することに成功した。


 ショッピングモールや商店街でメルの服を買いに行こう!ぐずぐずしている時間はない。行動、行動っと!



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ショッピングに出かけようと言ったが、早速問題が発生した。メルのサイズに合う服が無かった。というか女性ものの服がそもそも無い。メルが着ていた服はボロボロでとても汚れていたので捨てた。それに、洋服と言っても身を隠すための外套のようなものだったし。


 この下町で外套を身にまとって歩けば、すぐに注目の的になるだろう。「突撃の巨人」のエレナや「銀の錬金術師」のエトワートではないのだから...。


 ちなみにメルは今、俺のTシャツと新品のトランクス履いてる。女性もののショーツなんて持ってないし、もしショーツが俺の部屋にあったら怖いよな。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 駅前のショッピングモールに行く前に、コンビニでショーツを購入し、トイレでメルに着替えてもらうのがいいだろう。メルが一緒なら、ショーツを購入しても不審がられることは無いだろう。


 その後、近くのファッションセンターシロクマでTシャツ、下着、スポーツブラ、パンツ、サンダルを購入してから、ショッピングモールへ行くとするか。


 あと、コンビニとシロクマまでは、俺の服を着てもらうしかないな。


「メル、しばらくの間は俺の服を着てもらうことになるけど」と頼み、俺は自分のズボンと薄手のパーカーをメルに渡した。サイズは全く合っていなかったが、メルの天然の素材が斬新で魅力的なスタイルへと変貌を遂げた。


「ご主人様!私はこれでいいです!いえ、これがいいです!ご主人様のぬくもりと匂いが伝わってきます!」


 すごくメルはにこにことしている。ノーブラだから喜んで動くたびにメルのお胸がブルンブルン揺れて、その...また息子が自己主張しようとしてくる。こら!お前が元気になると、いつまでたっても外出できない。少しは大人しくしていろ!


 気に入ってもらえて嬉しい。だけど、もともと目立つ容姿をしているのに、個性的な装いをしたら、さらに周囲の注目を集めてしまうだろう。


 だから、すぐ近くの商店街にあるファッションセンターシロクマで、もっと普通の服を買って着替えてもらいたい。


 何といっても近所には、すぐに情報を流す放送局みたいなおばちゃん連中が沢山いる。変な噂をたてられると、あとで面倒なことになりかねないしな。


 メルは俺のお古でいいと言い張ったが、家着用にあげるからと、新しい洋服を買う事をしぶしぶ了解させた。


 はぁ〜。買い物に行く前からもう疲れてしまった。


 だが、疲れている暇も悩んでいる時間もない。とにかく、買い物に出かけよう。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 マンションの外に出た瞬間。メルは街の風景を見て驚いている。


「ご、ご主人様!何て大きな都市に住んでいるのですか!何千人といる大都市じゃないですか!出口が見えません!魔物はいないのですか?城壁や柵が見当たりません!草原も見えません!凄いです!メルは初めてこんな大きな都市を見ました!」


 メルは異世界とのギャップに興奮しまくっている。「ご主人様!あれは何ですか!では、あれは!」とメルは怖がっているというよりも、むしろすごく楽しそうだった。


 そしてすごく体を密着させてきた。すごく照れくさかったがメルは俺に合わせて歩幅を変え、それに加えて、かがんで歩いてくれた。「悪いなメル。腰が痛むだろう?」


「大丈夫です!ご主人様。そ、そんな私のことなんかよりも、そ、その...私と手をつないで下さいませんか?ま、前を歩いてる二人のように...」


 そう言った後メルは、怯えながらもそーっと俺の手を握ってきた。


「メル。自分の好きな服を選ぶんだよ」と言って手をぎゅーっと握ると、向日葵のような笑顔で「はい!ご主人...いえ、智也さん...」と照れ臭そうに微笑んだ。


 また、人前で「ご主人様」と呼ばないようにと命じたところ、これまたひと悶着あったが、この話は割愛させてもらう。智也さんと呼んでもらうために、約30分間説得に費やした。


 もう、どちらがご主人様なのかわからなくなりそうだ...。


 コンビニに向かう途中で、通りすがる人々が信じられないものを見るかのように、俺たちのことを見てくる。そりゃそうだな。モデルのようなスタイルと顔立ちをした美少女と、ぽっちゃりしていて見た目がブサイクな男の、対照的な二人組。


 二人は親しげに会話を交わしながら手をつないで歩いている。美少女は小柄な男性の歩幅に合わせて身をかがめ、話しかけている。しかも、その美少女の表情は満面の笑みを浮かべている。奇妙な光景に見えるだろう。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 さて、買い物ミッションの開始だ。ただの買い物だが、俺は既に疲れている。人々の視線がこれほど痛いと感じたのは初めてだ。しかし、メルは楽しそうにしている...。何事もなく買い物が終了しますように...。


 そう、遠くの三体のお地蔵様たちに向かって、俺は心の中で祈っていた。

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