映画の内容
映画の内容はというと、まぁよかった。
あらすじは交通事故で体が損傷し、脳だけが無事だということになった男子高校生が電脳アバターというものに意識を引き込まれ、スマホの中で生きていく物語だった。
群像劇みたいなもので、電脳アバターとなった少年の葛藤、その友人の葛藤。電脳アバターの反対派の意見、デモ。賛成派のツイート。どれも実際にありえそうなものだと思った。
「……あの、映画の主人公さん、まんまシグレさんですよね?」
「そう?」
「いいところの出身で、家族とはそこまで仲いいっていうわけでもなくて、中学生のころ盗撮事件の犯人という冤罪をかけられて……というのは」
「私の場合は冤罪じゃなくてマジで暴力ふるったけどね」
でも、たしかに似たような境遇ではあった。
私のスマホで映画をサーチしてみると主人公の境遇がこれでもかっていうくらい可哀想に見えてきたという声もあった。
これって私が可哀想って思われてるって捉えていいの?
「でも……映画の内容はすごかったですね。電脳アバターが身近にいる身としては考えさせられました。友人さんの気持ちもすごくわかります。肉体があるということの幸せさも……」
「ボクとしてはヒロインの演技がちょっと気になりはしたね。ところどころ棒読みだった」
「ミコトさんはそこですか……」
「ボクも演者だからね。演技を見るのは当然さ」
見終わった後はちょっとだけ暗い雰囲気があった。
いつものようにミノルは騒ぎだしたりはせず、ただただ黙っていた。いつもなら帰ろーとかはしゃぎだすのにおかしい。
「ミノル、どうしたんだよ」
「え、あ……いや、うちもなんか思うところあって……」
「ミノルが? 頭でも打った?」
「もー! うってないー! うちだって電脳アバターを作ったことが正しいのかってたまに悩むもん。たしかにSNSでたまにサーチすると反対意見の人と賛成意見の人もいて……。映画の内容と同じなんだもん」
「まぁ、賛否があるのは仕方ないことだとは思うけど」
「それでもだよ……。うちは良かれと思って作った。シグレともーいちど会いたいと思って作った。それを反対されるのはなんかいや……」
まぁ、自分のしたこと自体を否定されてるような気がするんだろうな。
生命倫理に反している、自然の摂理に反しているというのは至極まっとうな意見であり、反論する余地はない。
反対派は理路整然と論理を述べ、賛成派はひたすら感情論を述べている。感情をとるか、論理をとるかの二択なのだ。
「気にしないほうがいいでありますよ」
「でも……」
「映画では少なくとも賛成意見もありましたしね」
「そうさ。ま、気にすることはない。もう夕方だ。早く帰ろうか」
「そうですね……。と、ベルルさん?」
ベルルは立ち止まっていた。
『何の話してるのかわかってないからついていけない! 日本語まだ勉強中なのにフランス語字幕もないなんて!』
ベルルはそもそも内容がそこまで入ってないようだ。日本語を勉強させないとな。




