夜桜 時雨の消滅
タイムリミットまであと二日。
ミノルはわんわんと泣き続け、学校にも行かずベッドで蹲っていた。
ドアの外からご飯、置いとくわよというミノルの母さんの声が聞こえる。
「ミノル、なんか食べろよ。昨日から食ってないだろ」
「……いらない」
「あのなぁ。私はともかく、お前は生きてる人間なんだから何か食べないと……」
「私も死んでシグレといく」
「バカが……」
ミノルはもともと私の死を受け入れられずに私を作った。だがしかし、つい先日消そうとしていたじゃないか。
「ミノル。お前、それで死んだら絶交してやるからな」
「……シグレ死ぬんなら友達じゃなくなるもん」
「そういう理屈じゃねーだろ。死んだら終わりってわけでもねーし。それに、私が死んでもお前らは覚えててくれるだろ? それだけでいいんだよ」
「シグレはっ……! シグレは怖くないの!?」
ミノルは泣きながら私の方を見る。
「そりゃ怖いよ。死後の世界がどうなってるのか、私はどうなるのか分からないしな。異世界に転生してチートでも貰って無双して来ようか……とか、そんなことを悠長に考えられるくらいには受け入れてるけどな」
「うちは……うちはシグレみたいに受け入れられないよ……」
「…………」
受け入れられない、か。受け入れられる方が間違いだと言える。人の死は受け入れられないものだ。
「こんなの理不尽だよ……。なんでシグレだけ……」
「死ってのはそういうもんだろ。死はいつだって理不尽に訪れるもんさ。残されるお前らはそれをどうやって受け止めるか。それが大事なんだよ」
交通事故で死ぬのだって、病気で死ぬのだって全部理不尽。死は理不尽なものなのだ。いつだって、誰にだって等しく訪れるもの。
それとどう向き合うか。それはいつまでも課される私たちへの課題と言える。
「ミノル。お前は私の分まで前を向いて生きろよ。お前はせっかく生きてんだから」
「シグレ……」
「私が今生きているのは一抹の夢なんだろうな。電脳少女はVRMMOの夢を見るか?ってね。ミノルは電気羊は知らないだろうけどな」
「…………」
「そうだなぁ。タイムリミットまでこうして暇してるのもアレだし、なんかタイムリミットで死ぬのは癪だし……。ミノルの手で私を消してよ」
私がそう言うと、ミノルは何も言わない。
だがしかし、私の意見を尊重したいのか、体はパソコンのほうに向いていた。
パソコンと向き合い、私のスマホをパソコンに繋げる。
「……………………」
「ま、そうだな……。消すのは今じゃなくてアイツらをまた集めてからだな。昨日は言いたいことをアイツらが言ったが今度は私が言う番だ。別れの言葉を送って見送ってもらいたいしな」
「……ん」
ミノルは頷き、携帯を操作していた。
そして、十分後にはベルル含めた四人が制服のままやってくる。
「消すって本当ですか? ミノルさん」
「ついに受け入れられたんだね」
「受け入れられてないよ……。でも、こうしてやらなきゃシグレは……満足しないもん」
「そうそう。私が消せってね。私はこれでようやく死ねるんけだ」
私は笑って言うが、四人は笑っていない。
「なぜ笑えるのか……。ボクはそれが疑問だよ」
「そりゃ、泣いたってしょうがないからな。それに、もともと私は死んでいた身さ。やっとかという気持ちの方が大きいね」
「…………」
「ま、とりあえずサヨナラだ。私も急にサヨナラが決まって上手く言葉を整理できてないんだけどな。とりあえず、楽しかったよ。ミコト。女優業頑張れ」
「……ああ」
私はそれぞれに言いたいことだけを言った。
頑張れと激励を、楽しかったと感想を。ただ淡々と連ねていった。
ハルサメは顔を横にそらして私を見ようとしていない。けれど、少し涙のようなものが見えた。
「また、来世でな。来世では多分チートもらって無双していると思うから近寄りづらいと思うけど」
「…………」
「ま、バイバイ」
私がそう言うと、私の体がどんどん消滅していくのだった。




