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ほの暗い穴の底から“幸せ”をっ! 〜仲間に捨てられた薄幸少女剣士、異世界の少女とダンジョン経営を通して本当の“幸せ”を探す〜  作者: misaka
●攻略する、ね?

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第149話 本当にこれでいい、の?




 高さ30m以上もある、見上げるほどに巨大な石造りの両開きの扉。表面は年季の入った精緻な模様が刻まれており、湿気の高い階層ゆえに苔むしている部分もあった。


 この扉には取っ手が無いかわりに触れれば自動で開くようになっている。ただし機構を動かすためのエナが充填されるまで、再び扉が開閉することは無い。ゆえに一度中に入ってしまうと、扉を破壊する以外の方法で戻って来ることが難しくなる。


 そんな扉の先に在るのが、“階層主の間”と呼ばれる場所だ。


 同じ階層に居る魔物より、1色も2色も危険度が上の魔物が待ち構える部屋だ。しかも“部屋”と呼ばれるだけあって、大抵は閉ざされた逃げ場のない空間になっている。


「エナリアで最も死亡率が高い場所。……それが、階層主の間よ!」


 ファイがぼぅっと見つめる先。兜を取っているアミスはそのように、扉と階層主の間についての説明を締めくくる。場所は第10層にある巨大扉のすぐ脇。待ち構える階層主との戦いに向けて、ファイ達は休憩をしていた。


「アミス、アミス。教えてくれてありがとう。……けど、その説明3回目」


 これまで上層にあった草原の階層と大樹林の階層。2つの階層主の間の前でも、アミスはほとんど同じ説明をしてくれていた。どうして繰り返すのか。フーカを挟んで座るアミスに、ファイは金色の目を向ける。


 と、返事があったのは横を向いたファイのあごの下の辺り。ファイとアミスに挟まれる形でちょこんと座っているフーカだった。


「ね、念には念をですよね、アミス様ぁ?」

「そうよ。それにね――」


 そこで少し溜めるような間を置いたアミスがにやりと笑ってファイを見る。やがて口を開いたアミスの顔には、


「――この階層の主は魔獣じゃなくてガルン人なの!」


 これ以上ないくらいのドヤ顔があった。


 それもそのはず。ファイ達が速度を意識して最短道程を歩いてきたこと。また、数だけは多い魔獣たちの方に注意を向けていたこと。そして、従業員であるファイにとっては悲しいことに、このエナリア自体にそもそもガルン人が少ないことが幸いしたのだろう。


 この階層に至るまで、ファイ達は一度たりともガルン人と戦闘をしていなかった。


 つまり、ファイ達はこのエナリアで初めてガルン人と戦うことになる。珍しいという意味で、アミスは自慢げな顔をしているようだった。


「ガルン人の、階層主……」


 ルゥのことだろうな。そう思いながらつぶやいたファイの言葉を問いかけと取ったのだろう。得意げな顔はそのままに、アミスが指を立てて情報共有をしてくれる。


「そうよ。前回と同じなら、空を飛ぶ黒髪の角族ね。2体の猪型の魔獣を従えていたわ」


 まずは戦略を立てる上で重要になってくる、敵の特徴と構成。そのアミスの情報を補足するのは、フーカだ。


「と、取り巻きの方は猛猪(もうちょ)の系統ですねぇ。体長は5~6mほど。巨体を活かした突進と、鋭い牙を使った突き上げが主な攻撃ですぅ」


 その他、幾重にも別れた尻尾から火の玉を飛ばしてくるらしい。推定される危険度は黄色等級の中位から上位。光輪の面々が“少しだけ苦労する”ていどの魔獣らしかった。


「ひ、火の玉で相手……フーカたちを誘導して、逃げ場を制限したところに突進と突き上げ。これが基本的な戦い方でしたねぇ。なので、まずは厄介な尻尾を斬り落として、猛猪の戦闘の幅を縮小させるのが良さそうですぅ」


 そんなフーカの説明を、ファイは瞳を輝かせながら聞く。


 階層が多ければ多いほど“効率”が求められるのがエナリアの攻略だ。可能な限り戦闘を避ける手段も取られる中、次層へ進むために必ず戦わなければならないのが階層主だ。だからこそ、強力な階層主をいかに損耗少なく突破できるか、探索者たちには試行錯誤が求められる。


 今のアミスとフーカによる「猛猪の倒し方」はまさに、ファイにとって未知である“エナリア攻略”の最たる例である気がしたのだ。


 こうなってくるとファイが気になるのは友人・ルゥをアミス達はどうやって倒すつもりなのか、だ。


「えっと、じゃあフーカ。ル……角族はどうやって倒す?」


 無表情ながら好奇心で瞳を輝かせるファイ。その問いかけに、なぜかアミスとフーカが目を見合わせる。2人の顔に浮かんでいるのは“困惑”だろうか。だが次の瞬間には困ったような顔を見せた。


「――それが、その角族の女については正直、分からないことが多いの」


 どうやらアミス達は、ルゥの攻略法を思いつけずにいるらしい。というのも前回、ルゥは基本的に高みの見物を決め込んでいたらしいのだ。


「ほとんど戦闘に介入せずに、たまに手に持った銃で牽制の攻撃をしてくるだけ。隙を見せたらそりゃあ軽く攻撃もしてきたけれど……」

「は、はいぃ……。基本的にずっとフーカ達を観察していましたねぇ……」


 結局、アミス達が把握しているルゥの力は飛行能力と治癒能力だけらしい。その話を聞く限り、ルゥはアミス達に毒を使わなかったのだろう。理由は恐らく、強力な自身の毒がウルン人にどれほどの威力を持ってしまうのか、測りかねたからだと思われた。


