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ほの暗い穴の底から“幸せ”をっ! 〜仲間に捨てられた薄幸少女剣士、異世界の少女とダンジョン経営を通して本当の“幸せ”を探す〜  作者: misaka
●安全確保する、ね

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第265話 聖女様と、アミス



 押し寄せてきた魔獣たちとの戦闘を終えたファイ達とアミスたち騎士団。


 怪我人の治療や損耗具合の確認をする騎士団をしり目に、ファイとニナはアミスから改めて事情を説明されていた。


「私たちを、助ける……?」


 目を瞬かせるファイに、アミスは「ええ、そう」と頷く。話しやすいからだろうか。今の彼女は王女アミスティとしてではなく、ただの「アミス」として話してくれていた。


「発起人はあの方……ノクレチア様ね」


 言いながらアミスが琥珀色の瞳で見遣ったのは、騎士の治療に当たるノクレチアだ。


 正確には、ノクレチアというのは立場の名前らしい。アイヘルムにおける王の呼称が「ゲイルベル」であるのと同じように、人々を癒す特異な魔法を使いこなす人物をアグネスト王国では「聖女」と呼ぶらしい。


「聖女はおおむね血筋で決まるのだけれど、その世代で最も強い治癒魔法の使い手の呼称が『ノクレチア』様なの。名前の由来は言うまでもなく、治癒魔法の名前ね」


 なお当代のノクレチアの本名は保安上の観点から非公開になっているらしい。いつかノクレチアが野に下った時、彼女の生活が害されないようにという配慮なのだとアミスは語った。


「ただ……ね。当代のノクレチア様は、それはもうお優しいのよ。恐らく人となりはファイちゃんに近いんじゃないかしら」


 そう言ってファイを見るアミスの顔は渋面だ。彼女の表情の理由が気になるファイだが、それはそれとして真っ先に否定しなければならないことがある。


「待って、アミス。私は優しくない。道具に“優しい”はない」


 伊達メガネをクイッと上げて、アミスに注意する。そんなファイにアミスが向けてくる視線は、ひどく白けている。その白けた視線をアミスはそのまま、ファイの隣に居るニナへと移した。


「……ねぇ、ニナさん。まさかとは思うけれど、ファイちゃんがこうなったのって貴方が原因じゃないでしょうね?」


 念のためと言ったようにニナに尋ねる。


「ち、違いますわ、えん罪ですわぁっ! ファイさんは元から、こうなのです! むしろわたくしもファイさんのこういったところには思うところが……」


 前半は両手を振って必死に、後半は眉尻を下げて力なく否定したニナ。なにやらニナが困っているらしいため、ファイもきちんと弁護する。


「そうだよ、アミス。道具が正しいを教えてくれたのは、組長たち。おかげで私は生きてる」

「『おかげ』ね……。はぁ……」


 頭が痛いというように首を振るアミスに、ファイの隣でニナも「分かりますわ、アミスさん……」と共感している。


 そんな2人を見ていると、なぜかファイはいたたまれない気分になってくる。ここは空気を変えようと、話題を元に戻すことにした。


「それよりアミス。ノクレチアが優しい、の、何が悪い……の?」


 ファイの知る限り“優しい”は褒め言葉だったはずだ。だというのに、アミスはまるでそれが悪いことのように言っているようにも思えた。


 自身の知識の再確認。また、どうしてここに居るのかの確認も兼ねて、アミスに聞いてみる。


「ああ、ごめんなさい。優しいのは良いことよ。それは絶対に揺るがないから、安心して?」


 ただし、優しさが人によっては迷惑になってしまうことがあるのだとアミスは言う。


(確かに。ニナも優しい、けど。もうちょっと雑でもいい……)


 自分にも思い当たることがあるために小さくうなずきを返すファイに、アミスは今度こそここに来るまでの経緯(いきさつ)を教えてくれる。


 事の発端は、先日のファイの撮影機の購入と王国民になることの宣誓だったそうだ。


「ざっくり4週間前くらいかしら。ファイちゃんがお買い物に来てくれたことがあったでしょう?」

「うん。撮影機を買って、王国民になった。あと、ティオと仲良くなった」


 数日間にわたるウルンでの滞在を、3つの短文に集約して見せたファイ。もちろん道中にはいろんなことがあったが、ひとまずはそれであっているはず。ファイの言葉に、アミスは「そうね」と頷いてくれる。


「で、ファイちゃんと一緒に居たいってティオちゃんが言ったから同道させたわけだけれど……」


 そこまで言ったアミスは、突然、ファイに向けて頭を下げた。


「ごめんなさい。良かれと思って貴方たちをこのエナリアに見送ったわけだけれど、それが良くなかったみたい。完全に、私の見通しが甘かったわ」


 どういうことなのか。ファイより先に口を開いたのは、ニナだった。


「――どういうことですか、アミスさん?」


 ごくありふれた問いかけだ。それこそ、ただの相槌にも聞こえるかもしれない。だが、アミスを見るニナの表情はわずかに険しい。声にも幾分か、非難の色合いがにじんでいた。


 そして、社交界で揉まれてきているだろうアミスだ。ファイとはまた別の理由で、人の心の機微には敏感らしく、ニナのかすかな怒りを聞き逃さなかったらしい。


「待って、事情を説明させて、ニナさん」


 拳1つで騎士団を壊滅させられるだろう赤色等級上位、あるいは黒色等級に匹敵する魔物であるニナに待ったをかける。その際、声に恐怖や焦りなどの感情を乗せなかった辺り。アミスが潜り抜けてきたのだろう修羅場の数がうかがえるだろう。


