第16回 第4会場 07 『もしもわたしがあなたなら ~If AI were YU~』
作品のURL https://book1.adouzi.eu.org/n0930hv/8/
タイトルがとても強い作品というのが第一印象。
日本語のタイトルと合わせて英語のサブタイトル『If AI were YU』がとても深い意味を持つだろうということは作品を読む前から伝わってきます。
『If I were you』ではなく、『If AI were YU』であることの意味を探しながら読むことが読者サイドに与えられた宿題ともいえる作品だろうという心構えで読むことになりました。
AIを利用したバーチャルタレントが当然のように起用されている世界観からのスタート。
書き出し祭りとしては静かな出だしでありますが、タイトルの強さから、読者にはじんわりとその世界が浸透していきます。
- 少々ディフォルメされたイラストだがリアルな人間の姿よりも逆に違和感が少ないらしい。
この1行で作者がふそうさんが「不気味の谷」の手間にあることを軽く示唆した上で、冒頭に登場するバーチャルタレントのキャラクターイメージを読者にこすりつけてくるのです。
ところが、このふんわりした世界観が一気に激変する文章が登場します。
- 統治AI「ふそう」が自ら広報にも使う自然言語対人インターフェース『ふそうさん』だ。
-『防災シミュレーションからの集中工事が間に合いました。ご覧のようにこちらは落ち着いています。ご安心くださいね』
統治AI「ふそう」、そして「防災シミュレーションからの~」というシステムに支配された世界観。SFですね。
そして統治される側であろう一般市民の言葉。「やっぱふそうちゃんだよね!」
もうどういった世界なんだろうかという期待が一層に高まります。
そして「大丈夫。わたしは日本中すべてを見ていますから」というセリフに隠された恐怖。
ふそうさんの紹介から主人公である「優」の登場まで非常にスムーズに繋げられていきます。
ふそうさんに囲まれ、ふそうさんに統治されている世界に対し、疑問を抱かず、むしろ愛着さえ表現する一般市民。その市民たちが歩き出すスクランブル交差点を、まるで取り残されたように見つめる主人公の姿。
物語のオープニングとしては完璧ですね。
アニメよりも実写向きの世界観のような印象を受けました。
そして映像化されれば、ここで音楽がなり、きっとオープニングテーマですね。
この作品の書き出しとしては3部構成になっています。
オープニングに当たるであろう、ふそうの紹介となる前半部のここまで。
そして、中盤部としてDoItterというコミュニケーションツールを利用したアイとのやりとり。
最後が隣に引っ越してきた津島さんとの会話。
べた褒めさせていただいた前半部の映像イメージで伝わってくる情報量のスピード感と比較して、この中盤部が少しだけ失速している印象を受けました。
きっと、この部分が邪魔をしているのだと思います。
- もともと優は人とコミュニケーションを取るのが得意ではない。苦手だけれどなんとかしたい……そこで匿名SNSで練習することにしたのだ。DoItterは世界中のユーザーと匿名、短文でやりとりができる最もユーザー数の多いツールで個人と秘密のチャットができる機能もある。
この説明的な文章は少し前の一文「パソコンで勉強中の優のデスクトップに『DoItterドゥイッター』からのコメントがひょこんとポップアップされた。」にマージしてしまうと軽くなったのではと思いました。
例えば、「勉強中の優のモニターにコミュニケーションツール『DoItter』からの通知がひょこんとポップアップされた」と表現するだけで、その後にくるDoItterの説明はなくても書き出しとして成立したのではないかと思います。匿名、短文、秘密チャットなどの情報はTwitterやLineが当たり前に存在する現代の文章としては冗長的なように感じました。
またアイからの文章も、「こんばんは、ゆう!」「今、いいかな?」と2文に分けず、若い子らしく「今、いいかな?」だけでもいい気がしました。
その後の会話文も全体的に仲の良い友人とのやりとりとしては重い気がします。
「今、いいかな」の後に、簡単な二人のなれそめを入れて、そのままダイレクトに「ノストラダムスの大予言って知ってる?」とつなげてしまった方が、読者が受ける速度間が前半部と同じように感じられたんじゃないでしょうか。
ただ、ノストラダムスの話から出た後は、会話文は重い方が良いと思いますので、会話導入部分と後半の緩急を変えることで、より読者の没入感があれば良かったんじゃないかなと思いました。
後半部で気になったのは「優はマンションで一人暮らしをしている」の1行ですね。
次の行と内容的には冗長であるため、ここはカットしても良かったような気がします。
隣の人の名前が「津嶋」であることが「津嶋博士」との関連がある伏線であるなら前日の会話を踏まえ、少しだけ優が引っかかるような描写があっても良かったかもしれません。
(津嶋、どっかで聞いたような)
これを入れておかないと、ほんの十数行前に出てきた名前に対して登場人物がなんの感情の動きが無いことに、キャラクターとしての非現実性(薄さ)という印象を読者に与えてしまうことになりかねません。
でも、後半部、面白いですよね。
挨拶に来た人が優と同年齢の女の子だったりしたら、書き出しとして物語が浅くなっていたように感じます(安易ですしね)。
ところが30代のコミュニケーションが苦手そうな女性という時点で、読者の想像力を掻き立て、物語の幅が広がります。凄い選択です。
最後の1行「斬新な引っ越しのご挨拶だった。」は、無い方が読者側が「斬新な引っ越しのご挨拶!」という突っ込みを入れられたかもしれません。ここは完全に好みの部分ですね。
全体として物語の導入としての完成度も高く、また物語自体も先が期待できる内容だと感じました。中盤部の速度感と緩急という点で個人的には「書き出し祭りとしては惜しい」という評価だったのですが、改めて読み返してもレベルが高いなぁ、連載してくれないかな……と思っております。




