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ほの暗い穴の底から“幸せ”をっ! 〜仲間に捨てられた薄幸少女剣士、異世界の少女とダンジョン経営を通して本当の“幸せ”を探す〜  作者: misaka
●秩序を、守ろう

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第284話 焦らず、急ぐ!




 ファイが盗賊たちの対処を終えて元居た場所に戻ってみると、待っているはずのミーシャがどこにも見当たらない。


「ミーシャ? ミーシャ〜?」


 口元に手を当て、同僚の名前を呼ぶファイ。


 それでも反応がないため、念の為に周辺の部屋を探してみる。が、やはりミーシャの姿がない。


「…………」


 少しずつ、ファイの中で焦燥感が募り始める。というのも、先ほどのユート達の話があるからだ。


(ユート達。他にも悪い人がいるかもって言ってた……)


 ファイが見かけた男たちは、強盗犯だった。


 しかし、かつてフーカを襲ったような誘拐犯だっているのだ。


(ミーシャ、可愛いしモフモフ。連れて行かれてもおかしくない!)


 むしろ自分なら持ち帰るだろうことが分かるだけに、ファイの焦りは加速する。


 思えば、強盗たちと探索者たち。両者と情報交換する中で、ファイはかなり長い時間ミーシャから目を離してしまった。それこそ、1人で待ちぼうけていただろうミーシャを連れ去るには十分すぎる時間だ。


 あるいは強盗犯たちの狙いは実はミーシャだったのではないかとさえ思える。


 ファイと話をすることで時間を稼ぎ、本命である可愛い可愛いミーシャを連れ去ったのではないか。また、その場合、もしやユート達も犯人たちも共犯者なのではないか。


 優秀なファイの頭脳が次から次へと可能性を弾き出していく。が、そんなことよりもミーシャを探すのが先だ。


 誘拐するのには十分すぎる時間があったが、誘拐されてからはきっと時間は経っていない。まだ近くに居ることだろう。


「ピュレ、音声出して。……リーゼ、リーゼ。聞こえる?」


 首輪に偽装させている青いピュレに指示を出し、ファイはリーゼへと呼び掛ける。と、数秒とせずに応答がある。


『ファイ様? どうかされましたか?』

「リーゼ! ……ミーシャが誘拐された……かもしれない」


 ファイの言葉に、リーゼが息を飲む気配がある。が、1秒もせずにファイが何を言おうとしているのかを察してくれるのが優秀なリーゼだ。


『第4層、およびそれ以下に設置した撮影機の映像の監視を強化する、ですね?』

「そう。もしミーシャを運んでそうな人が居たら、教えて」

『かしこまりました。ではファイ様は上層へ急いでください。もしミーシャさんがウルンに連れ帰られてしまった場合……』


 エナ欠乏症で、あっという間に死んでしまう。そんなこと、リーゼに言われるまでもなくファイも理解していた。


「ひとまず、第4層と第3層の間にある安全地帯に居ることにする、ね」


 誘拐犯たちがどのような経路を使おうが、次の層へ続く通路は必ず通る。第4層と第3層の場合は2本。そのうちの1本、先ほど別れたユート達が向かった方には、もうすでに撮影機をつけてある。


 つまりファイが目指すべきはもう1つの通路の方だ。


『かしこまりました。どうかお気を付けください。ピュレ、音声終わりです』


 リーゼとの通信が切れるころにはもう、ファイは動き出している。


 また間違えた、と、後悔で眉尻を下げるファイ。


 見ず知らずの探索者よりも、ミーシャの方がずっとずっと大切だった。絶対に目を離すべきではなかったのだ。


 だからと言ってミーシャのお願いを無視できたのかというと、そうではない。他人に不幸をもたらすかもしれなかった盗賊たちを見逃す選択肢は、ファイにはなかった。


 間違えたのは、対処の方法だ。


 より確実に、裏を返せば楽な方法でミーシャの安全を確保しようとしてしまった。結果ミーシャから目を離してしまい、こんな事態になってしまっている。


(男の人たち、弱かった。ミーシャを守りながら戦うって、言えば良かった……)


 それがただの結果論であるということを、今のファイの頭は判断できない。


 風の魔法を使いながら、全力でエナリアを駆けるファイはさながら一陣の風だ。宝箱の補充業務でも使用した最速の移動方法でもって、第4層の入り口となる洞窟に到着する。


 敵がめったに現れない安全地帯の前ということもあって、2、3組の探索者の徒党が夜の休息をとっていた。


 しかし、ものすごい勢いで現れたファイに驚いて飛び起き、寝ぼけまなこで警戒している。


 そんな彼らに、まずは指先に火を灯す〈ヴェナ〉を使ってウルン人であることを証明するファイ。


 その間に休憩している探索者たちを観察し、ミーシャの姿が無いことを確認してから、ファイは手短に用件を明かす。


「みんな。起こしてごめんなさい。人を探してる。金髪の獣人族の子、見なかった? 身長はこれくらい」


 自分の鼻先辺りでミーシャの身長を示すファイ。突然現れて質問をしてきた彼女に、しかし、探索者たちはすぐに顔つきを真剣なものに変える。


「誘拐か、迷子だな? 私たちは見ていないが、みんなはどうだ?」


 探索者の1人がすぐに緊急事態を察し、その場にいる探索者たちをまとめてくれる。


 おかげで、この場に居る誰も、ミーシャらしき人物を見ていないことの確認が取れた。


 また、この頃にはファイも少しだけ冷静さを取り戻している。おかげで、まとめ役の探索者が真っ先に「誘拐」を口にした程度には、エナリアでの犯罪が一般的なものだと認識できた。


