第16回 第3会場 08 『Boy Meets Hemorrhoids』
作品のURL https://book1.adouzi.eu.org/n0928hv/9/
この作品の感想は書きたくなかったんですよね……
何せ、書き出しとしてのインパクトは、第16回における100作品の中でもずば抜けていますから。
とりあえずタイトルから暴力的です。
ボーイ ミーツ ガールというラブコメ王道の展開をもじって、Boy Meets Hemorrhoids(少年は痔に出会った ※CV 森本レオさん) という、作家が読者に襲いかかりフルボッコしてくるようなタイトルなのです。
これは間違いなくコメディ……と思いきや。思いきやですよ。
なんですか、このストーリー。
『ピリッという音で、僕は目が覚めた。』で始まるポエム的なスタート。
これも完全にわざとですね。
悪手を逆手にとって、あのシーンへ作者は読者を誘うのです。
僕? お兄ちゃん?
何だろうと思っていると、次の段落が始まります。
『尻にピリッとした痛みが走る』
再び、ピリッと音がするのです。
冒頭部と対になる構造が早速やってきます。
正直、書き間違いじゃないかと思うくらい、対となる部分が早速来ます。
これ、普通に書いたらやっぱり悪手です。
あまりにも早く対となる部分を作ったことにより、読者は混乱します。
でも、やっぱりこの書き出しの中では悪手は結果的に好手なのです。
ポエムスタートの後、「俺」は現実世界での痔の痛みを味わいます。
かなりの文字数を使って、痔の説明が繰り広げます。
話が進みません。
重いです。
でも、ここもいわゆるタメになります。
読者の結構な割合の人が読み進めることが苦痛になってくるタイミングで、あのシーンがやってきます。
それは『お兄ちゃん』から始まります。
おや?
なんだ?
読者はそんな感想を抱くでしょう。
痔を取り扱ったコメディではなかったのか?
いやいや、だって痔でしょ。
まだこの時点では読者は半信半疑です。
いや、コメディであることを疑ってすらいないでしょう。
『声は下半身の方から聞こえているようだ。』
おやおや。
心が震え始めます。
ここまでの痔の説明はいったいなんだったんだ。
それくらい、脳内にクエッションマークでうまります。
そして、ついに来るのです。
『それは血塗れの手首だった』
ぎゃー。
ぎゃー。
もう無理です。痛いです。思わず自分の股間を覗いちゃいます。出ていないよね。
いやー、ホラーですね。
怖いですね。
このワンシーン。
この1行。
これを描くために、この書き出しはあるといっても過言ではないでしょう。
正直、シーンのインパクトでいえば第16回の中で随一だと思っております。
書き出しとしてもこの1行が肝だったと感じたので、改行位置や情景描写などは、もう少し工夫があった方がよかったかなとは感じました。
激痛と出血に苦しんでいる中で、ただズボッとでてきた……は、少し共感性の薄い動きな気がしましたので、たとえばその前の文章から、こんな感じにすると、より効果的だったかもしれません。
> その言葉とともに、さっきまでの何倍もの痛みが俺の尻から身体全体を駆け巡る。そして、尻からズボッと何かが飛び出した。
> 見れば、それは血塗れの手首だった。
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その言葉とともに、さっきまでの何倍もの痛みが俺の尻から身体全体を駆け巡る。俺は痛みを抑えようと反射的に尻の穴を手で押さえた(← 痛みに耐える俺の動きを描く)。その手を押しのけるよう(←手首の動きを描く)に内側から何かが飛び出してくる。
思わずつかんだそれは、血塗れの手首だった(← 俺と手首の位置関係を明確にする、空行を挟むことで、『血まみれ手首』を際立たせる。もっと露骨にやっても良い)。
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みたいな形で、より人の動きと映像が直結する表現。そして空行を挟むことで、よりインパクトを与えると、読者の視線を流さずに、目を止めさせることができたのでは無いかと感じました(今のままでも、死ぬほどインパクトが強いんですけどね)
ここから回想につながり物語がいきなり佳境に入りそうな予感で書き出しは終わります。
そして読者の脳内には、尻から生えた血まみれ手首が映像として残る事でしょう。
全般的に横書きWeb小説として、読みやすさを意識した空行の使い方など、改善要素はあるような気がしましたが、そんなテクニック的な話はどうでもよく、読者の脳内にインパクトのある映像を残す作品だということで、私は書き出しとしては第三会場における一人勝ち作品じゃないかと思っております。
とはいえ、他の方の感想も読んだのですが、この血まみれ手首のインパクトが伝わっている方、伝わっていない方に二分されてしまっている気がします。
もし私の予想に反して得票が伸びなかったとしたら、原因はテクニカルな話と文章で映像を見せる……という所を意識した表現といったあたりかもしれません。
ジャンル的に受けるかどうかは別として書き出しとしては圧勝できるポテンシャルが充分にある作品です。まだ読んでいない人は是非……というところで、書きたくなかった感想を締めさせていただきます。
うー、尻が痛そう。