(さすがルゥ。優しい……)


 相変わらず優しい角族の友人の振る舞いに、ファイが内心で笑みをこぼしていた時だった。


「えっと、ファイちゃん。聞いてみてもいいかしら?」


 アミスが今度はコチラから質問良いだろうかと、聞いてくる。ファイが頷くと、アミスがためらいがちに聞いてくる。


「ファイちゃんはニナちゃんと一緒に第13層に住んでいる……のよね? だとしたらいつも、どうやって階層主の間を突破しているのかなぁ、なんて……」


 エナリアに裏の通路があることを知らないアミス達にとって、下層に行くためには必ず階層主の間を突破しなければならないはずなのだ。


 そして、どうやらアミスはファイとニナが第13層で一緒に暮らしていると思い込んでいるらしい。アミス達からすれば、ファイもこの階層主――ルゥと戦って、突破しているということになる。それも、何度も。


「これまでの階層はともかく、さすがにこの階層の階層主を単独で何度も倒しているわけじゃない……わよね? それに……ねぇ、フーカ?」

「ふぇ? あ、はいぃ。ファイさんは13層に住んでいる……。なのにどうして“8層までの道のりしか知らないのか”ですかぁ?」


 アミス達はファイが8層以下について知らないことにずっと引っかかりを覚えていたらしい。他にも、ファイがこの階層の階層主について聞いてきたこと。つまりは知らなかったことが、アミス達を一層、混乱させているらしい。


「エナリアにはわざと落とし穴に落ちて階層主との戦闘を避ける、なんていう裏技もあるわ。だから、もしそれに似た裏技があるのだったら、余計な戦闘をせずに私たちももっと下の階層に行けるはずなのだけど……?」


 最弱のフーカを抱えている手前、死の危険を孕む戦闘はなるべく避けたい。アミス達はそう考えているようだった。


 だが実際には、ファイはニナと第13層に住んでいるわけではない。そもそもの話、ファイが13層を目指しているのは監視用のピュレが稼働できるようになる階層がその階層からだからだ。


 ――まずは遠隔でアミス達の様子を見てもらい、信頼できる人物であることを示す。あとはニナ達の方から会いに来てもらう。そこで改めてファイはアミス達を信頼できる人物だと紹介し、一緒に働く。みんな笑顔。みんな、幸せ。


 ファイが考えていたのはそんなフワッとした作戦だった。しかし、


『そうしたら多分、いろいろ? 上手くいく、と、思う』


 ファイ自身もそう言っていたように、具体的な方策などあるわけもない。当然、そこかしこに欠陥がある。


 例えば先ほどの最短道程の話だ。ファイは9層~13層までの“表”の最短道程を知らない。ゆえにアミス達の知識を借りたわけだが、彼女たちも第11層から第13層までの道のりは知らないだろう。


 つまりこれまでとは異なり、第13層に行くまでにはかなり時間がかかってしまう。また、どうにかピュレの監視範囲に入ったとしても、通信室に誰も居ない可能性もある。誰かいても、見落としてしまう可能性も大いにある。


 そうなった場合、ファイはニナ達に見つけてもらうまで、アミス達を連れてピュレの監視範囲をうろうろしなければならない。当然、ニナのもとへ帰るのも遅くなるし、数日間放浪することになれば食料の問題もでてくる。ピュレ越しにどうやって、ニナにアミス達が信頼できる人物であると示すのかさえも曖昧だ。


 ――ニナの役に立ちたい。


 その想いと勢いでここまで来たファイ。だが、ここにきて初めてアミス達がファイに踏み込んだことを聞いてきた。結果、今回の作戦において必要な知識や配慮が足りていないことに、ファイは本当に今さらになって気付いてしまう。


「ファイちゃん。貴方(あなた)はいつも、どうやって第13層に行っているの?」

「あ、う……。えっと、えっと……ね?」


 必死に言葉を探して、その実、何を考えているのかも分からない状態のファイ。俯きながら視線をさまよわせ、呼吸も荒くなる。いつになく混乱を表にするそんなファイの姿を見かねたのだろうか。


「――そうよね。ごめんなさい」


 アミスがそっとファイを抱きしめていた。彼女が身にまとう鎧の硬質な感触がファイの全身を包み込む。


「あみ、す……?」

「良いの、大丈夫。混乱させてしまって、ごめんなさい。そうよね。ニナの目的を思うと、階層主との戦いを避ける方法なんて、話させるはずないわよね。私の甘えだったわ」


 質問に答えられない自分(ファイ)が悪いはずなのに、なぜかアミスの方が謝罪の言葉を口にする。


 これまでもそうだった。ファイが上手く言葉にできずとも、ファイよりも賢いアミスとフーカが全てを察してくれた。


 ただ、なぜだろうか。


「さぁ! このお話はこれでお終い! それじゃあさっさと階層主を倒して、ニナちゃんの所に行きましょう! あ、ファイちゃんも、可能な限りで良いから手伝ってよね?」

「え、あっ、うん……」


 言うだけ言うとファイに背中を向け、兜をかぶるアミス。その瞬間、彼女の横顔に誰へのものとも分からない怒りの感情が浮かんでいるのを見たとき、ファイの胸が妙にざわついた。




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