3 魔神2
「おおおおおおおおおおおおっ!」
剛力ですべてを薙ぎ払う剣技──【パワーブレード】で、俺はヅェルセイルを吹き飛ばした。
「ちいっ」
舌打ちしながら、魔神は空中で回転して着地する。
「この俺がパワー負けするとは」
「人間を、舐めるなよ……!」
俺は剣を手に叫んだ。
今度は俺が攻勢をかける番だ。
全速力で距離を詰め、連撃を見舞う。
「ほう、パワーだけでなくスピードも……」
ヅェルセイルは感心したような顔で言いながら後退した。
「確かに、人間の中にも猛者がいるようだ。少しだけ認識をあらためてやろう」
ヅェルセイルが笑った。
「ここからは、俺も──本気を出させてもらおうか」
「今までは本気じゃなかったっていうのか?」
「当然だろう。お前は確かに例外的な猛者かもしれない。それでも『たかが人間』だ」
肩をすくめるヅェルセイル。
「そんな人間ごときに、なぜ俺が本気を出さねばならない? こいつは屈辱だ──」
ヅェルセイルが大きく息を吐きだした。
秀麗な顔から笑みが消える。
額に浮かぶ青筋は怒りの証か。
魔神の全身から漆黒のオーラが立ち昇った。
「くおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
雄たけびが、響く。
そして──。
その姿が一変した。
四肢が太くなり、胸元や腰回りには鎧状のパーツが装着されている。
そして顔を覆う、禍々しいデザインの仮面。
「くくく、これが戦闘形態の魔神だ。ちなみにレベルに換算すると──」
告げた瞬間、ヅェルセイルの姿が消えた。
「280ほどだな」
な、何──!?
俺のレベルより、さらに60も上──。
ゾッとなりつつ、俺はとっさにその場を飛び退く。
ほぼ同時に、
ごうんっ!
一瞬前まで俺が立っていた場所が爆裂して吹き飛んだ。
「──避けたか。やるな」
すぐそばでヅェルセイルの声がした。
すさまじい速度で俺の間合いに侵入してくる。
「【インパルスブレード】!」
俺はとっさに剣を旋回させて衝撃波を放った。
「はっ、そんなもんかよ!」
が、ヅェルセイルはそれを素手で払いのけてみせる。
「こいつっ……!」
やはりレベル280は伊達じゃない。
素の身体能力では、こいつのスピードにはついていけない。
ならば──。
「【ソニックムーブ】!」
俺は音速機動で奴の側面に回りこんだ。
「【パワーブレード】!」
その勢いのまま、渾身の一撃を叩きこむ。
「ふん」
ヅェルセイルはやすやすと爪剣で受け止めてみせた。
ビクともしない。
さっきは力ずくで押しこめたっていうのに。
やはり戦闘形態になって、奴の身体能力は格段に上がっている。
スピードも、パワーも。
「どうした、ええ? そんな程度か、おっさん!」
吠えて反撃の爪剣を繰り出すヅェルセイル。
「【ソードラッシュ】!」
俺は連撃スキルでそれをしのぎつつ、大きくバックステップして距離を取った。
強い──。
今までに戦った、どんな相手よりも。
「驚いた顔だな。確かにお前は、人間としては驚異的なレベルだよ。見たところ200は超えているだろうは」
と、ヅェルセイル。
「だが、俺のレベルには届いていないな。残念ながら、どうあがいてもお前じゃ俺に勝てねぇよ」
確かに、レベル数値は戦闘において大きな基準だ。
さすがに正面からぶつかっても勝ち目が薄いだろう。
だが、そんな相手に逆転勝利を収める手立てを、俺は一つだけ持っている。
「なんとか奴にランク7スキルを食らわせるしかない……!」
人間に許された限界であるランク6を超えた、ランク7スキル。
神の領域ともいえるその技を、俺は一つだけ会得している。
【破軍竜滅斬】。
これなら、相手が魔神といえども通用するはず。
レベル400の竜神すらも打ち破った技だからな。
問題は、命中させられるかどうかだ──。




