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第2章 十二番隊

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7 魔剣の伝承

 オルト砦攻略戦は俺たち十二番隊の大勝利に終わった。


 また、俺は大幅にパワーアップすることができた。

 帝国兵×152、帝国騎士×70、帝国上級騎士×2──取得した合計経験値は1000倍ボーナスによって2940000。

 レベルも78から86まで上がり、また新たにスキルをいくつか取得した。


 隊も、俺自身も上々の成果だ。


 砦内に入ってきた本隊と合流する。

 先頭にいるのは六十絡みの老騎士──ジィドさんである。


「本隊の指揮をありがとうございました、ジィドさん」

「いえ、すぐに敵軍の士気は崩壊してしまいましたし、ほとんど掃討戦に近い状態でした。すべてはマリウスさんの単騎突破が為し得た勝利です」


 ジィドさんが柔和な笑みを浮かべた。


「聞きしに勝るお力、さすがでした」


 言って、ジィドさんが俺に深々と礼をする。


「いえ、そんな……」


 照れてしまった。


「すごかったですねー。初めて間近で隊長の戦いを見ましたけど、ボクびっくりしました」


 ウェンディがやって来る。


「俺も。あらためて、すごい人が隊長なんだなって実感しました」

「僕もです」

「あたしも~」


 と、部下たちはいちようにキラキラした目で俺を見ていた。

 図らずも隊長としての求心力まで上がってしまったんだろうか。


 まあ今はそれよりも、


「負傷した者がいたら、治癒系のスキルを持つ者に治療をしてもらってくれ。頼めるか、ウェンディ?」

「りょーかいですっ」


 びしっ、と元気よく敬礼して、ウェンディが去っていく。

 他の騎士たちにもそれぞれ事後処理を命じ、俺はジィドさんに向き直った。


「ジィドさん、実は敵の中に『魔剣』というものを使う騎士たちがいたんです」


 と、他の騎士に聞こえないよう耳打ちする。


「魔剣……ですか?」

「ラ・ヴィムの遺跡から発掘したものだ、と」

「ラ・ヴィムといえば、先史文明のことですね……」


 ジィドさんがうなる。


「砦の奥に置いてあるんですが、ちょっと一緒に見に来てもらってもいいですか?」


 というわけで、俺たちは砦の奥にある一室までやって来た。


「これは──」


 驚くジィドさん。


 壁際に立てかけた、二本の魔剣。

 それらは、バチッ、バチッ、と激しいスパークを発していた。


 帝国の上級騎士たちを倒して、しばらくするとこうなったのだ。

 以降、ずっとこうして放電現象が続いていた。


 うかつに触れば、怪我程度ではすまないだろう。


「ここに放置するわけにもいかないですし、王都に持ち帰ろうかと思うんですが、これでは──」

「確かに持ち運びすらできませんね」


 ジィドさんがうなる。


「まずは研究者をここに呼び寄せ、調べさせた方がいいかもしれません」


 研究者か、なるほど。


「分かりました。ただ、魔剣をここに置きっ放しというわけにもいかないので監視が必要です」

「私が引き受けましょうか?」

「……お願いできますか」


 俺はジィドさんに一礼した。


「遠慮なさらないでください。あなたは隊長なのですから。『お願い』ではなく『命令』でいいのですよ。別に敬語も不要ですし」

「いえ、俺よりもずっとキャリアがありますし、色々と学ばせていただいているので」


 ジィドさんは騎士養成学校で臨時の上級講師をしている。

 騎士になって日が浅い俺にとっても、もっとも身近で学べる先生である。


「とりあえず、俺は本隊に戻ります。魔剣についてはあまり口外しない方がいいかもしれませんし、しばらくジィドさん一人で監視をお願いできますか。砦自体の守備にも十二番隊の人員を残します」