「王国は確かにファイちゃんの市民権獲得を喜んだわ。アグネスト王国には白髪の徴兵制度はないけれど、国内にどれだけの白髪が居るかは諸外国へのけん制になる」


 ただそこに居る。生活をしているだけで自国を守る盾にもなるし、他国を脅かす鉾にもなる。それがウルンにおける“白髪”という存在感だ。


 その点、ファイが王国民になったことで、アグネスト王国は対外的にかなり大きな優位性を取ることができたのだとアミスは言う。


「ただ、問題はファイちゃんがティオちゃんを連れて行っちゃったことなの」

「ティオを? なんで?」

「そうね……。ファイちゃんが“不死のエナリア”で生活をしていることはもう、王城の少なくない人が知っていることなの」


 対外的には伏せられているのだが、王城では公然の秘密となっているようだ。


「そして、そのファイちゃんが王国最年少の白髪の女の子を連れて帰った。その行先は当然、エナリアだっていうのもみんな、分かっているわ」

「う、うん。えっと、今もティオと一緒、だよ? あっ、フーカも」


 ファイがフーカの名前を口にした瞬間、アミスがかすかに目を見開いたのをファイは見逃さない。まして「そう、フーカも……」と独り言のようにつぶやかれた言葉に隠しようのない“安堵”がにじんでいたことなど、ファイでなくても気づいただろう。


 が、アミスはフーカなど気にしていないと言うように、話を続ける。


「さっきも言ったように、白髪の子はそこに居るだけで国を動かすだけの力を持っている。それが2人もいるとなれば、王国を含めた諸外国が動かないわけがないのよ」


 まずは外国だ。ノスヴェーレン帝国をはじめとする諸外国から、この“不死のエナリア”にやってこようとする探索者が増えつつあるらしい。


「多くの探索者はこのエナリアを純粋に攻略しようとしている人たちでしょう。けれど、外国からやってくる探索者の目的はこのエナリアの攻略と破壊なの」

「う、うん。でもそれは普通だよ、ね?」


 探索者の最終的な目的はエナリアを破壊した後に生じる高純度の色結晶の採掘だ。何がいけないのか分からないファイに、思わぬところから答えがもたらされる。


 なるほど、と、訳知り顔で頷いて見せたのはニナだ。


「ファイさんとティオさんは戦争の趨勢を左右するほどの大きな戦力になる。であるならば、2人が住むこのエナリアを崩壊して、エナリアもろともファイさん達を殺そうとしているのですわね?」


 ニナもまた、政争や戦争を数多くこなしてきただろうことはファイも知っている。その観点から、外国からやってくる探索者たちの目的を推測できてしまうようだ。


「その通り……なのだけど。よく気付けるわね、ニナさん」


 見た目によらないニナの頭脳に驚いた様子のアミス。舐めているともとれる発言なのだが、ニナは慣れた様子で「ふふん」と得意げな顔を見せる。


「相手の強力な駒を可能な限り排除しようとするのは定石ですわ! 正面からぶつからずともことを成せるのであれば、なおさら」

「そうだよ、アミス。ニナは凄い。舐める、は、ダメ」


 ここぞとばかりに自身の主人を持ち上げるファイに、ニナが「そ、それほどでもありますわぁ!」と謙遜に見せかけた自慢をする。


 だが、真正面から向けられるアミスの白けた目に気づいたのだろう。コホンと咳払いをすると、真面目な顔に戻った。


「と、なると、ですわ。当然、アグネスト王国も動かなければならないでしょう。具体的には……そうですわね。2人の保護。あるいは、このエナリアの保護、ではないでしょうか?」

「ええ、正解よ。今まさに、お父様……もとい、国王陛下がどっちの方針にするのか審議中ね。……って、これは国政にかかわることだから極秘事項だったかしら。できれば口外しないでね」

「『できれば』、なのですか?」


 秘密であれば絶対に言わせないと約束する方が良いのではないか。ファイと同じでそう考えたのだろうニナに、アミスはクスッと人懐っこく笑って見せる。


「『絶対に言わないで』も『できれば言わないで』も。そう大差はないわ。人って結局、言っちゃうときは言っちゃうし、言わないときは絶対に言わないもの」


 人間関係に冷めている、と言うわけではないのだろう。むしろ相手を――ファイとニナを――信じているからこそ、アミスはそう言っているのかもしれなかった。


「でも、アミス。どうするか話し合ってるのに、アミスはここに来てる。なんで?」


 具体的な方策が決まっていないのに、アミスは一足先にこのエナリアに来たということになる。相変わらず話が見えずに首をかしげるファイに応えてくれたのは、アミスではなくニナだった。


「ファイさん、ファイさん! そこにきっと、ノクレチアさんと言う方が関わっているのではないでしょうかっ!」


 どういうことなのか。ファイが疑問のままに。アミスがお手並み拝見というようにして見守る中。おとがいに手を当てるニナが口を開く。


「アミスさんは先ほど、“お優しい”という皮肉を申しましたわ。それに最初、ファイさん達を助けるため、ともおっしゃっておられましたわ。となると……」


 犯人を探る探偵よろしく、真剣なまなざしで考え込んでいたニナ。格好良い主人の顔に、つい、ファイがぽうっと熱を帯びた視線を向けてしまう中。


 やがてニナは、アミスがこのエナリアに来るに至った理由を口にした。




※いつも温かなリアクションを送っていただいて、ありがとうございます。とても励みになります。今後とも「良い!」と思っていただけるファイ達の姿を描けるよう、頑張ります。

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