10 ゼイヴァ戦、決着
「マリウス、これを!」
声が、した。
「リーザ――!?」
地上で戦っているリーザが馬でこっちに向かって駆けてくる。
大きく剣を振りかぶった。
「これを使え! アストライア、今だけでいい――マリウスに力を!」
「なら、俺も!」
同じように馬で駆けてきたルークも聖剣を投げてきた。
「ありがたい! 感謝する、二人とも!」
俺は空中で二本の聖剣を受け取った。
「なんだと――!?」
どくんっ。
左右の聖剣から熱い脈動が流れこむ。
聖剣の力だ。
一時的なんだろうが、今だけ俺に力を貸してくれるのか――。
「これですべてを終わりにする! お前たち魔神との戦いも! そして帝国との戦争も!」
「人間ごときが――」
ゼイヴァが大剣を振り回し、迎撃する。
「断ち切れ!」
俺は二本の聖剣を十字に交差させ、振り下ろした。
――斬。
静寂が、流れた。
俺が振り下ろした二本の剣は。
ゼイヴァの大剣を断ち切り、さらにゼイヴァ自身をもⅩ字に切り裂いていた。
「おの……れ……」
ゼイヴァは驚愕と怒りの表情を浮かべたまま、四つに断たれてその場に転がった。
「……ふふ、恐ろしいな」
「何……?」
「お前こそが、魔神だ」
苦鳴の中で、ゼイヴァがうめく。
「お前は、戦いの中でしか生きられない……分かるか……? 今のお前は、悪鬼の表情をしている……」
「悪鬼だと」
「生きて、苦しむがいい……」
ゼイヴァの声は少しずつ弱々しく、か細くなっていく。
「捨て台詞か」
「いいや」
魔神が笑う。
「同情だ。魔神をも屠る人間とは……もはや、魔神と変わらない……から……な……」
笑いながら、ゼイヴァは消滅した。
俺は剣を手に、その場に立ち尽くす。
遠くから鬨の声と、怒号と、悲鳴が聞こえてきた。
戦場の、声。
そうだ、考えるのは後にしなければ。
今は、帝国との最終決戦の途中なんだから。
「最強の魔神ゼイヴァは、この十二番隊隊長マリウス・ファーマが討ち取った! 王国の同志たちよ! 勝利は目前だ!」
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!
近くから、遠くから、割れんばかりの歓声が響く。
それに交じり、敵兵の絶望の声も。
「今こそ、帝国との長きにわたる戦いを終わらせるとき! 剣を振れ! 敵を討て! 俺とともに――!」
戦いはミランシアの大勝利に終わった。
最大の脅威である魔神は俺が倒し、皇帝も殺された。
帝国のトップと最大の脅威がいないおかげで、戦況はミランシアが終始圧倒している。
やがて、帝都を完全に占領することができた。
「これで――終わったのか」
まあ、魔神はまだ何体か残っているが、俺の敵じゃないだろう。
帝国は皇帝を失い、その長男が新たな皇帝に就任した。
前帝とは打って変わって穏健派の皇帝だ。
いや、生き延びるために穏健派に鞍替えしたのか。
ともあれ、新皇帝はすぐにミランシアとの講和に踏み切った。
多額の賠償金も承諾した。
完全降伏に近い。