「承知いたしました」




 敵の逆襲に備えて砦に十二番隊の騎士をある程度残し、残るメンバーとともに俺は王都に戻った。

 総隊長に攻略戦の結果と、魔剣について報告する。


「魔剣……か。奴ら、そんなものまで戦局に投入し始めたのか」


 ブラムス総隊長がうなった。


 五十歳をいくつか過ぎた壮年の騎士だ。


 一番隊の隊長であり、この聖竜騎士団全体をまとめる総隊長でもあり、そして──ミランシア王国最強の騎士である。


「総隊長はご存知なのですか。魔剣のことを──」

「伝承の類で俺も少し聞いたことがある程度だ」


 俺の問いに答えるブラムス総隊長。


「千年前に世界を滅亡の危機に陥れた【魔神王】。それを討った七人の『勇者』と七本の『聖剣』。そして、【魔神王】の配下である魔神たちが操ったという三十四本の『魔剣』。すべては、伝説の存在だな」

「伝説の武器、ということですか……」

「古代に栄えたラ・ヴィムでは、現代よりも神や魔といった存在に関する研究が進んでいたのだという。聖剣や魔剣を召喚し、その力を引き出すこともできたのだろう。ラ・ヴィムの遺跡にはそんな神や魔の力の残滓が眠っている──」

「帝国はそれを発掘した……?」

「おそらく、な。あるいは他にも魔剣をそろえているのかもしれん」


 ブラムス総隊長が苦々しい顔をする。


「純粋な兵数や国力なら王国に大きな分があるが、奴らは魔神や魔獣といった超常の存在を味方につけておる。百年にもわたって戦局が拮抗しているのは、そのためだ。さらに魔剣まで加わるとなると──戦いは厳しくなるかもしれん」


 確かに、俺はスキルの力や土壇場で発動した謎の現象のおかげで勝利を手にした。


 だが一般の兵や騎士では、魔剣には対抗できないだろう。

 もちろん魔獣にも。


 そして、俺もまだ相対したことがない魔神の存在──。


「今のままでは帝国に対抗するのは難しい……ということでしょうか」

「一つ、手がある」


 と、ブラムス総隊長。


「魔に抗するは神の聖なる力。敵が魔剣を携えているなら、こちらは聖剣を用意すればよい」

「聖剣……?」

「世界のどこかに眠るという七本の聖剣、それを見つけられれば……」


 雲をつかむような話である。


「いや、まったく当てがないわけではない」


 総隊長がニヤリと笑った。


「まだ確証はないが──君が魔剣使いたちと戦ったときに立ち上ったという光の柱だ」


 まさか、それは。


「魔剣に共鳴して聖剣が反応を見せたのかもしれん。光の柱の場所は、王国とリアン公国の国境付近だ。近いうち、そこに探索部隊を派遣する」


 総隊長が言った。


「部隊には君も加わってくれ、マリウス隊長」


 聖剣探索部隊、か。


「まあ、聖剣探索については詳細が決まり次第、君にも伝えよう。今は帝国騎士から奪取したという魔剣の方だな」

「はい。王都に持ち帰ろうと考えたのですが、私が魔剣使いを倒してからほどなくして、急に放電現象が始まりまして」

「放電現象?」

「剣全体がスパークを発して、誰も寄せつけません」

「まずはその放電現象を解除したうえで、王都に持ち帰る──という流れになるか。ラ・ヴィム文明の研究者から数名を選び、砦に向かわせよう。君は彼らを案内してくれるか」

「承知いたしました」




 総隊長への報告を終え、俺は研究者たちを連れて砦に戻った。


 報告などの事後処理で、だいたい一日近く時間がかかってしまった。

 魔剣を安置している場所に進む。


「ジィドさん、戻りました」


 声をかけたが返答がなかった。

 嫌な予感がした。


「ジィドさん……?」


 俺は、奥の部屋まで足早に向かった。


 むせ返るような血臭。


 全身血まみれのジィドさんが、床に倒れていた──。

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