「……こういう時、どうしたらいい?」


 フーカの誘拐未遂こそあったが、知人が誘拐されたのは初めてのファイだ。どうしていいのか分からないため、間違いなく自分よりも知識を持っているだろう探索者たちに聞いてみる。


 それに応えてくれたのも、まとめ役の探索者――森人族の男性だ。


 身長はファイより頭1つ大きいくらいで、カイルより少し低いくらい。180㎝半ばだろうか。サラサラとした青色髪は、わずかに耳にかかる長さ。目元にあるホクロが印象的な、好青年だった。


「そうだな……。まずは状況の整理だ」


 青年の言葉で、ファイは改めて状況を整理する。


 まず、ファイがミーシャから目を離していた時間は10分前後。目を離した理由が盗賊への対処だったことも明かす。


「聞きづらいんだけど、その子がお手洗いに行った可能性は?」

「……あっ」


 青年に言われた瞬間、ファイは確かにありえる、という声を上げる。


 ファイは、従業員たちがお手洗いをあまり公言しないことを知っている。ファイ自身、人間らしい仕草である排泄を見られたり知られたりするのが嫌で、周知することは無い。


 その点はミーシャも同じだ。かつて一緒に眠る前に部屋を出て行こうとした彼女に行き先を尋ねたところ、「恥ずかしいから聞かないでよ、バカファイ!」と、ミーシャに怒られてしまったことがある。


 ファイが居ない間に彼女が用を足していた可能性も、確かにありえるのだ。


「でも呼びかけてもミーシャ、返事しなかった」


 いくら恥ずかしいとはいえ、呼びかけに答えないのはおかしい。そう指摘したファイに、青年も「それは、確かに」と一定の納得を示してくれる。


「じゃあ次。その子は迷子になりやすかったりしないか?」

「……あっ」


 それについても心当たりがある、というファイの反応に、「それもあるのか」と青年が苦笑する。


 実のところ、ミーシャはあまり目が良くないらしい。そのため、動くものがあれば近づいて確認しようとする癖がある。


 さらにそれがすばしっこく動き回るような生き物であれば、ミーシャは嬉々としてソレを追って行ってしまう。


 この階層に限らず、エナリアの生態系を支えているのは蜥蜴や鼠などの小さな動物たちだ。彼らが足元を通り過ぎて行ったとき、ミーシャがついつい追って行ってしまった可能性もある。


「け、けど、ミーシャは賢い。さすがに待っててって言って、追っていく、は、無い……はず?」

「いや、私に聞かれても困るんだけどな……。まぁ、それでも君の呼びかけに反応しないのは変か。迷子なら捜索範囲も絞れたんだけど」


 念のためだろう。迷子の可能性を排除してくれた青年。こうなると、残っているのはやはり誘拐の可能性だけだ。


「……了解だ。君、携帯を持っていたりしないか?」


 青年の言葉に、ファイは黄色い髪を揺らしながら首を振る。


「ごめん、ね。持ってない」

「そうか。まぁ通信できても同じ階層だけだし、戦いで壊れる可能性も高いしね。じゃあ、もしそのミーシャって子、あるいは誘拐犯らしき人物を見つけたら、これで知らせても良いか?」


 青年が渡してきたのは、球形に加工された緑色の宝石だ。


「きれい……。これは?」


 聞き返したファイに青年が一瞬、驚いたような顔を見せる。が、すぐに優しい笑みを浮かべると、


感応石(かんのうせき)だ。こうやって対になっている石に魔素を込めると……」

「わっ、光った。それに、あったかい……?」

「そうだ。同じ階層にさえ居てくれれば、大体は共鳴してくれる」


 彼らはもうしばらくこの第4層の入り口辺りで野営をしているという。もしもミーシャを見かけた場合、これで知らせてくれるようだ。


「だから君は、気兼ねなく第4層を調べてきてくれて大丈夫だ」


 強姦、身代金の要求、奴隷売買。誘拐犯の目的が分からない以上、早期発見が大切なのだと彼は言う。


 それら誘拐犯の目的のいくつかを聞いただけでも、ファイは居ても立っても居られない。今まさに、あの可愛い同僚が憂き目に逢っているかもしれないのだ。


「分かった。じゃあ、行ってくる。ありがとう、えっと……」

「ジクロだ」

「ん、ジクロ。ミーシャを助けたら、お礼する、ね」


 終始、優しい表情で接してくれた森人族の青年に別れを告げて、ファイはミーシャの捜索を続ける。


 幸いにも、エナリアは閉じられた空間だ。前に進もうが後に引こうが、必ず出口と入り口を通ることになる。


 そして、リーゼが見張る撮影機とジクロのおかげで、その全てを押さえることができた。だからだろうか。焦りはあるが、ファイの思考も視界も先ほどとは比べ物にならないほど良好だ。


 おかげで、ジクロ達と別れてからエナリア中を調べまわること1時間ほど。


(――居た!)


 他でもないファイ自身の手で、第4層の端に近い大広間にある檻の中に居るミーシャを見つけるのだった。




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