百合の波動を感じる
その黒陣営の男はよぅ、と手を挙げて私たちに味方だとアピールしているように見えた。
男はゆっくりと近づいてくる。そして、その瞬間、私にナイフを振り下ろしてきたのだった。攻撃した瞬間、その男の黒いゼッケンの色がはがれ、青陣営という表示に戻る。
「案の定かよ!」
「ちっ、不意打ちができなかったか……」
私めがけて振り下ろされたナイフ。
怪しいと警戒していればこんなことにはならない。
『で、ベルル。お前はなぜそいつの味方をしている? 討ち取ることも可能だったはずだろ』
『……やっぱりか』
『あはは……。シグレさんにはばれちゃってた』
怪しいと思っていた。ベルルを黒陣営で見たことがなかったからだ。
ベルルのゼッケンが青に変わる。偽装していたようだ。
『フランス語、喋れるんだな』
『大学ではフランス語を専攻しているからな』
『へぇ。ま、味方だと思っていたやつにも裏切られたし、逃げるとしたいけど……。ベルル、なぜ私を殺さなかった?』
『好きな人を殺せるわけないじゃない!』
……それだけかよ。
『好きな人?』
『ああ、シグレさん。あなたは私の最愛の人……。私はそんな人を守りたい。殺せないぃ~~!』
『百合の波動を感じる……。殺さないでいておいてやるからイチャイチャしろよ。俺は見ておいてやる』
『しねえよ! お前おかしいよ! 私はノーマル! ちゃんと男が好き!』
『くっ……。お前は受けとなれる逸材なのに!』
『黙れ!』
不意を突くという知的な作戦をやる男がこんなのとは思わねえだろ!
『ま、しょうがない。百合の波動を見せてくれたら俺らは攻撃しねえのによ……』
『抱き着いてこーい!』
『お前、それ罠だろ』
『じゃあナイフを捨てるし、剣も捨てる。イチャイチャしてくれ』
と、ナイフを捨てた。
勝利より百合をとるとか頭おかしくない? ただ、攻撃しないというのならそれを信じてイチャイチャするべきなのだろうか。
私は、ゆっくりとベルルに抱き着いたのだった。
『うひょおおおおおおおお!!!』
『美少女と美少女の百合! スクショスクショ!』
『あとで私にも送って!』
なんだこいつら。
『シグレさん……。やっぱ間近で見ると顔がいい……』
『…………』
『そのぶすっとした不本意な表情も……』
『いいねいいね。やっぱ受けとしていいね!』
と、なぜかスクショ撮影会が始まっていた。
すると、カイザーとクリンズが現れた。青陣営の女の子と抱き合っている私を見て、声を上げる。
「なにしてんだ?」
「……お前そんな趣味が」
「知らない人たち! 君たちもこの百合を見ていかないか!?」
「って、なんで青陣営と仲良くしてんだよ! てか、どういう状況だよ!」
ナイスツッコミ。私もそう思ってる。どういう状況だろう。
「おい、お前……。こうやって羽交い絞めにして身動き取れずにさせて旗取るつもりだろ」
クリンズとカイザーは拳を向ける。
「俺は今武器を持っていない。しいて言うならスクショしかしていない」
もう助けて。
「俺らはシグレさんに手出しはしない。もともと勝つためにやってたけど、この百合を見て手を出すのはこの百合の片方を曇らせてしまう」
「何言ってるのか全然わかんねえ」
「だがしかし、ここは退くしかない!」
と、いうと、ベルルは手を放す。
『堪能したー! ありがとー! 愛してるーーーー!』
と二人は走って逃げていったのだった。
「なんだったんだ今の……」
「わからない……。けど、なんか私って本当に女にモテる……」
「はっはっは! かっこいいからな!」
可愛いって言ってほしいんですけどね。
まだまだ続けたいつもりはありますが、もしかしたらもう少しで終わるかも……。
全部出し切れてはいませんが……。




