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第7章 選抜部隊

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14 先へ

 気絶したルークを拘束すると、女科学者はあっさり投降した。

 さすがに逃げられないと悟ったのだろう。


「まったく……なんで結界が破られたんだろうねぇ。まだまだ研究したかった、っていうのに無念だよ」


 顔をしかめる女科学者。


「君はこの期に及んでまだ──」


 リーザが憤然と彼女をにらむ。


「自分たちが禁忌の研究を行っていたことを分かっているのか? 人工的に命を生み出し、あるいは人間の体を改造したり──命をもてあそぶ行為だ」

「確かにあたしたちは命をもてあそんでいるのかもしれないね。それは認めるよ。けど、必要なことだと思うよ」

「なんだと──」

「分かってるのかい? この研究を終わらせるってことは、ミランシアが強くなるための道を一つ潰しちしまうってことさ」


 確かに、そうかもしれない。

 ルークのような騎士が大勢生み出されれば、ミランシアの騎士団はとてつもなく精強になるだろう。


「対魔神戦の切り札になりうるんだよ、レグルシリーズは」


 女科学者はにやりと笑った。


「平和が遠のくんじゃないかい、聖竜騎士団の隊長さん?」

「君に言われる筋合いはない」


 リーザが鼻を鳴らした。


「非道な人体実験を止めることが優先だ」

「非道? まあ、確かにそうだね。だけど──」


 女科学者がリーザをにらんだ。

 憎々しげに。


「ガイアスとの戦争で多くの人が死んだ。これからも死ぬ。あたしだって……夫と子を亡くした。だから、力を求めた……何が悪いっていうんだ」


 彼女にも背負う事情がある、ということか。

 だけど──。


「そのために、無関係な人間を犠牲にしていいことにはならない」

「議論する気なんてないね。必要な犠牲だった、とあたしは考えているよ」

「……彼女を連行しろ」


 リーザはため息交じりに配下の中年騎士に命じた。




 さらに、捕らわれていた実験体たちを解放し、俺たちはルークと向き合った。


 伝説の剣『覇道桜花』をはじめとした武装はすでに解除し、その場にたたずんでいるルーク。

 秀麗な顔立ちからは血の気が失せていた。


「あんたたちに剣を向けたことは事実です。いかようにも処分してください」


 ルークが俺とリーザに頭を下げた。


「もう……平気なのか、ルーク」


 俺は彼の肩に手を置いた。


 震えている。


 秀麗な顔立ちは血の気を失い、青ざめていた。

 普段の勝ち気そうな面影は、そこにはなかった。


「正直、まだちょっと……怖いですね」


 ルークがため息をつく。


「あの女の声で、自分の意思が薄れていくのが分かったんです。命令に従うだけの道具に成り下がっていく、なんとも言えない不快感がありました。同時に、敵意と殺意で自分の心が塗りつぶされていくのが──」

「あの女に『敵だ』と言われたら、それを信じて……仲間を傷つけようとした。俺は……」


 もしかしたら、過去にも似たようなことがあったんだろうか。


 ルークの表情は苦しげだ。

 そんな彼に処分を下すなんて──俺にはできない。


「お前は被害者なんだ」

「マリウス……隊長」

「それに、君の力は今後の戦いに必要だ。今回のことが心苦しいなら、今後の活躍でそれを払拭すればいい」


 リーザが微笑む。


「ああ、その通りだ」


 にっこりうなずく俺。


「……ありがとうございます、二人とも」


 ルークは深々と頭を下げた。


 すべてに納得がいったわけでも、心の中を綺麗に整理できたわけでもないだろう。

 それでも、ルークの瞳にはすでに固い意思の光が宿っていた。


 強い少年だ、と思う。

 頼もしい奴だ、とも。


「少し回り道をしてしまったが、任務に戻ろう」


 この先に待ち受けるのは、魔神との戦い──。


 必ず勝利してみせる。

 仲間たちと、力を合わせて。


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