やっぱこっち
私は生身の体で食事をとっていた。
久々に感じる自分の体での味と満腹感。これは感動するものがある。消化器官は弥勒さん曰く、人間と同等の消化能力があるといい、排せつ物も出るのだという。
体の構造は違えど、ぎりぎり人間の体といえるものらしい。
「ふぅ、ごちそうさまでしたっと……」
メニューはとんかつだった。
さっくりと揚げられたサクサクのカツに特製のソースが美味しかった。肉もジューシーでよかったなぁ。
「それにしても……食べた後って眠くなるよなぁ」
「眠気もその体であるか。ふむ……」
「三大欲求のうち二つは満たしましたね」
食欲、睡眠欲は十二分にある。残りは性欲なんだけど、私自身そこまで性的に興奮するようなものはなかったからなぁ。
もともとそういう性のほうには興味が薄いというのもあるけど。
「それで、電脳のほうにはいつ戻る?」
「……今かな?」
ゲームがやりたいというのもある。それに、久々の生身の体は疲れた気がする。
一年ぶりくらいの生身の体だし、この体はなんだか疲れやすい。私は元居た場所に戻り、酸素吸引装置を付け再び潜り、弥勒さんのスマホの中に移動した。
うん、こっちのほうが自由に動ける。
「こっちのほうが落ち着く……」
「そっちで慣れたからだろうな」
生身の体はしばらくいいかな。食べるだけ食べたし。
私はスマホの中でゆうゆうと暮らすのがお似合いかもしれないな……。
「じゃ、戻るか」
「はーい」
「すっかり、俺に気を許してくれたようでよかったよ」
「気を許すしかないじゃないですか。どうせ私は手出しとかできませんし」
ま、弥勒さんもそこまで悪い人ではないということはわかっているから。
昔から優しい人だった。女性嫌いだと思わせるような節はあったけれど、私は女性とみられてなかったのか小さいころから優しくしてくれる人だった。
誰にも褒められなくて、誰にも認められなかったこんな私を最初に認めてくれたのは弥勒さんだ。信用できないわけがない。
弥勒さんは車に乗り込み、会社へと戻っていった。
用事は一日で終わり、帰れるのだが、ミノルに数日間といったのでしばらくいてほしいという気持ちはありそうだ。
私は社長室につくと、モニターのような縦長の液晶があった。
「しばらくこれでもいいかな」
「いいですけど」
私はつながれたコードを経由してそっちの液晶に入る。
スマホと同じように縦長だけど、スマホより縦長い。こっちは等身大の私が映されているようだ。ちょっと狭いが、生活には困らないな。
「俺のスマホの中だと電話とかよく来るからな。うるさいだろうしそこで頼む」
「いいですよ」
私は自分に用意された入れ物で数日間暮らすようだ。
ゲームしたいが持ってきてないからしばらくは何も……。
「あ、そうだ。ネットとかネットゲームとかはその中にデータとしてあるからやっていいからな」
「そうなんですか。ありがとうございます」
じゃ、お言葉に甘えてやらせてもらおう。




