10 ルーク2
──それから、子ども時代のルークはあてもなくさ迷った。
ルークはそれを中空から見つめていた。
見つめることしかできなかった。
何せ、ここから降りることができないのだ。
ふわふわと浮かび、前後左右に移動することはできるのだが、なぜか降下できない。
子ども時代の自分を見下ろすことしかできない。
小さなルークは焦土と化した町から町へと渡り、やがて──。
「なかなか面白そうな『素体』になりそうだねぇ……君、名前は?」
一人の女に出会った。
白衣を着た研究者風の女である。
「……ルーク……ライナです」
答えるルーク。
「ルーク、君は何がしたい?」
「ぼく……は……」
震える小さな彼を見て、ルークはそのときのことを思い出す。
そのときの感情を思い出す。
こみ上げてきたのは、怒り。
悲しみを覆い尽くすほどの激しい怒り。
「ぼくは、あいつらをころす……!」
「俺は、奴らを殺す」
ルークと小さなルークの声が唱和した。
……後に調べたところでは、この流れ弾はガイアス帝国が放った高火力スキルだったという。
ミランシアの方は民間人の生活区域に被害が出ないように戦っていたし、ガイアスの方も大半の騎士はそうしていたのだが、一部にそれを無視するように広範囲の爆撃スキルを放った者がいたのだとか。
「そのために……つよくなりたい……ちからが、ほしい」
眼下では小さなルークが力強く決意を告げていた。
赤い瞳には燃えるような光が宿っている。
「いい目をしているわね。復讐に燃えたまっすぐな目。やっぱりいい素体になりそう」
女研究者が微笑む。
「ならば、与えましょう。あなたに強大な力を」
「ちからを、くれる……?」
「ルーク・ライナ──いえ、これからはルーク・レグルと名乗りなさい。『実験体レグルシリーズ』の一つとして、いずれあなたはミランシアで最強の力を得るわ」
「さいきょうの……ちから」
「そして、あなたが憎む敵をすべて殺すの」
「てきを……ころす」
「目の前に敵がいるのよ。さあ、殺しなさい! ルーク・レグル!」
女の声が聞こえ、ルークの視界が一変した。
元の場所だ。
「敵……」
そう、それはルークが駆逐すべき対象。
破壊すべき対象。
殺すべき対象。
自分は、そのために生み出された。
戦うために。
殺すために。
そして……今、殺すべきなのは。
「敵は、どこだ」
頭の芯が鈍くなり、考えが薄れていく。
敵は──帝国軍?
敵は──家族の仇?
敵は──。
「こっちに来なさい。あなたの敵を指示するわ」
「了解だ。指示を遂行する」
つぶやき、ルークは駆け出した。




