14 先へ
気絶したルークを拘束すると、女科学者はあっさり投降した。
さすがに逃げられないと悟ったのだろう。
「まったく……なんで結界が破られたんだろうねぇ。まだまだ研究したかった、っていうのに無念だよ」
顔をしかめる女科学者。
「君はこの期に及んでまだ──」
リーザが憤然と彼女をにらむ。
「自分たちが禁忌の研究を行っていたことを分かっているのか? 人工的に命を生み出し、あるいは人間の体を改造したり──命をもてあそぶ行為だ」
「確かにあたしたちは命をもてあそんでいるのかもしれないね。それは認めるよ。けど、必要なことだと思うよ」
「なんだと──」
「分かってるのかい? この研究を終わらせるってことは、ミランシアが強くなるための道を一つ潰しちしまうってことさ」
確かに、そうかもしれない。
ルークのような騎士が大勢生み出されれば、ミランシアの騎士団はとてつもなく精強になるだろう。
「対魔神戦の切り札になりうるんだよ、レグルシリーズは」
女科学者はにやりと笑った。
「平和が遠のくんじゃないかい、聖竜騎士団の隊長さん?」
「君に言われる筋合いはない」
リーザが鼻を鳴らした。
「非道な人体実験を止めることが優先だ」
「非道? まあ、確かにそうだね。だけど──」
女科学者がリーザをにらんだ。
憎々しげに。
「ガイアスとの戦争で多くの人が死んだ。これからも死ぬ。あたしだって……夫と子を亡くした。だから、力を求めた……何が悪いっていうんだ」
彼女にも背負う事情がある、ということか。
だけど──。
「そのために、無関係な人間を犠牲にしていいことにはならない」
「議論する気なんてないね。必要な犠牲だった、とあたしは考えているよ」
「……彼女を連行しろ」
リーザはため息交じりに配下の中年騎士に命じた。
さらに、捕らわれていた実験体たちを解放し、俺たちはルークと向き合った。
伝説の剣『覇道桜花』をはじめとした武装はすでに解除し、その場にたたずんでいるルーク。
秀麗な顔立ちからは血の気が失せていた。
「あんたたちに剣を向けたことは事実です。いかようにも処分してください」
ルークが俺とリーザに頭を下げた。
「もう……平気なのか、ルーク」
俺は彼の肩に手を置いた。
震えている。
秀麗な顔立ちは血の気を失い、青ざめていた。
普段の勝ち気そうな面影は、そこにはなかった。
「正直、まだちょっと……怖いですね」
ルークがため息をつく。
「あの女の声で、自分の意思が薄れていくのが分かったんです。命令に従うだけの道具に成り下がっていく、なんとも言えない不快感がありました。同時に、敵意と殺意で自分の心が塗りつぶされていくのが──」
「あの女に『敵だ』と言われたら、それを信じて……仲間を傷つけようとした。俺は……」
もしかしたら、過去にも似たようなことがあったんだろうか。
ルークの表情は苦しげだ。
そんな彼に処分を下すなんて──俺にはできない。
「お前は被害者なんだ」
「マリウス……隊長」
「それに、君の力は今後の戦いに必要だ。今回のことが心苦しいなら、今後の活躍でそれを払拭すればいい」
リーザが微笑む。
「ああ、その通りだ」
にっこりうなずく俺。
「……ありがとうございます、二人とも」
ルークは深々と頭を下げた。
すべてに納得がいったわけでも、心の中を綺麗に整理できたわけでもないだろう。
それでも、ルークの瞳にはすでに固い意思の光が宿っていた。
強い少年だ、と思う。
頼もしい奴だ、とも。
「少し回り道をしてしまったが、任務に戻ろう」
この先に待ち受けるのは、魔神との戦い──。
必ず勝利してみせる。
仲間たちと、力を合わせて。
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