第11話 逆プロポーズ⁉
「メル、ありがとう。メルのおかげで助かったよ」
素直に、俺はメルに感謝の言葉を述べた。
メルは砂利道で土下座を続けている。そんな凸凹な地面の上に土下座何て、足が痛いだろうに...。楽な姿勢を取るようお願いをしても、メルは応じようとしない。
メルは本当に、時々頑固な一面を見せる。
「メ、メル...聞こえているの?」
すると、「ガバッ!」という音がしたかのように、メルは土下座の姿勢から一気に頭を上げた。
「ひいっ!」
メルの予期せぬ行動に、俺は思わず悲鳴を上げてしまった。
「ご主人様!本当に申し訳ございませんでした!奴隷の分際でご主人様に断りもなく、その、せ、せ、せ、せ、せ...」
このままだと、「せ、せ、せ、せ、せ...」の連射が永遠に終わらなさそうだ。
「接吻をしてしまいました!それも私みたいなブサイク奴隷が!どんな罰でも受けます!手足の2.3本は覚悟しております。刑を執行して下さい!」
「せ」の連射が終わったと思ったら、今度は恐ろしいことを語りだした。何?『刑を執行して下さい』って!怖すぎる!俺はどんな罰も与えようとは思っていない。それに、メルは肝心なことをすっかり忘れている様だ。メルは俺の命の恩人じゃんか。
「メルは命の恩人だよ。それに...ごめんね、メル。自分で言うのも嫌だけど、今の俺ってかなり汚いよね?臭いもするし、血まみれだし。それに...俺にポーションを口移しで飲ましてくれる時も気持ち悪かっただろう?」
すると、メルは土下座をしたまま首を左右に大きく振った。
「そ、そんな滅相もございません!ご主人様のお顔を間近で拝見できたのですから!!私のようなゴミクズ奴隷がご主人様と、せ、接吻できるなど...これ以上の幸せはございません!もう...思い出すだけで、心の奥底、いえ、身体中の色々な場所から愛情が洩れ出てきそうです!いえ、現在進行形で色々な場所から溢れ出ています♡」
そう言ってハアハアと喘ぎだした。
何が、どこから...⁉詳しく聞きたい...。
「でも、こんな私に接吻をされても怒っていないのですか?他の殿方ならば、意識が戻った瞬間、抜刀されてもおかしくはありません。それぐらいのことをしてしまいました。本当に申し訳ございませんでした」と、信じられないという表情で俺に謝って来た。
はぁ、またそこからか...。この世界の美意識は一体どうなっているんだろう...。ため息が出るばかりだ...。
「怒ってないってば!だから、メルが美しいって言ってるんだよ!僕の国では、メルはとても美人なんだからね!」
そうメルに伝えると、彼女は非常に困惑した様子で...。
「信じがたいことですが、信じます。もう、おとぎ話の世界です!身分の異なる二人が出会い、男性が命を懸けて女性を守るというラブストーリー。この地では、体格や力では男性が女性には敵いません。ですから、これまでは物語の中だけの話として語られてきました!」
メルは自分の言葉に酔いしれているかのように、彼女の言葉が次から次へと流れ出てきた。
「身体能力で劣る男性が命をかけて女性を守ろうとするのは、本の中だけのお話。多くの女性が憧れるストーリーです。そう、まるで夢のような、現実では考えられないようなことを、ご主人様が私のためにして下さいました!今でも信じられないくらい嬉しいです!メルは本当に幸せ者です!!」
メルの話によると、このナイメール星では女性が男性を養うのが一般的で、男女比は女性10人に対して男性が1人だという。男性が非常に少ないようだ。
このため、俺が被害に遭ったように、男性の誘拐事件が乱発しているようだ。役人たちも注意を払っているが、闇ギルドや貴族からの直接の依頼を受けた悪党たちが、若くて容姿の良い男性を狙って誘拐を企てているらしい。
メルは真面目な表情で、「ご主人様はミスリル金貨100枚分の価値があるでしょう。いや、それ以上かもしれません」と言った。
おいおい、嘘だろ⁉一気にさっきの倍になってしまったぞ。
約10億円相当か。俺がこのナイメール星でそんな高値で売れるとは思わなかった...。しかし、これからは強いメルが側にいてくれるから、二度と連れ去られる心配はないだろう。
「でもメル、失礼かもしれないが、教えてくれ。メルはあんなに強いのなら、名のある冒険家になれただろう?何で奴隷なんだ?」
俺はメルに自分の考えを尋ねてみた。すると...。
「私はご主人様と出会うまで、強さなど持ち合わせていませんでした。体術のスキルはあったものの、その効果は小でした。体格も小さく、力もありませんでした」
メルは少し悲しげに俺の尋ねに応えた。しかし、その悲しげな表情は次の瞬間、まるでヒマワリが一斉に咲いたかのように明るく変わった。彼女の目は輝き、口元には微笑みが浮かんだ。
「しかし、戦闘中に突然、信じられないほどの力が湧き上がってきたのです!その瞬間、頭の中で初めて聞く声が響き渡ったのです!『あなたのスキル、「体術のスキル(小)」が100万倍に増強されました。ただし、この効果はあなたの主人である智也と共にいる時のみ発揮されます。智也と5日以上離れると、この効果は失われます』とのことでした」
先程の満面の笑顔から、少し真剣な表情へと変わった。様々な表情を見せるメルはとても魅力的だ。できれば、その全ての表情を写メしておきたい。
「で、ですから、ご主人様と一緒にいる時は無限の力が宿ります。でも、ご主人様から離れると私は元の自分に戻ってしまいます!で、ですから、どうかずぅっとご主人様の傍に、メルをおいて下さい!」
メルはそう言った後、土下座の姿勢を正し、最後には叫ぶような声で俺に懇願してきた。
これって...逆プロポーズなの?




