第64話は、管理者さんからの贈り物。
よろしくお願いします。
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太郎は、次の目的地は人間のいる所にしようと考えていた。
本来の予定では、ラミアの森から出たら、海の近くにある人里にするつもりだったのだが、管理者のお爺さんからドワーフ族の村というか種族が滅亡をしてしまう切迫した状況に陥ったの救って欲しいと依頼された為、そちらを優先することになったのが原因だ。
そして現在、ドワーフの件が片付いたので、人間の居る港に向かって歩いているという訳だ。
で、私が歩いている横には、少し女性らしくなった恵とお紺、そしてホワイトバンビのクリスがいる。
その恵もお紺も、残念ながら、もう魔法少女という歳ではない。
二人ともドワーフの村で思春期を過ごしたので、恵は二十歳でお紺も十八歳になっていた。
ただ管理者のお爺さん曰く、十五歳を過ぎてからは、身体の成長が百年毎に一歳しかしないとの事なので、少なくともあと二百年から三百年は魔法少女を続けられそうだ。(プロローグ参照)
初夏の香りがする森の中をみんなで歩いていく。
特に急ぐ用事もないので、のんびりと景色を楽しみながら歩いていく。
小鳥たちのさえずりを聞きながら昼食をとり、川のせせらぎを聞いて暑さと疲れを忘れる。
晴れたらノンビリ道を進んで、雨が降ったら休日。 晴耕雨読に近い感じで海に近づいて行く。
そんな毎日も悪くないと思いながらも自分の残り時間を省みる。
ふむ、残り80年か……。
まだまだ時間はある。
ちなみに恵とお紺は980年か……。
私には想像もつかない程、時間はある。
そう思っていると、管理者のお爺さんから通信があった。
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(太郎どの、久しいのう)
「お久しぶりです。 本日はどうなされたのですか?」
(ふむ。 今、お主が残りの時間を考えておったのを覗いていたのじゃが、ワシが想像していたより良い魂が集まってきておる)
「それは良いことですね」
(ただ、少し困ったことがあっての……。 近ごろ人族の国が不穏な動きを見せておるのじゃ)
「それはまたどうして……」
(以前より同じ種族間同士の仲が悪くての。 最近は更に酷くなっておるのじゃ)
「……では、一触即発とか?」
(いや、流石にそこまでは酷くなっておらぬが、国境付近でのイザコザが頻発しておっての)
「そうですか……。 国境付近は少しまずいですね」
(うむ。 国境付近に川があり、そこの水を巡っての諍いが昔から続いておる。 今回は、その諍いによって瘴気が生まれ、徐々に悪い方向にいっているのじゃ)
「そうですか……。 人の負の感情が瘴気を生むのですね」
(太郎殿に頼んでばかりですまんが、大きな争いになる前に少し見てきてくれんかの?)
「わかりました」
(幸い、その村から海へは歩いて三日ほどの距離じゃ。 それからドワーフと今回の村で世話になるから乗り物を用意させて貰ったぞ。 空を飛ぶベンチじゃ)
「ベンチとは、随分と懐かしいものが出てきましたね」
(大人三人で座れるものを三つほど用意したぞ。 太郎どのと娘たちが操縦出来るようにしといたから、後で試してみるがいいぞ)
「わかりました。 いつも便利なものを頂きありがとうございます」
(よいよい。 ワシもこれくらいしか手助け出来ず、心苦しいかぎりじゃ。 本当にすまんの)
「気持ちだけで十分です。 私もこの歳で色々見聞出来て楽しいので、そこまで謝らないで下さい」
(そうか。 太郎どの、ありがとう。 では、またの機会にな)
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管理者のお爺さんからの通信が終わったので、恵とお紺に会話の内容を説明する。
【太郎】「とりあえずは、頂いたベンチでも見てみようか」
【恵】 「太郎兄、ベンチって何ですか?」
【お紺】「恵姉さん、私も知りません」
そういえば、ベンチをこの世界では見たことがなかった。
公園やデパートになら当たり前のように置かれている物だが、この世界はない物。
会った人たちは普通に地べたに座っていたのを思い出した。
今まで他のことで頭が回らず、それを普通に受け入れていたが、ベンチがあれば雨の翌日にも座れるし、また少し休憩した時も立ち上がるのも楽だ。
とりあえず、夢みるテントからベンチを取り出してみる。
このベンチ。 夢みるテントが拡張され倉庫に普段収納されているとの事だ。
取り出したベンチを見ると、何故か少し色褪せた青色のプラ製のベンチ。
太郎が昔公園で座って孫たちを見ていた物にすごく似ている。 いや釘か何かで彫られた相合傘は、昔見た物だ。 そう地球で過ごした時のベンチだ。
懐かしい気分に浸しながらベンチを取り出し、恵とお紺に多分地球で使っていた物と説明をして座ってみる。
【恵】 「ベンチってかたいんですね!」
【お紺】「木と違ってツルツルしてますね」
恵とお紺は、座る前にペタペタと触って二人で興味深そうに会話をしている。
そして座って、ずっと座ると背中やお尻が痛くなるとか、クッションがあったらいいとか改良点を話をして盛り上がっている。 駅のベンチには座布団が敷いてあったので二人の言っていることは、なかなか的をえているのかもしれない。
改良点はおいといて、とりあえずひとり一台ずつに分かれて座る。
座って浮かせてみると、ジェットコースターに乗っているような感覚がある。
ただし、足場がなく手すりもないので、かなり不安定な感じだ。
ゆっくりと浮かせて、前に進ませる。
この指示方法だが、頭に思い浮かべるとそのように沿って行動をしてくれる設計だが、願わくば安全な設計にして欲しかった。
ちなみに現在は地上から30cmほど浮かせ、小走り程度のスピードで運転をしている。
安定感があるのが救いだ。
恵とお紺は、地上から3mくらいに浮かせて結構なスピードで運転をしている。
横にいるクリスを乗っけてみた。
乗せて浮かぶと立ち上がり少し足が震えている。
ただその状態でしばらく動かさずに浮かせていると慣れてきたのか大人しく座った。
その状態で、歩くくらいのスピードで運転をしても問題なかった。
保険にクリスの背中を撫でていたいたのも幸いだったのかもしれないが。
とりあえず、今日はこの辺りでベンチをしまい次の村まで歩いて行くことにした。
次の村は、海までは三日ほどだけど、ここからは歩いて一週間ほどかかるので、空飛ぶベンチに慣れながらの旅になる。
お読み頂きありがとうございます。




