考古学者
私らは王城の書庫にやってきた。
「よく入れるよなお前……。俺なんか門前払いされたってのによ」
「一応入れるように許可してもらったからね。前に」
書庫で大空洞のことを調べようと思っていたが、それらしきものは全く見つからない。
私はとりあえずそれっぽいものをただ手に取り、開いてみた。
「そういえば、ボクに気になることがあるとか言っていたね? 何の用だい?」
「ん? ああ、ちょっとあんたの素性が気になってな。あんたってもしかして……女優の椎名 尊じゃねえのかなって思ってさ。いや、顔が似てるもんでよ」
「よくわかったね。ミコトだよこいつ」
「ああ、そうさ! 高校生女優の椎名 尊さ!」
ミコトがそういうと、クリンズは驚いた顔をしていた。
「うっそ、まじかよ……。ゲーム内でまじで会えるとは思ってなかったぜ! なぁ、あとで握手してくれよ!」
「構わないよ。ファンサは大事だからね」
「それよりお前らも調べろよ……」
私は本を閉じて本棚に戻す。
大空洞の話は載っていなかった。私が悩んでいると。
「あー! 天使様! 来てたのか!」
「なんだこのガキんちょは」
「ガキんちょじゃないぞ! 俺はこの国の王子様さ! 天使様、どうしたの?」
「いや、地下大空洞についてなにかないかなって」
「地下大空洞? あー、なんかそういう言い伝えあるな! それを研究している考古学者が城内のどこかにいた気がするな……」
と、ハインリッヒがそういうことを口にした。
「ハインリッヒ。その考古学者のもとに案内してくれないか?」
「天使様の頼みならいいぜ! ついてきな!」
「よし、クリンズ、ミコト。行こう」
王子は高らかに歩き出す。私たちはその王子のあとについていく。二階へ上がり、なにやら奥のほうの廊下に向かっていった。
研究棟と書かれた場所。その研究棟の中の奥の一部屋に考古学室という部屋があった。
「よー! キューいるか!」
「ひゃああ! 王子様! ノックもなしに開けるのは駄目です! びっくりしちゃうので!」
と、眼鏡をかけた女性が飛び上がってこちらを見ていた。
「って、天使様!? 実在したんですね!? 王子様! もしかして天使様を見たいという私の要望を!?」
「叶えてやろうと思ったわけではないが、まぁ、かなえられたのならよかった! キュー、ちょっと聞きたいことがあるんだって!」
「あ、はい! じゃあちょっと資料片付けますね!」
といって、テーブルの上に積み上げられた紙の束をどこかに移動させていた。私たちは部屋に通され、椅子に座り、お茶を出される。
私は思いっきり上座に座らされていた。
「いやぁ、天使様……実在したんですね……」
「わかるんだ。有翼人と間違われることもあるけど」
「この純白の翼! だれがどうみても天使ですよ! わっかもちょっと見えますし!」
「そろそろ自己紹介してやれよー」
「あ、そうですね。私はジュルデン砂漠国で考古学者を務めておりますキュー・キューっていいます。それで聞きたいことがあると言いましたが」
「地下大空洞についてなんだけど」
というと、目つきが少し変わった。
「随分と難しいものを……。探してるんですか?」
「あ、うん。書庫とかにもそういうヒントになるものがなかったし考古学者なら何か知ってるって王子様がね」
「たしかに知ってることはありますが……」
何か知ってることはあるようだ。ただ、難しいものを……といっていたので、なんか探すのが難しくなってきたな。
「大空洞の場所、知ってんのか?」
「いえ? 知りません。大空洞、場所が曖昧なんですよ。書庫になかったのは大空洞自体、書物に記されてないんです」
「記されてない?」
「大空洞はいわゆる言い伝えというものでして、砂漠のどこかに大空洞があるっていう言い伝えが広まっただけで、存在するという確たる証拠はないんです。起源は砂漠を歩いていた行商人の姿が見えず、帽子だけが地面に落ちていたから穴に落ちたんだと誰かが言いふらしたっていうことからですね」
となると、ガセの情報ということも大きいのかもしれないな。
「何かヒントになりそうなこととかないの?」
「ない、ですね。一応場所は私も知ってはおりますが、以前試した時は落ちもせず、ただひたすら砂の上でジャンプしていただけになりました」
「じゃあ、その場所に案内してほしい」
「わかりました。では準備いたします」
そういって、キューはいそいそと準備し始めた。




