11 別離
「騎士団を辞める?」
リーザが驚いた顔をした。
「俺が騎士団に入ったのは帝国の連中を殺すためだ。そして戦争を終わらせるため――けど、その戦争もようやく終わった。妹夫婦やメル、そして村の人たちの仇である帝国軍も殺しまくったしな。とりあえず、いったん休みたいんだ」
「……そうか」
リーザがうつむいた。
相変わらず、彼女は美しい。
その美しい顔に憂いの色が見えるような気がするのは――俺のうぬぼれだろうか。
正直、彼女に惹かれている自分がいることも自覚していた。
ただ、今は少し休みたい。
帝国軍に村を襲われ、家族を失い、復讐のために剣を振るい、味方を守るために敵を殺し――。
戦いの、連続だった。
そんな修羅の日々から……少しだけ休みたい。
リーザへの想いも、何もかも、それからゆっくりと考えたかった。
「行く当てはあるのか?」
「いや、ない。まずは俺の村に戻ろうと思う」
俺は微笑んだ。
「マリウスの村……だが、その、帝国軍に……」
「ああ、襲われて滅ぼされた。けど、荒れ果てたままってのも、かわいそうだろ。そこで亡くなった人たちの供養も兼ねて、一度訪ねてみるよ」
「……寂しくなるよ」
リーザがうつむいた。
「また帰ってくるのか? いつか……いつでもいい、また君に会いたい」
「リーザ……」
俺は彼女の手を取った。
「そのうち、またな」
にっこりと笑う。
リーザも微笑みを返してくれた。
そして、俺は生まれ育った村に戻ってきた。
「帰ってきたね、おじさん」
隣でメルが微笑んだ。
彼女の横顔は寂しげだ。
たぶん……俺も似たような表情をしていることだろう。
「そう……だな」
うつむき、うなずく俺。
目の前に広がる光景――村には、何もなかった。
荒れ果てた土地。
焼け落ちた家屋。
村人たちの遺体が見当たらないのは、埋葬されたんだろうか。
あるいは野生動物やモンスターにでも食われたのか。
荒涼とした風景が広がっているばかりだった。
「ここはもう、俺の帰る場所じゃなくなってしまったんだな」
もしかしたら、生き残った誰かが村を建て直しているかもしれない。
そんな非現実的な空想をしなかった、と言えば嘘になる。
だけど、まあ――現実的に考えて、そんなことはあり得ないだろうとも思っていた。
だから、ショックはそこまで大きくない。
俺は、ただ踏ん切りをつけに来ただけだ……。
「これからどうするの、おじさん?」
メルがたずねる。
「そうだな……どこか適当な土地で家でも買って、のんびり暮らすか」
幸い、騎士団の給与や戦争での報奨金はたっぷりともらった。
それこそ一生遊んで暮らせるくらいには。
「あたしも……一緒に住んでいい?」
「当たり前だろ。俺たちは家族だ」
「えへへ……だね」
メルがにっこり笑い、俺の頬にキスをした。
「甘えん坊だな、あいかわらず」
「あいかわらず……か。どうだろ? あたしはメルであってメルじゃない……おじさんの記憶から生み出された存在。『メル』の記憶や人格を継承して生まれたけど、そこから先は『あたし』の人生だよ。メルとは違う」
彼女が首を左右に振った。
「メル……?」
俺は彼女を見つめた。
「どうしたんだ、一体?」
「……ごめん、変なことを言って。やっぱり、メルでいいや。おじさんにとっては……ずっとあたしはメルだよね」
「メ……ル……?」
「ほら、出発しよ? 新しい土地で暮らすなら、そろそろここを離れてもいいんじゃない?」
「――そうだな」
今度こそ、この村からはお別れだ。
次回、最終回です!




