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43:舞踏会を抜け出して

「フォルセティア様は、本当にリクシィ様を好いていらっしゃるのですね。」

またか――と、内心ため息をつきながらも、もう慣れたものだ。

「そうですよ。好きです。そして、サフィア嬢、もう猫を被らなくていいですよ?」

「ちぇー、つまんないなぁ。フォルセティア様、照れてるのが面白かったのに」

「おっ、いつものパパラだ」

猫を被るのはやめろと言ったが……ここまで本性を出すとは思わなかった。

「おっ、セリアス!リクシィが変装解いたぞ!」

ゼインの声に振り向くと、ちょうどリクシィ嬢がこちらへ歩いてくる。

だが、その後ろ――以前パーティーで見た青年が目に入った。

「誰、あのイケメン?」

ゼインはいつも通り軽い調子だが、その目線は真っ直ぐリクシィ嬢に向けられている。

彼の仮面の下の表情はわからないが、視線の強さは隠せない。

「この国の第三王子、ジルコリア殿下です。……リク、あの人から隠れたかったんですよ」

「なぜですか?/なんで?」

僕とゼインの声が重なった瞬間、パパラが口元を押さえてクスクスと笑う。

「見てたらわかりますよぉー」

見てたらわかるって……そんなにわかりやすいのか?

「あっ、リクシィ。すっごい速度で帰って来てる」

パパラの声に目を向けると、リクシィ嬢が小走りでこちらへ。

「パパラ、セリアス様、ゼイン様!助けてください!」

彼女は慌てた様子でゼインの背に隠れた。肩が小刻みに震えている。

「何だよ?そんなに怖いのか?」

そう言いつつも、ゼインはなぜか少し嬉しそうだ。

「怖いどうこう以前に……」

言葉を濁したそのとき――

「リクさん、なぜ私から逃げるのですか?そんなに私のことがお嫌いですか?」

背後から聞こえた低い声に、僕たちは同時に振り返った。

そこには仮面をつけたままのジルコリア殿下が立っている。

彼の瞳は仮面越しでも鋭く、リクシィ嬢だけを射抜いていた。

「ダンスを無理矢理させてくるから嫌です!」

リクシィ嬢が即答すると、殿下はわずかに目を見開き、しかしすぐに表情を戻した。

だが、胸の奥で何かが小さく軋む音が聞こえた気がした。

「そうですか……なら、仕方ありません。……お三方、邪魔をしてしまいましたね」

そう言うと、彼はゼインに目を向けた。

「フォルセティア様、サフィア嬢……そして、すみません、あなたのお名前をお聞きしても?」

「ゼイン=ガーネッティです。えっと、ジルコリア殿下?」

王子は一瞬だけゼインを値踏みするような目をしたが、すぐに口元に柔らかい笑みを浮かべる。

「はい。もし今後お会いすることがありましたら、どうぞよろしくお願いします」

そう言って、殿下は最後にもう一度だけリクシィ嬢を無言で見つめ、静かに立ち去った。

……その視線には、未練のようなものが滲んでいた。

僕はまだゼインの背に隠れているリクシィ嬢の肩を、そっと叩いた。

「リクシィ嬢、すみません。……ダンスがお嫌いなのに、この前誘ってしまって」

すると彼女は勢いよく振り返り、ハッとした様子で言う。

「い、いえっ!セリアス様と踊るのは平気です!えっと、その……なぜか、大丈夫でした」

その狼狽した様子に、胸が大きく跳ねた。

「そうそう、リク楽しそうだったよぉ」

パパラの茶化す声にゼインが目を丸くする。

「えっ、セリアスいつリクシィと踊ったの!? 俺、それ知らないんだけど……!」

ゼインとパパラが言い合うのを横目に、僕はそっとリクシィ嬢へ近づき、低い声で囁いた。

「リクシィ嬢……この舞踏会を、一緒に抜け出しませんか?」

一瞬、彼女はきょとんとしたが、すぐに嬉しそうに微笑んだ。

「……いいですね」

――その笑顔は、仮面越しでもまぶしかった。

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