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第10話 能力の開放

 情けないが、もう俺は無理だろう。せめてメルだけでも逃がしてやらねば。メルに聞こえる程度の声で「メル、お前だけでも逃げろ...」と(ササヤ)いた。別に意図的にしているのではない。もはや大きな声を出すことができないからだ。


「ご主人様!何でこんな私に優しくして下さるのですか⁉目が二重で鼻筋も通って、唇もぷっくり!小顔だし胸は、はち切れんばかりです!その割にウエストは引き締まって!さらにさらに、175cmの10頭身!どうしてこんな私を助けてくれるんですか!」


 いや...だから何だけどね...。


 どうせもう目の前の三人組からは、逃げることなどできないんだ。なら、俺の本当の気持ちをメルに伝えてもいいだろう。


「メル、俺は君に一目ぼれをした。だから...だよ。奴隷とか関係なしに、一人の女性として君を守りたい。好きになった女を守りたいだけなんだよ。メル?君には「体術のスキル(小)」があるんだろう?自分だけでもそれを使って...逃げろ!」


「わ、私の事が好きになった?好きな女を助けたいだけ⁉奴隷とか関係なく...」


 メルが呆然としている間に、俺は最後の力を振り絞って、長身で痩せている女性の腕を素早く掴み、大外刈りを試みた。しかし...彼女は1mmも動かなかった...。


「あなた様は、この世界の男性とは思えないほど勇敢でお美しい。でも...そんなお方が、私らみたいな騎士崩れに挑んでは駄目ですよ」


 そう言った後、俺が挑んだ女性は、先ほどよりもさらに強い力で腹部を殴って来た。顔は殴らない様だ。


「ウ、グワァァァァァァ~!」


 完全に臓器がやられたのだろう。口から血まで噴き出して来た。あまりの痛さに小便も全部漏れてしまった。あと大の方も。


 恰好が悪い。悶絶して転がりまわって泣き叫びたい。


 でも、でも...!!メルを先に逃がさなきゃ!


「メル...さよならだ。早く逃げてくれ...もう俺は駄目そうだ...幸せにしてやりたかった...いや一緒に幸せになりたかったな...」


 俺はうつ伏せになり、首だけをメルに向けて、逃げるよう指示した。すると、自然と俺の目から涙がこぼれ、地面に落ちていった。


「ご、ご主人様~!いやです!ご主人様!!」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 メルが悲痛な叫びを上げた瞬間、周囲の空気が一変したように感じられた。いや、実際に変わった。


 メルは俺の「今生の別れ」とも受け取れる言葉を聞いた後、全身から神々しいオーラを放った。かつての弱々しいメルとは明らかに異なっていた。


 俺を連れ去ろうとした三人組に対して、メルは恐ろしいほどの殺気を放っている。


 そして...。


 俺の脳内に「あなたの奴隷メルが、あなたに対する愛情と忠誠心が100%になりました。E xスキル『能力100万倍』の発生条件をクリアいたしました」と、聞いたことのない機械音が流れた。


 ふとメルを見上げると、メルの表情が険しい。先程まではあんなに弱々しかったのに。そして、まるでメルの怒りに呼応するかのように、周囲の空間が激しく歪み、荒れ狂っていた。


 メルは厳しい表情を崩さず、三人組に向かって「ご主人様から離れなさい!私の大切なご主人様を...こんなにも酷い目に!私の命にも勝る大事なお方を...絶対に許さない!」と叫んだ。


 瞬く間に、メルは言葉を発した場所から消え去った。同時に、メルとは身長差が20cm以上もある女性の胴体には、丸い大穴が開いた。


「「な、何が起こった?」」


 そう俺とチャルの言葉がハモったが、次に言葉を発したのは俺だけだった。


「ま、まさかメルが、殺ったのか⁉」


 一人目を殺った後メルは、素早くチャルの元に移動し、チャルの頭を手刀で薙ぎ払。チャルは頭だけが無くなり、胴体から血が噴き出した。もう怖いとかを通り越して何が何だか分からない。


 これは先ほど、俺の脳内で聞こえた『能力100万倍』が、関与しているのか?


「な、何が起こっているんだい! あのブサイクがやっているのかい⁉」と、マリンが慌てふためきながら、俺に聞いてきた。いや、それは俺が聞きたいくらいだ。


「ブサイクはお互い様でしょ!」


 メルはマリンに言った後、渾身の蹴りを放ち、マリンの上半身が一発で粉々に砕け散った。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「メ、メル...こんなに強かったのか。よ、よかったよ、メル。俺はいいから一人で生きろ!こんなに強かったら一人で生きていけるだろう...」と弱々しい声で俺はメルに伝えた。


 体は動かず、内臓はおそらく滅茶苦茶になっている。口からも、下からも血が出ているようだ。情けない。


 弱々しい自分に対して、メルは「ご主人様が死ねば、奴隷の首輪も強制的に締まり、私も死にます。それに、ご主人様は私を守るために命をかけてくださり、『好きだ!』とも言って下さいました!これから先、ご主人様のようなお方は私の前には現れません!もじ...ご主人ざまがじんだら...わだじも、じにます!」と言いながら涙を流し、俺を抱きしめた。


「もう...俺は助からないよ。どこぞの誰かに助けてもらうにしろ、大金なんか払えないし、それこそ俺が奴隷になるか、治療薬も高価なんだろ?『ポーション(中)』だって貴族でもなかなか手に入らないって...。あれ?ある、あるぞ!」


 ど、洞窟にしまってあるぞ!!



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「メル!俺をおんぶして、向うにある丘の洞窟に連れて行ってくれ!」


 さ、最後の悪あがきをしてみよう。メルと一緒に未来を歩むために!


「そうすればご主人様は助かるのですね!任せて下さい!身体が異様に軽いんです。それに信じられないぐらいスピードも出せます!」


 よく分からないが、超人的な力が手に入った様だ。


 メルの助けを借りて、通常2時間かかる距離をわずか1分で着いてしまった。急いで洞窟内に隠しておいた「ポーション(中)」をメルに掘り出してもらった。


 あ、あった、「ポーション(中)」だ!!こ、これさえ飲めば...助かるかもしれない!!


「メル、それを俺に飲ませてくれ...。飲めば治るだろう。口に注いでくれ...」


 もう言葉を発するどころじゃない。呼吸さえも苦しい。視界もぼやけてきた。メルが俺の口元に「ポーション(中)を注いでくれている...ようだ。


 しかし...。


 口に注がれているようだが、うまく飲み込むことができない。


「お願いです!一口だけでも飲んでぐだざい!おねがいでずから!!」


 メルが必死に泣き叫んで俺に頼みこんでいる...様だ。


 あと...少しだったのにな。もう、俺はダメみたいだ...。メルも死んじゃうのか。ごめんなメル...。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 その瞬間。俺の唇を温かくて柔らかな物が塞いだ。そして塞いだ唇から、なにかの液体が俺に注がれる。


 目のかすみが嘘のように晴れてきた。涙でぐしゃぐしゃになった顔で、メルは一生懸命に口移しでポーションを俺の口の中に注いでくれている。


「あとで、どんな罰でもうけまずから。だから死なないでくだざい。じなないで...。ごじゅじんざまぁぁぁ!!」


 メル...。


 もう、大丈夫だよ...メル。意識も戻ってきたから。


 ありがとう...メル。君と共に未来を築いていけそうだ...。

読んでいただき、ありがとうございます。


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